■ジョンソン英首相、新型コロナから回復し公務に復帰へ
ジョンソン英首相が公務復帰に向けて動き始めました。
4月21日(火)、新型コロナウイルス感染拡大防止に向け、トランプ米大統領と電話で協議したと報じられています。
3月27日(金)に新型コロナウイルス感染を公表、公邸で自己隔離を続けていましたが症状が改善せず、4月5日(日)には入院し、一時は集中治療室に入るなど容体が悪化していました。
報道によると、生存可能性は「五分五分」と極めて危険だったようですが、4月12日(日)に退院しました。
3月27日(金)に新型コロナウイルス感染を公表したジョンソン英首相。4月5日(日)には入院し、一時は集中治療室に入るなど容体が悪化したが、4月12日(日)に退院。4月21日(火)には新型コロナウイルス感染拡大防止に向け、トランプ米大統領と電話で協議した (C)Justin Sullivan/Getty Images
■ジョンソン英首相には「ブレグジットの完成」が残っている
しかし、英議会での党首討論もラーブ外相が首相の代理を務める予定であり、まだ本格復帰とはいかないようです。
ジョンソン英首相は、回復したとはいえ、本格復帰できないのであれば、本当に重要な意思決定ができるのか、不安が残ります。
というのも、ジョンソン英首相には「ブレグジットの完成」という大きな仕事が残っているからです。
具体的には、EU(欧州連合)との「将来の関係」交渉であり、その中で最も大事なのはFTA(自由貿易協定)交渉です。
【参考記事】
●元ゴールドマン・サックス 志摩力男氏に聞く(2) 乱高下した英ポンドで利益を出せたワケは?
●元ゴールドマン・サックス 志摩力男氏に聞く(3) ドル/円は95円まで急落後、130円まで上昇?
■ブレグジットは移行期間中。移行期間は延長できる
英国は現状、名目的にはEUを離れましたが、移行期間中であり、実質的にEUに残っている状況です。
移行期間は2020年12月に終わることになりますが、わずかの期間にEUとの間でFTA合意に至るのは極めて難しく見えます。
当初、ジョンソン英首相ならば、なんとかやり抜くのではないかと楽観視されている部分もありましたが、今は世界全体が新型コロナウイルスに襲われている状況です。
英政権のメンバーだけでなく、EU側のバルニエ首席交渉官も感染しました(復帰してはいます)。またいつ何時、要人が感染するかわかりません。
移行期間は延長できます。延長決定は2020年6月末までに行わなければなりません。
■最優先すべきはブレグジットではないとの世論調査も
延長は、ブレグジット派には容認できない屈辱であることは事実です。EUに対する拠出金も払わなければならなくなります。
しかし、今は世界中が新型コロナウイルスという怪物と戦っている最中です。
このコロナ不況は、2008年のリーマン・ショック以上、1929年の世界大恐慌以来の難局だと認識され始めています。
【参考記事】
●新型コロナ不況とリーマン・ショックの違いは? 景気後退は厳しくなる。市場は楽観的すぎ!(4月8日、志摩力男)
●これは、リーマンショック以上の危機!! 世界的な米ドル不足で米ドル全面高に(3月19日、今井雅人)
IMF(国際通貨基金)は今年(2020年)の世界経済成長率をマイナス3%と予想しています。従来は3%を超える水準でした。世界経済の6%以上が失われることになるのです。
今、最優先すべきはコロナ対策であり、ブレグジットではないと、3分の2の英国民が考えているとの世論調査もあります。
国民の生命と財産を守ることが政府に課されている最も大切な仕事です。
■客観的に見れば、移行期間延長は不可避
もし仮に、2020年12月までにFTA交渉が妥結できなかったとしたら、2021年以降はWTO(世界貿易機関)のルールに基づく関係になります。
英国がこれまで築き上げてきたEUとの関係性が、法的には一切なくなり、すべて一から始めることになります。
将来、新型コロナウイルスに対するワクチンまたは薬が完成したとしても、FTAが合意・発効していないがために英国民が手にすることができない、または遅れるということがあれば、いかに人気のあるジョンソン英首相としても政治的に窮地に立たされることになるでしょう。
客観的に見れば、移行期間延長は不可避だと考えられます。
■英ポンドで今後考えられる2つのコースとは?
英ポンドについて、今後考えられるコースは2つあります。
(A)移行期間延長もしくはFTAが合意に至れば、経済的に大きな打撃を被ることは回避されるので、英ポンドは割安であり、上昇することになります。
(B)その一方、移行期間を延長せず、FTA合意もなく、WTOルールに基づく関係となると、慎重に回避されたと思われていた「合意なき離脱」と実質的に同じ状態となり、大混乱となります。英ポンドは当然大きく売られるでしょう。
このところの英ポンドは、この(A)のケースになるのか、それとも(B)のケースになるのかで、上昇下降を繰り返して来たと言っても過言ではありません。
■英ポンドはどっちにも行きうるが、最終的には急騰か
次の焦点は2020年6月末、移行期間延長期限です。
この1カ月ほどは、コロナ感染が広がり、事実上移行期間延長は不可避であるとマーケットが解釈して英ポンドは対ユーロで上昇(ユーロ/英ポンドは下降)してきました。
しかし今、ジョンソン政権は「移行期間延長はしない」と明言しています。
そうなると、WTOルールに基づく隣国関係、つまり「合意なき離脱」と同じ状況という恐れが再燃し、英ポンド安・ユーロ高になる可能性があります。
ユーロ/英ポンドにおける0.8700ポンド前後からの反転は、そうした部分があると思われます。
(出所:TradingView)
ジョンソン政権は、ブレグジットのときもそうでしたが、おそらく意見を曲げないと思われるので、2020年6月末に向けて英ポンドが安くなる可能性が出てきていると思われます。
だが、事実上(そしてジョンソン英首相も本音では?)、移行期間延長は不可避のはずです。
6月に向け、どこかで意見を変える可能性は、少し小さいながらもあると思います。
もし、移行期間延長となると、英ポンドは急騰することになります。
しかし、意見を変えないとなると、6月末に向け、英ポンドはじり安、そして、6月末以降は、さらなる下落という事態もあり得るでしょう。
彼の性格、状況からすると、最も有り得そうなシナリオは、移行期間延長なしで、6月末、そして、それ以降に向けて英ポンドは売られそうです。
しかし、FTA交渉が本格化し、駆け引きの様子が報じられたり、ヘッドラインに振らされるようになると、英ポンドは方向感を失うでしょう。
そして、12月末までのわずかな期間で「奇跡的」にFTA交渉をまとめ上げ、スムーズに移行する、その結果が見えてきたところで英ポンドは急騰する、そうなる感じがします。ただ、失敗すれば、再び売られます。
(出所:TradingView)
■復活したジョンソン英首相が再び「奇跡」を起こせるか
ジョンソン英首相の退院は、復活祭の日(4月12日)でした。
英タイムズ紙は、ジョンソン英首相の側近が”He is risen(彼は復活した)”と言ったと報じていますが、これは、キリストが死から復活した際に使われた聖書の言葉です。
キリストと同じ(?)というのは少し冗談でしょうが、ボリス・ジョンソンという政治家がそれだけ周囲・英国民から愛されているのだと思います。
ブレグジットの仕上げに向け、彼が再度「奇跡」を起こせるのかどうか、見てみたいと思います。
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