■新型コロナに対して金融市場はSARSを前提に動いていた
誰もがまったく予想できなかったことですが、中国・武漢から発生した新型コロナウイルス「COVID-2019」は、瞬く間に世界中に感染者を増やし、現在のところ、マーケットの最重要テーマとなっています。
新型コロナウイルスに対して、当初は参考にするものが2003年に中国・香港で流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)しかありませんでした。
2003年4月、WHO(世界保健機関)は香港で流行している肺炎の原因がSARSであるとの見解を発表、7月には終結宣言を出しました。
その時の香港の状況は、感染者をホテルに隔離したり、大変ではありましたが、比較的短期間のうちに終わらせることができました。
【参考記事】
●コロナウイルス騒動で景気低迷!? 隠れQE打ち切りに言及するのか? FOMCに注目!(1月27日、西原宏一&大橋ひろこ)
新型コロナウイルスに対して金融市場は当初、SARSと同じだろうという観測で動いていました。
中国やアジア経済には大きな影響を与えるが、グローバルな影響は一時的であり、特に、遠く離れた米国には影響はそれほどないとの前提で動いていました。
それゆえ、NYダウは2月12日(水)に2万9568ドルという史上最高値を示現しました。
(出所:Bloomberg)
■新型コロナの影響が米国にも及んだことでリスクオフに
しかし、2月21日(金)発表の米サービス業PMIが49.4と前月53.4から急落し、2013年10月以来の低水準となったことで、新型コロナウイルスの影響が米国にも及び始めたことが確認され、米国株は急落を開始しました。
その後の動きは、皆さんよくご存知のとおり、NYダウは5000ドルほどの下げ幅となり、2万4681ドルまで下落して、リスクオフ的な動きが広がりました。
(出所:Bloomberg)
米長期金利は1.00%前後へと急低下し、米ドルは広範に下落。ユーロ/米ドルは1.0778ドル前後から1.12ドル台ヘ上昇、米ドル/円は112円台から107円割れまで下落しています。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
■2020年の経済は事前の見通しとまったく姿が違うものに
G7(先進7カ国)は緊急電話会議を行い、すべての適切な政策手段を用いて世界経済を下振れリスクから守るとする共同声明を発表しました。
これを受けて、米国は緊急のFOMC(米連邦公開市場委員会)を開き、0.5%もの大幅利下げを決行しました。
※FFレート誘導目標レンジの上限を掲載
※BloombergのデータをもとにザイFX!が作成
金融市場のみならず、我々の日常生活も非常に大きな影響を受けており、「不要不急」の外出は控え、コンサートなどのイベントは次々と中止されています。
安倍政権は全国の小中高に一斉休校を要請、子どもの預け先に多くの方々が苦労されました。
2020年は米中貿易問題も落ち着き、2018年から始まった景気減速も落ち着き、少し経済は上向くのではないかと見られていましたが、新型コロナウイルスの影響でまったく違う姿となっています。
■新型コロナの影響でマーケットは今後どうなる?
問題は、この新型コロナウイルスの影響でマーケットがどうなるのかでしょう。今後想定されることを以下に挙げます。
(1)まず、この新型コロナウイルスが、あとどのぐらい感染が続くのかですが、これは誰にもわかりません。医療の専門家でもわからないでしょう。中国における感染にはブレーキがかかりつつあるようには見えますが、中国以外で、韓国・イタリア・イラン、そして我々の日本でも感染は広がりつつあり、新型コロナウイルスの感染の主戦場が中国からそれ以外に移ってきました。
(2)各国の経済成長は、間違いなく低迷します。日本は2019年10-12月期のGDP速報値が年率マイナス6.3%と急減しましたが、2020年1-3月期もマイナス成長となることは確実でしょう。イアリアは観光がGDPの6%以上なので、経済には深刻な影響が出ます。また、欧州内は人の移動が自由であることから、イタリアからフランスや他の国に感染者は拡大することが目に見えています。欧州はコロナの影響で0.3-0.6%程度、成長率が低下しそうです。米国への影響は、まだ感染が始まったばかりなのでなんとも言えませんが、サプライチェーンの混乱なども含めて、相当程度の影響は必ずあります。
(3)成長率低下に対応し、各国は金融緩和を進めます。米国は0.5%利下げしましたが、4月、そして6月のFOMCでも0.25%ずつ下げて、合計1%の利下げを敢行しそうです。欧州は金融緩和余地がないので、おそらく0.1~0.2%程度のマイナス金利深堀りでしょうか。英国は0.5%利下げするでしょう。豪州も0.25%利下げしましたが、あと0.5%下げ余地があります。それはニュージーランドも同様でしょう。カナダは0.75%ほど、米国に合わせて利下げします。日本は欧州同様、緩和余地がないのですが、米ドル/円の動きによって、何らかの措置をとるでしょう。
(4)金融緩和余地のある国の金利もゼロ%の方向に収れんするので、世界中で金利がゼロ近辺となります。その時、金融緩和余地のない、欧州と日本は苦しい立場に追い込まれます。ユーロ/米ドルの上昇と、米ドル/円の下落は避けられないのではないでしょうか。
■米ドル/円は100円割れを軽く実現するかも
市場ではGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が依然として米ドル/円を買っているという観測が出ています。
年金は為替ヘッジをほとんどしないので、GPIFが運用する巨額の資産の4割は海外にあります。
日本で運用してもリターンがないので外に出ていかざるを得なかったのですが、海外の金利もゼロ方向に潰れて行ってしまう時、外にも行けなくなってしまうことになります。
新型コロナウイルスの影響が長期化し、各国金利がゼロに収れんし、株価も振るわない状況となった時、GPIFは外の資産をむしろ為替ヘッジしなくてはいけなくなる時も来るかもしれません。
先週のコラムでも書きましたが、危機にある時、日本は外にある巨額の債権を円に戻す行動に出やすくなります。
【参考記事】
●「342兆円」VS「1855兆円」の行方は新型コロナウイルス次第。リーマンショック級の不景気も!? (2月27日、志摩力男)
新型コロナウイルスの影響が長くなればなるほど、円高リスクが大きくなります。そのときには、米ドル/円は100円割れを軽く実現するかもしれません。
(出所:TradingView)
ユーロも米国との緩和競争に負けることになるので、大幅な通貨上昇が避けられないでしょう。
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