■トランプ大統領は強かった
トランプ大統領は強かった。皮肉ではなく、事実そうでした。
大統領選直前の世論調査では、バイデン氏が7.9%ほどリードしていましたが、実際に投じられた票は、これまでのところ、バイデン氏が7696万6161票(50.8%)、トランプ氏が7189万7289票(47.5%)。その差は3.3%。
つまり、事前の世論調査で把握できない「隠れトランプ」が4.6%もいた、ということになります。
大統領選直前の世論調査では、バイデン氏が7.9%ほどリードしていたが、実際に投じられた票を見ると、 事前の世論調査で把握できない「隠れトランプ」が4.6%もいたことになると志摩氏は指摘 (C)Chip Somodevilla/Getty Images News
激戦州、しかもカギとなると見られた、ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン。この3州の事前の世論調査では、バイデン氏が、それぞれ4.3%、5.1%、6.1%と余裕で上回っていました。
これだけあれば、普通はバイデン氏が楽勝です。しかも、最重要であるペンシルベニアはバイデン氏が生まれた州。だからこそ、バイデン氏が民主党大統領候補になった理由もあります。
【参考記事】
●トランプ氏勝利なら? バイデン氏勝利なら? 大統領選の結果次第で市場はどう動く?(11月4日、志摩力男)
ところが開票初日、接戦が予想されたフロリダ、オハイオ、テキサスを次々とトランプ氏は制していきます。肝心のペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンでも、トランプ氏が上回っていました。
【参考記事】
●トランプ氏がフロリダを制す! 結果判明は長期化も? 情報錯綜、金融市場は複雑な動き
郵便投票の開票が進むにつれて、バイデン氏が逆転するというのが事前の予想ではありましたが、どの程度、郵便が開票されたのか、まったくわからない状況でした。
特にフィラデルフィアでは、はっきりした数字は忘れましたが、トランプ氏が65%前後、バイデン氏が35%前後だったと思います。
「トランプ氏は化け物か。なんなんだ、この強さは!」――私自身も、トランプ氏再選を覚悟しました。
夕方のテレビで、トランプ推しの評論家の方々が「ドヤ顔」しているところを見ながら、あと4年、デタラメだらけのツイートを見なければならないのかと思うと、暗たんたる気分がしたものです。
結局、郵便投票の開票の結果、バイデン氏が微差でペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンを勝利しましたが、その得票差はペンシルベニアで0.7%、ミシガン3.3%、ウィスコンシン0.7%と、世論調査とは大違い。やはり、「隠れトランプ」だらけでした。
■上院、下院ともに好調だったのはトランプ氏に近い議員
今回の選挙戦は、期日前投票が1億人を超えるという、すごいことになりました。
期日前投票をする多くの人は、民主党支持者。そうであるなら、民主党躍進は間違いなしと思ったものです。
【参考記事】
●米大統領選、郵便投票の影響で大混乱に!? 討論会はバイデン氏がうまく立ち回ったか(9月30日、志摩力男)
しかし、民主党は上院を制することができませんでした。しかも、下院でも二桁、議席を落としています。
上院、下院ともに、好調だったのはトランプ氏に近い議員です。ここでもトランプ氏の影響が色濃く出ています。
たった一人でワシントンに乗り込み、共和党保守派の支持があったとはいえ、トランプ氏は共和党主流派を脇に追いやり、事実上、共和党を乗っ取りました。究極のポピュリストの面目躍如です。
コロナ、BLM(ブラック・ライブス・マター)運動、共和党主流派の離反、こうした悪材料だらけの中でも、これだけ票を獲ったトランプ氏。何もなければ、間違いなく再選されたでしょう。
このトランプ・イズム的なものは、今後も残ります。もしかすると、2024年の大統領選挙に再度登場する可能性もあるのではないかと思います。
■中国人民元がゆっくり強くなっていきそう
さて、トランプ政権からバイデン政権となり、政策も大きく違ってきます。
トランプ政権がオバマ氏の政策を全否定したように、バイデン政権もトランプ政権の「否定」を始めるでしょう。
【参考記事】
●トランプラリーとは? 2016年米大統領選でのトランプ氏当選を受けて、強烈なリスクオンに!
トランプ政権がオバマ氏の政策を全否定したように、バイデン政権もトランプ政権の「否定」を始めるだろうと志摩氏は指摘 (C)Scott Olson/Getty Images News
バイデン氏が大統領になると、対中政策は、人権等の問題に対してはより厳しくなるでしょうが、貿易に関しては制裁を緩めることが予想されます。対中制裁関税も見直されることは、中国経済にはプラスです。
世界最大手のヘッジファンド、ブリッジ・ウォーターのレイ・ダリオ氏は、中国の国債購入を勧めていましたが、多くの先進国の長期金利がゼロに近い水準に沈んでいる今、中国の3%台の金利は魅力的です。
一定の資金が中国に流れるので、中国人民元はゆっくり強くなっていきそうです。現状、対ドルで6.6元程度ですが、6.3元からもっと下が望めるかもしれません。
(出所:TradingView)
■メキシコペソ/円はもう少し上昇余地がある
メキシコも、バイデン政権で恩恵を受けます。
トランプ政権で北米自由貿易協定(NAFTA)が見直され、メキシコは貿易面で制限を受けていますが、それが緩和されるでしょう。
メキシコペソ/円は5円台を超え、5.2円に達しましたが、もう少し上昇余地があると思われます。5.3円から5.5円くらいでしょうか。
(出所:TradingView)
■ジョンソン英首相は追い詰められた
意外な影響は、ブレグジット(英国のEU(欧州連合)離脱)にも及びます。
ジョンソン首相は、英国とFTA(自由貿易協定)を即座に結ぶと約束してくれたトランプ大統領をあてにしていました。
しかし、バイデン氏はブレグジットには厳しい立場を取ります。
北アイルランドに平和をもたらした「ベルファスト条約」。この条約では、北アイルランドとアイルランドの間には物理的な国境を作らないことになっています。
しかし、先日、ジョンソン政権が議会に提出した「国内市場法」は、明確にベルファスト条約に反する部分があります。
【参考記事】
●米ドル下落、株価上昇、金利上昇という「バイデントレード」に必要な条件とは?(10月21日、志摩力男)
●英ポンドは、どう動く!? ブレグジット移行期間終了に向けた予想シナリオとは?(9月23日、志摩力男)
●ブレグジット関連に振り回され英ポンド急落! 目先はいったん落ち着き、修正の動きか(9月18日、今井雅人)
「ベルファスト条約」はクリントン政権が仲介して実現したもの。その際に関わったバイデン氏には、「ベルファスト条約」に強い思いがあります。
ジョンソン首相がハードブレグジットを選択したとしても、米国が即座にFTAに応じるならば、ショックは限定されます。しかし、バイデン氏はOKとは言わないでしょう。ジョンソン首相は追い詰められています。
先日、ジョンソン政権が議会に提出した「国内市場法」は、明確にベルファスト条約に反する部分がある。ジョンソン首相がハードブレグジット選択後、米国と即座にFTAを結ぼうとしても、ベルファスト条約に強い思いがあるバイデン氏はOKと言わないだろう、と志摩氏は解説 (C)Justin Sullivan/Getty Images
■コロナでロックダウン中に、ハードブレグジットはありえない
ブレグジットですが、当初の期限と言われた10月末も過ぎています。
今は、11月半ばが事実上の期限とされています。そうでなければ、12月末日のブレグジット移行期間終了に間に合いません。残り時間は少なくなっています。
スケジュール的には、11月19日(木)にEU(欧州連合)首脳会議が開催されます。今は、これに向けて事務作業を進めているのでしょう。ある程度詰めてあるなら、このEU首脳会議で、トップ同士の交渉で合意されるというのが最善です。
このあとは、12月10日(木)~11日(金)の欧州理事会、12月14日(月)~17日(木)に欧州議会本会議が開かれます。この欧州議会本会議が、どう見ても最終期限です。
ここに至るどこかで、最低限度のFTAが合意されて、12月末はある程度スムーズにブレグジットが実現する、という選択肢しかありません。
コロナでロックダウン中に、ハードブレグジットまでやって来る――そんなことはありえないですし、政治家として取り得る選択肢ではないでしょう。
客観的に見れば、どこかで英国とEUの間でFTA合意があり、英ポンドが買われる、というのが、ありうるシナリオと思います。
しかし、そうならなかった場合の可能性も、少し残っています。
コロナ+ハードブレグジットをもたらした場合、ジョンソン首相は政治的に、ものすごく傷つきますし、英保守党も政権を失うでしょう。
年末に向けて、英ポンド/米ドル上昇、ユーロ/英ポンド下落と見ます。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
■緩やかな米ドル安が進みそう
民主党が大統領と上下院を制するトリプルブルーは実現しないでしょうが、上院共和党にはスーザン・コリンズ議員のように「隠れ民主党」のような人もいます。このような人は、ロックフェラー・リパブリカン(※)ともいわれます。
(※編集部注:ロックフェラー・リパブリカンとは、共和党の穏健派を指す言葉。第41代副大統領ネルソン・ロックフェラーの名前が由来で、ロックフェラーのように共和党の中でも比較的リベラルな党員をさす)
エイミー・コニー・バレット氏が最高裁判事承認の際には、彼女は共和党内でただ一人反対に回りました。
大規模経済対策の可能性はなくなりましたが、コリンズ議員のような「隠れ民主党」議員の力を借りて、ある程度の経済対策は実現します。しかも増税はない。
米経済には悪い話ではありません。緩やかな米ドル安が進むと考えます。
(出所:TradingView)
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