■スムーズなブレグジットで英ポンド買いは、確率8割ほど
当コラムでは、過去2回ブレグジットの話題を取り上げました。
【参考記事】
●ソフトバンクGによる円買いはインパクトあり。ハードブレグジット現実化? ポンドに下落リスク!(5月20日、志摩力男)
●ブレグジットの移行期間延長は不可避? 復活したジョンソン首相は奇跡を起こせるか(4月22日、志摩力男)
4月22日(水)に書いたコラムは、メインシナリオ的なものです。
ブレグジットをめぐる交渉は混乱し、大変な状況になりますが、それでも最終的には英国とEU(欧州連合)はFTA(自由貿易協定)をまとめ上げ、12月末に英国はEUをスムーズに離脱するというものです。確率的に8割ぐらいでしょうか。
その時には、英ポンドは大きく買い戻されるでしょう。
このケースの場合、ユーロ/英ポンドは現状0.92ポンド前後ですが、0.80ポンド方向へと英ポンドが急騰する可能性があります。
(出所:TradingView)
■ハードブレグジットで英ポンド売りは、確率2割ほど
しかし、その後の英国側のEUに対する不誠実な交渉態度を見ると、どうも「合意なき離脱」でもやって行けるという錯覚が英政府側にあるようで、5月20日(水)に書いたコラムでは、ハードブレグジットの可能性は意外に高いことを取り上げました。
そして、その際は英ポンド下落の可能性があり、ユーロ/英ポンドで0.95ポンド前後まで英ポンド売りが進むのではないかと書きました。
【参考記事】
●ソフトバンクGによる円買いはインパクトあり。ハードブレグジット現実化? ポンドに下落リスク!(5月20日、志摩力男)
ですが、すでに現状0.92ポンド台ということを考えると、1.00ポンドのパリティ方向に行くことになるのではと思います。個人的には、この確率は2割程度と思います。
(出所:TradingView)
■ジョンソン政権が投じた「国内市場法」にEUは強く反発
合意のある離脱か?合意なき離脱か? 英国民の生活はこの結果で大きく変わりますが、残り時間が少ないというのに、最終的な方向性はまだ決まっていません。
しかも、ジョンソン政権はこの期に及んで「国内市場法」というクセ球を投げてきました。その内容は、以下のとおりです。
(1)EUの国家補助金規制が適用されるのは北アイルランドのみとする
(2)北アイルランド企業が他の英国(イングランド・スコットランド・ウェールズ)向けに出荷する際には輸出申告書が必要になるが、これを免除する
(3)他の英国から北アイルランドに出荷する際の関税還付の対象物品は英国のみが決定する
そして、「国際法や他の国内法令との不一致または不適合性にかかわらず効力を有する」と明記されています。
EU側は当然強く反発し、「国内市場法」の内容が北アイルランド議定書に違反するのみならず、離脱協定本文第4条と第5条に反すると指摘。
しかも、英国側は「1998年のベルファスト合意を守るため」と主張しているが、真逆の結果になる、との見方を示しました。
また、「離脱協定と国際法の重大な違反」であり、9月末までに撤廃を求め、応じない場合は法的手段に訴える、としています。
■「国内市場法」、法案成立はほぼ確実な情勢
ジョンソン政権は、どこまで本気なのか。
1つの見方は、高いボールを投げることで、交渉を自分たちの有利な方向に持っていこうとしているのでしょう。いわゆる「瀬戸際外交」です。
また、善意的に解釈すると、合意なき離脱となった場合、北アイルランドと他の英国地域の間でスムーズに物品が行き渡らないような事態は避けたいということでしょう。
しかし、英国はすでに合意のある離脱への意欲がないとEU側がみなし、交渉が打ち切りとなったりした場合、どうするつもりなのでしょうか。
「国内市場法」は、一部保守党議員の懸念に応える形で、離脱合意を上書きするかどうかを議員の投票で判断する、という修正を加えました。これで、法案が下院を通過することは確実となりました。
上院は保守党が過半数を持ってないので、修正動議が可決しそうですが、日本の国会で衆議院が参議院に優越しているのと同様に、最終的に、上院は下院に従わざるをえないので、法案成立は、ほぼ確実な情勢です。
■12月末の移行期間終了までのタイムラインを確認
ここで、今後のタイムラインを見てみます。
・ 9月28日(月)から10月2日(金)にかけて、英国とEUの通商協議第9ラウンドがありますが、これが最後の協議となります。
・ 9月30日(水)が、EUが英国に対し、「国内市場法」撤廃を求める最終期限です。
・ 10月15日(木)、10月16日(金)でEU首脳会議が開かれます。また、同時に10月15日(木)は、英国が設定した「国内市場法」の合意期限です。
ここまでに合意に至らない場合、英国は交渉を打ち切り、合意なき離脱に向けて準備開始することになっています。
・ 10月31日(土)は、従来、英国とEUの通商協議の最終期限と考えられていた日です。
この日までにFTAが締結されないと、EU内27カ国の批准をすべて得るのに時間がかかり、12月末に間に合わないことから、10月31日(土)が最終期限と設定されていました。しかし、この期限には、すでに意味がないでしょう。
・ 11月3日(火)は、米大統領選挙です。
【参考記事】
●米ドル安となる環境が完璧に整いつつある! 大統領再選には、対中国強硬姿勢しかない(7月29日、志摩力男)
●米大統領選まで4カ月! トランプの支持率は低下…バイデン大統領誕生なら何が起こる?(7月1日、志摩力男)
●株価上昇=経済政策が正しいと言えるのか? 迫る大統領選、人種問題がトランプの逆風に!(6月10日、志摩力男)
・ 11月5日(木)は、BOE(イングランド銀行[英国の中央銀行])のMPC(英中銀金融政策決定会合)が開催されます。
おそらく、この頃には合意なき離脱が濃厚となっているので、BOEは債券購入枠拡大などの金融緩和策を採ることになりそうです。
・ 11月末には、臨時のEU首脳会議があるとの観測もあります。
・ 12月10日(木)、12月11日(金)は、EU首脳会議。
・ そして、12月31日(木)が移行期間終了日で、英国はEUを離脱します。
■ヤマは9月30日と10月15日、10月16日
1つのヤマは、9月30日(水)でしょう。
英国は「国内市場法」を撤廃しないので、EU側が態度を強硬化するでしょう。
最悪、協議打ち切りですが、それはさすがにないと考えます。ハードブレグジットのトリガーを引いたと見られるのは、避けたいからです。
しかし、交渉はこれ以降、スムーズに進むとは思えません。
もう1つのヤマは、10月15日(木)、10月16日(金)のEU首脳会議。ここでまとまらなければ、ハードブレグジットは、ほぼ確実視されますが、状況が変化しそうにも見えません。英ポンドは急落するでしょう。
■予想シナリオ。11月末か12月のFTA劇的合意もあり得るか
しかし、ハードブレグジットで得をする人はどこにもいません。EU側はFTAを望んでいます。
英国にはFTAが必ず必要ですが、EUの影響力がどうしても残るので、保守派の議員は嫌います。
おそらく、10月15日(木)は最悪のムードで向かえ、英ポンドは売られるでしょうが、水面下の協議は続けるでしょう。
すでに、10月31日(土)という期限は意味をなしていません。
もしかすると、11月いっぱいを使い、最悪、12月前半になって劇的なFTA合意ということもあるのではないかと思います。
先行きは状況次第であり、これは私の予想でしかないですが、10月末に向けて英ポンドは売られ、ハードブレグジットやむなしとなる。しかし、水面下の交渉で、11月末もしくは12月にFTA劇的合意となり、英ポンドが買い戻されるというシナリオではないかと考えます。
(出所:TradingView)
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