■英国とEUの通商交渉は合意したが、反応は冷ややか
英国とEU(欧州連合)の通商交渉が合意に達したが、マーケットの反応は意外に冷淡であるように見える。
(出所:TradingView)
クリスマス休場なので、商い薄の側面もあるが、長く続いてきた「離婚劇場」だっただけに、当事者同士を含め、市場参加者全員がうんざりしすぎたせいか、とも思われる。年越しが回避されたところで、ホッとする雰囲気のほうが大きいかもしれない。
■2020年の株式相場は、歴史に刻まれる激動ぶり
さて、2020年最後の寄稿なので、今年のまとめや来年(2021年)の展望について述べたい。
コロナショックがもたらした2020年相場の大波乱は、あの株の神様ことバフェット氏でも「ビビった」ほどの激動ぶりだったから、歴史に永遠に刻まれる1年であったに違いない。
ナスダックを挙げるまでもなく、NYダウだけで見ても今年の大波乱は誰も経験したことがなく、また、誰も予想できなかったと言える。
3月に、一時1万8213ドルまで急落。2月高値2万9568ドルから38%もの下落幅を記録し、また、米株史上初の4度の取引一時停止(サーキットブレーカー発動)を経験しながら、その後、急反発。ほぼ一貫して上昇し続け、11月24日(火)にはなんと、史上初の3万ドルの大台に乗せた。
(出所:TradingView)
3月安値から計算すれば、今度は、一転して65%の上昇率を誇り、米株最強の伝説を、また作り上げたわけだ。
筆者が繰り返し指摘してきたように、これはもしかしたら我々が一生に一度しか経験できない出来事だから、流れにうまく乗れた方は孫の世代まで自慢できるエビソートであろう。この意味では、今年(2020年)ほどおもしろい相場はないともいえる。
日本株の場合は、米国株ほど過激なパフォーマンスではないものの、コロナショックの急落から急回復。一転して、30年ぶりの高値トライにつながっていること自体が特筆すべき出来事で、コロナ不況の中、希望を与えてくれる存在だと思う。
■為替相場は、コロナショックで米ドルの価値を再度証明
為替市場も相応の波乱があったものの、株式相場に比例したものではなかった印象がある。
特に米ドル/円の場合は、総じて「蚊帳の外」に置かれる状況が続いてきた。逆に言えば、そのような状況があったからこそ、来年(2021年)の相場を占うヒントを提示してくれている可能性があるから、軽視すべきではない。
もっとも、3月のコロナショックで米ドルの価値が、再度証明されたところが大きかった。
株急落、金もビットコインも原油などの商品も売られた市況の中、唯一買われたのが米ドルだった。米ドルこそ、究極の資産回避先であることを無視できない。リスクオフの米ドル買いは、ホンモノであったことも疑う余地はない。
対照的に、円のパフォーマンスは極めて限定的だった。対米ドルでは、3月9日(月)に、いったん101.19円まで上昇(米ドル/円下落)したものの、その後、すぐ大幅に売られ(米ドル/円上昇)、3月24日(火)には、一時111.72円まで下落した。
(出所:TradingView)
明らかにドルインデックスの3月23日(月)103.96の高値トライにリンクした値動きと見られるから、「リスクオフの円買い」はなかったとまでは言い切れないものの、極めて短期かつ限定的だった。その上、リスクオフの度合いが深刻化するにつれ、円はむしろ売らていたことも明らかだ。
要するに、円がリスク回避先として評価される、伝統的な「リスクオフの円買い」は、もはや過去のロジックで、コロナショックにおいて検証されなかった。それだけに、これからも再現されにくいと思う。
そして、3月高値から米ドル/円は一貫して右肩下がりとなり、12月17日(木)に、いったん103円割れまで米ドル安・円高の流れが強まった。
(出所:TradingView)
しかし、それもドルインデックスとの連動で、主体性を持った円高ではなかった。なにしろ、筆者が本コラムで繰り返し指摘してきたように、巷でもてはやされている「リスクオンの円高」という説は“偽りあり”なので、信用すべきでないことは明らかだ。
米国株の急反発につれ、リスク回避先として「買われすぎた」米ドルの反落は当然の流れと言える。また、FRB(米連邦準備制度理事会)の前代未聞の規模の金融緩和がもたらした金余りの環境、すなわち、米ドルの過剰流動性相場において、米ドル売りが加速されたことも理解されやすいかと思う。
しかし、このような米ドル売りが加速された局面でも、円は積極的に買われたことがなく、あくまで、米ドル全面安の一環として買われ、受動的な円高であったことを直視できれば、「リスクオンの円高」云々に流されないだろう。
■一番弱い通貨「円」。主要クロス円は総じて堅調
ユーロなど主要外貨が、米ドルに対して2020年の年初来高値更新、また、一段と高くなる傾向とは対照的に、円は3月高値(米ドル/円の安値)にさえ接近できず、足元も2円ほどの距離がある。
主要外貨のうち、一番弱い通貨となっているのだ。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 週足)
ゆえに、主要クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)は総じて堅調で、豪ドル/円のように、これからも高値トライしていく市況が想定される。
■メインシナリオ:米ドル高・円安のトレンドが始動する
以上の検証を踏まえた上で、来年(2021年)を展望すれば、大きく外れないかと思う。
金余りの金融相場が続く限り、基本的に米国株は堅調な推移を保てるだろう。
日本株も米国株次第なので、来年(2021年)はリスクオン相場の継続が有力視され、また、現時点でそれを否定するような要素は見つからない。
となると、2021年の米ドル/円も、いわゆる「リスクオンの円高」にはなりにくく、下値余地が限定されるだろう。米ドル/円に限って言えば、以下の2つのシナリオを展開できる。
まず、メインシナリオとして、今年(2020年)3月安値の101.19円を下回れず、2015年高値から形成された大型トライアングル型保ち合いが完成させた形で、来年(2021年)こそ、米ドル高・円安のトレンドが始動すると考えられる。
(出所:TradingView)
ただし、米ドルの過剰流動性相場の継続で、米ドル全体(ドルインデックス)の急速な切り返しも考えにくいから、年間の変動率は、引き続き抑制されるかとも思う。
年間10円程度の変動幅なら102円台半ばを下限と見なす場合、112円までの高値余地が想定されるが、一時のオーバーがあっても、せいぜい115円程度かもしれない。
一方、通常の15円程度の変動幅で考えると、117円~120円も視野に入るが、これは、やや楽観的すぎるシナリオと位置付ける。
■サプライズ・シナリオ:米ドル/円の「底割れ」が生じる
次は、サプライズ・シナリオだ。
要するに、何らかの材料で米ドル/円の「底割れ」が生じ、2020年3月安値を割り込むような急落がある場合だが、この場合は、2015年高値から形成してきた大型保ち合いが一段と延長され、また、100円の心理的大台が試されるだろう。
(出所:TradingView)
材料次第では100円の節目割れもあり得るが、それはおそらく一瞬の出来事で、相場は割と短期間で、また100円の心理的大台を回復できるかと思う。
その理由はほかならぬ、繰り返し指摘してきた「リスクオンの円高」になりにくいところが一番大きい。
米ドル余りの金融相場だからこそ、米ドルが売られても円が買われにくい構造が、すでにしっかりと構築されており、コロナショック以上の何らかの大事件がない限り、修正できないと思う。
だからこそ、仮にサプライズ・シナリオが現実になって円高の進行があっても、一時に留まると想定し、今年(2020年)3月株暴落時における押し目買いのように、勇気をもって米ドルの安値を拾いたい。そうすれば、2021年が終わる頃、きっと今年、株の安値を拾った成功者のように恵まれるだろう。
長期に渡る円高時代の再来は杞憂であり、2021年こそ、「新たな円安時代」の幕開けと見る。
今回は、米ドル/円の話ばかりだったが、ユーロなど主要外貨の話は年明けの回に譲りたい。それでは、皆さん、メリークリスマス&よいお年を。
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