■欧州復興基金の合意で、ユーロ高・米ドル安が加速
為替市場は、米ドル安となっています。これは当コラムでも期待していた展開であり、違和感はありません。
【参考記事】
●米ドル安となる環境が完璧に整いつつある! 大統領再選には、対中国強硬姿勢しかない(7月29日、志摩力男)
●ついに、本格的に米ドル安相場始まるか! 中国がドル離れ!? 基軸通貨の地位が危うい(7月15日、志摩力男)
●米ドルは状況が落ち着けば下落していく…。ゼロ金利は5年ぐらい続くのではないか?(7月8日、志摩力男)
●対GDP比17.9%! 巨額の米財政支出で溢れたマネーが次は米ドル相場を押し下げる?(6月24日、志摩力男)
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 日足)
米ドル安は、特に対ユーロで進んでいるものの、では欧州のファンダメンタルズが本当に良いのか? と問われれば疑問ではあります。
ECB(欧州中央銀行)は、ずっとマイナス金利を採用していますし、コロナの影響で南欧諸国の経済は大変な状況です。
米国もコロナによる景気後退のため、超緩和的金融政策にシフトしました。
当初は、「決済手段としての米ドル」が必要だったため、瞬間的に米ドル高となりましたが、そうした状況が緩和されるに伴い、米ドルはゆっくり値を下げ始め、7月21日(火)にEU(欧州連合)首脳会議にて欧州復興基金が合意されると、ユーロ高・米ドル安が加速しました。
【参考記事】
●ユーロ/米ドルの上昇は、今後も続く! 歴史的な「欧州復興基金」の実現が下支え(7月22日、志摩力男)
(出所:TradingView)
■欧州復興基金設立には、中国の影響力を排除する意味も
欧州復興基金で合意できたことは、さまざまな意味で重要です。
まず、イタリアやスペインといった、コロナの影響を受けた南欧諸国経済の支えとなります。
実は、中国が急速にイタリアに接近しています。
【参考記事】
●欧州の経済打撃は第二次世界大戦に匹敵か。イタリアを救うのは中国!? ギリシャ危機と同じ!?(4月28日、志摩力男)
イタリアは欧州内で唯一、「一帯一路」に参加し、今回のコロナ感染では、中国からの医療チームに助けられました。
欧州内の国はどこも大変だったので、救援には行けなかったのです。
これまで、欧州、特にドイツからの財政赤字削減プレッシャーは強く、イタリアは医療費を削減していました。これがICU(集中治療室)不足を招き、多くの死者を出した要因となっています。
しかし、大変なときに欧州各国は、イタリアに助けの手を差し伸べませんでした。
これでは、イタリアが中国に接近するのも致し方ありません。
ドイツのメルケル首相が欧州復興基金設立に動いたのは、こうした背景があります。中国の影響力を排除することが重要でした。
■EU名義での長期債発行には通貨ユーロを維持する意味も
また、欧州復興基金では、EUの名義で大規模に債券が発行されます。7500億ユーロ(約93兆円)は、巨額です。
共同の名義で発行するので、非常に低い金利で資金調達できます。
そして、ユーロに対しては、いつも継続性への疑義という「将来不安」がつきまとっていたのですが、EUの名義で長期債を出すということは、通貨ユーロを将来に渡って維持するというコミットメントでもあります。
ユーロに対する将来不安が低下した影響は大きく、ユーロ保有に対する大きな懸念が、1つ解消されたことになりました。
欧州の成長が、この復興基金によって飛躍的に上昇するということはないかもしれませんが、低金利で資金調達し、南欧経済を復興させるわけですから、ポジティブな影響しかありません。
■ユーロ/米ドルの適正レートは1.3ドル前後か。現在は割安
ユーロは購買力平価で見ると、適正レートは対米ドルで1.3ドル前後ぐらいのところにあるのではないかと見られています。
2008年には1.6038ドルの最高値をつけたこともありますから、現在のユーロは割安です。
(出所:TradingView)
■米中対立、今後は金融面での締めつけ強化が予想される
整理すると、今回のユーロ高・米ドル安の要因は…
(1)欧州復興基金により、欧州に対する不安が後退したこと
(2)米国が超金融緩和政策をとり、この影響がタイムラグを伴って現れ始めたこと
という点だと思いますが、もう一点重要なのは、
(3)米中対立の激化
でしょう。
【参考記事】
●米ドル安となる環境が完璧に整いつつある! 大統領再選には、対中国強硬姿勢しかない(7月29日、志摩力男)
トランプ大統領は選挙対策もあり、米中対立の方向に大きく舵をシフトしましたが、政治情報サイト「Real Clear Politics」によると、支持率が少し回復しました。
つまり、正しい選択をしたということです。
支持率回復という効果が見られた以上、この路線は強化されるでしょう。
今後は、金融面での締めつけを厳しくしてくることが予想されます。
中国最大の弱点は、中国人民元がハードカレンシーでないということです。自由に交換できる通貨ではありません。
ここを攻められると、中国経済は一気に厳しい状況に追い込まれるでしょう。
■今年後半どこまでユーロが上昇するか、注目!
ただ、それは米ドルの基軸通貨という立場を著しく弱くすることでもあります。安心して誰でも使える通貨でなければ、基軸通貨ではありません。
【参考記事】
●ついに、本格的に米ドル安相場始まるか! 中国がドル離れ!? 基軸通貨の地位が危うい(7月15日、志摩力男)
中国は大量の資金を米ドルで保有していますが、制裁を受けて米国に接収される可能性もあります。
それは、中国富裕層も事情は同じです。
資産接収から逃れるために、資金を第2の基軸通貨であるユーロへシフトすることは極めて自然なことです。
こうした背景から、ユーロ高・米ドル安はまだ続くと思われます。
長期下落トレンドは終了し、今年(2020年)後半、どこまでユーロが上昇するか、注目です。
(出所:TradingView)
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