■世界の債券市場で逆イールドが広がっている
ファンダメンタルズは最悪にみえる。なにしろ、逆イールド(長短金利差の逆転)は世界の債券市場で広がりをみせ、米国のみでなく、英国、カナダ、ノルウェーでもみられ、中国でさえ長短金利差が接近している。
米10年物国債利回り(米長期金利)は一時1.495%まで低下、3年ぶりに1.5%の大台割れとなり、このままでは2016年安値(1.382%)に接近、またはそこを割り込むことも連想される。
(出所:Bloomberg)
長期金利が急低下し、逆イールドが発生することは景気後退(リセッション)のシグナルと解釈される──経済学の教科書にはこのように書かれており、市場参加者なら誰でも緊張感を持ち、一層のリスクオフを覚悟しているところだ。債券市場が発生したシグナルを、誰も軽視できないからである。
【参考記事】
●株価を暴落させた逆イールドとは? 逆イールドは景気後退の予兆って本当?
それにしても、今の債券市場を「完全におかしい」とみる市場関係者は少なくないようだ。というのは、「悪名高い」日本国債でさえ、欧州の最高格付け債市場のどこよりも高く、「魅力的な投資先」としてみる投資家が現れたからだ。
ドイツ、フランス、オーストリア、ベルギーなどの国の国債利回りが軒並みマイナス圏に沈み、5年もの日本国債は、マイナス幅が同じ年限のドイツ国債より小さいから、「選好」されたというわけだ。
(出所:Bloomberg)
要するに、“世界的な債券逆イールド”は、長短金利差のみでなく、「デフレの象徴」であった日本国債利回りとの逆転でもみられ、市場参加者の総意として「市場心理がいかに悲観的か」を示すバロメーターとなっているのだ。
■問題山積でも底堅い米ドル/円、どちらが真の示唆?
無理もない。8月14日(水)に米国株がまた大きく反落し、世界同時株安が示唆していたように、経済と政治の変調が激しく、また不透明感が一段と増しているからだ。
悪化したファンダメンタルズとしては、中国、ドイツの最近の経済指標の悪化が代表的なものだが、中国人民元安がもたらした通貨戦争の思惑も根深いと言える。
米中摩擦による中国経済減速は、日本を含め、対中輸出国への影響が大きい。トランプ米大統領の「自国優先主義」が危惧され、諸国の金融緩和戦争も目に余る。
香港騒乱の地政学リスクに加え、アルゼンチン危機の再来に見られるポピュリストの台頭などなど、不安要素が数えきれないほど噴出しており、リスクオフの流れについていくしかないという考え方自体、むしろ当然の成り行きと思われる。
さらに、お盆といえば、日本市場の薄商いが連想され、また、投機筋の跋扈がウワサされる。こんなにファンダメンタルズが悪化しており、混乱の最中で暗い見通ししか聞こえない今年(2019年)のお盆に、仕掛け的な円買いを実行すれば、ほぼ確実に利益を上げられると思われても、ロジック的には間違いとは言い切れない。
しかし、一部市場参加者の意表を突く形となったが、米ドル/円は執筆中の現時点で106円の節目を回復しており、この間の安値(8月12日)も105.05円に留まっていた。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
つまるところ、最悪の市場環境や暗い市場心理と相異なり、米ドル/円にみる円高のモメンタムは極めて限定的であり、また、為替相場全体の変動率も8月にしては小さい。
ここで考えなければならない問題はただ1つ、どちらが真の示唆か、ということに尽きる。
言ってみれば、周知のとおりのファンダメンタルズなら、米ドル/円は今100円の大台にトライしてもおかしくなかろう。
しかし、目先、2019年1月安値割れを回避しているようにみえる値動きがホンモノであれば、逆に相場の内部構造をより鮮明に指示してくれているのではないかとみる。
その内部構造については、先週(8月9日)のコラムで…
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