■誠実な人柄がにじみ出たイエレンFRB前議長の会見
歴代FRB(米連邦準備制度理事会)議長の中で誰が一番好きか?
そう聞かれたら、僕は間違いなくジャネット・イエレン前議長と答えます。
FOMC(米連邦公開市場委員会)後の記者会見。僕は、彼女の会見を聞くのがこの上なく好きでした。
彼女は驚くほどゆっくり話します。ゆっくりゆっくり、しかし質問には決して逃げずに、的確に問題の核心に答えていきます。
日本では、記者の質問に答えてはいても、核心部分には意図的に答えなかったり、はぐらかしたりといった会見が多く見られますが、彼女はその真逆、誠実な人柄がにじみ出ている会見をしていました。
FOMC後の記者会見で、イエレンFRB前議長は驚くほどゆっくり話すが、質問には決して逃げずに、的確に問題の核心に答えていたと志摩氏は指摘 (C) Bloomberg/Getty Images
■「相関関係」と「因果関係」は違う
彼女の最後の会見は2017年12月13日(水)。最後の質問者、ブルームバーグの記者は「イールドカーブの逆転」について尋ねました。
【参考記事】
●米ドルが堅調でも米ドル/円は買いたくない!? 調整しているユーロ/米ドルを戻り売り!(2017年12月12日、バカラ村)
●日本株を持たざるリスクを投資家が意識? 株価反落局面ではユーロ/円を拾いたい!(2018年1月8日、西原宏一&大橋ひろこ)
「イールドカーブの逆転」は短期金利が長期金利を上回ることを意味しますが、イールドカーブが逆転すると、歴史的に1年から1年半後にリセッションを迎えていました。
そのため、経済が好調に見えても、そのうちリセッションに突入するかもしれないのでは…という議論が当時盛んでした。
彼女は“…let me emphasize that correlation is not causation,”(執筆者訳:「相関関係」と「因果関係」は違うと強調したい)と言ったのです。
過去にたまたま起こった「相関関係」を「アノマリー」と称して鬼の首を取ったような人がこの業界には多すぎます。
その背後にある「因果関係」と照らし合わせ、本当にその関係性が未来を説明できるものなのか、考えなければなりません。
イエレン議長はイールドカーブが逆転したからと言って、近い将来リセッションに陥ることは決してないことを、一つひとつの要素をていねいに分析し、大学の先生のように答えていきました。
事実、その会見から2年以上経過していますが、米国経済がリセッションに陥る気配はありません。
■パウエルFRB議長へのツイッター攻撃構想があった!?
トランプ大統領がイエレン議長の再任は認めず、パウエル氏を新議長にした時、僕は憤慨しました。
なぜに申し分のない仕事をしている議長を交代させる理由があるのか。
しかし、今になってわかります。トランプ大統領は、口から出る言葉は中学生のように単純ですが、戦略は緻密です。
イエレン氏がそのまま議長にいて、パウエル氏同様のツイッター攻撃を受けていたらどうでしょう。見るも無残です。
When Jerome Powell started his testimony today, the Dow was up 125, & heading higher. As he spoke it drifted steadily downward, as usual, and is now at -15. Germany & other countries get paid to borrow money. We are more prime, but Fed Rate is too high, Dollar tough on exports.
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) February 11, 2020
【参考記事】
●下品なツイートを浴びせるトランプ大統領が作り出す米国株バブルはいつ崩れる?(2月12日、志摩力男)
トランプ大統領はパウエル議長を選択したとき、すでに今のようなツイッター攻撃を仕掛ける構想を持っていたのだと思います。
■「因果関係」的に矛盾している「リスクオフの円高」
今現在、金融市場を見渡して、最も「因果関係」に基づいていないように見える「相関関係」のひとつに「リスクオフの円高」があります。
金融危機的なことが起こったり、株価が急落すると、避難通貨として「円」が買われます。
日経平均が下落しているのに、円を買う。ここだけ見れば、「因果関係」的に矛盾しています。
しかし、背後の議論としては、「日本は金利がないので平時にはリターンを求めて投資家は円ショートポジションを構築するが、マーケット動乱の際はそのポジションを解消するために円を買い戻す、よってリスクオフの円高」となります。
特に「アベノミクス」以降、この動きは顕著になりました。
超金融緩和によって円安となり、景気が刺激され、株価が上昇。この「円安」⇒「株高」の部分では「因果関係」に矛盾はありません。
しかし、マーケットの上下動に合わせて常に「円安」⇒「株高」となると、その関係が確固たるものとなり、「株高」⇒「円安」にもなります。ひっくり返しただけですが、そこは「因果関係」的には疑問です。
■「リスクオフ」と思われる局面で「円高」が進まなくなっている
さらに「株安」⇒「円高」となると、そこには経済学的に矛盾しかありません。
為替と株価の関係は、その時々により相関関係は違ってきます。
1980年代のバブル期には、円高は日本への資金流入、円資産価格上昇を意味し、「円高」⇒「株高」となりました。「円高」⇒輸出企業の業績低下⇒「株安」の部分は無視されました。
(出所:Bloomberg)
今でも、途上国では通貨の上昇下降と株価の関係は、このような同じ方向性を持っています。
長らく為替市場を席巻してきた「リスクオフ」⇒「株安」⇒「円高」の関係性、これが終わろうとしているのではないかと感じます。
まず、「リスクオフ」と思われる局面で「円高」が進まなくなっているという事実があります。
ソレイマニ司令官が殺害されても、新型コロナウイルスが出現しても、円の上昇はわずかでした。
(出所:TradingView)
おそらく、事前に積み上がっているはずの円ショートポジションが積み上がっていないのでしょう。
■日本経済に本当の試練が待っているのかも
日本経済の将来の成長性に疑問符がつき、米国株が上昇しても日本株は上昇しません。
(出所:Bloomberg)
PER(株価収益率)で考えると、米国株はほぼ20倍ですが、日本株は13倍程度と、雲泥の違いがあります。
しかも、日本の金利は短期も長期もゼロ近辺。
機関投資家は、20年超の長期債に投資するか(それでも金利はほとんどない)、為替リスクを考慮しても海外に資金を持っていかざるを得なくなっているように見えます。
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)といった年金資金がポートフォリオを見直し、より多くの資金を海外にシフトしようとしているとの報道も目にしますが、リスクオフの円高がなくなった場合、このマーケットはどうなるのでしょうか。
今が重要なポイントなのかもしれません。
新型コロナウイルスに右往左往している状況を見ると、「リスクオフの円高」がなくなることも近いように感じます。
そしてそのとき、日本経済に本当の試練が待っているように感じます。
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