クリスマスと年末年始が差し迫った2020年12月22日(火)、暗号資産(仮想通貨)市場で大きな動きがあった。暗号資産としては異質と言える中央集権的なしくみを有するリップル(XRP)が暴落に見舞われたのだ。
その一方、リップル暴落時に対円で200万円台の史上最高値更新をうかがっていたビットコイン(BTC)はそれ以降も急上昇。2021年に入って1月1日(金)に300万円突破、1月7日(木)に400万円突破と猛スピードで上昇している。
リップル暴落とビットコイン急上昇。両者の背景にはいったい、何があったのか?
この動きをザイ投資戦略メルマガで配信していたのが、名だたる外資系金融機関でトレーダーとして活躍してきた経歴をもち、個人投資家からの人気も高い志摩力男さんだ。
志摩さんの専門は為替だが、「志摩力男のグローバルFXトレード!」では暗号資産市場の動きについても折に触れて解説されている。特に今回のリップル大暴落後、2020年12月27日(日)に配信されたメルマガでは、暗号資産の現状と今後の見通しについて非常に興味深い論考を展開していた。
そこで、今回は志摩さんの有料メルマガ「志摩力男のグローバルFXトレード!」で配信された内容の一部を加筆修正のうえ、転載する(ザイFX!編集部)。
以下、『志摩力男のグローバルFXトレード!』2020年12月27日配信分の一部を加筆修正のうえ掲載
■SECがリップル社を提訴。リップルは証券? 通貨?
為替市場では大きな動きはありませんが、暗号資産(仮想通貨)は大荒れの展開です。2020年12月22日(火)に、SEC(米証券取引委員会)がリップル社(Ripple Labs)を提訴したことが伝わり、リップル社が発行する暗号資産のリップル(XRP)が一時、約74%ほど下落しました(その後、ある程度はリバウンドしています)。
(リアルタイムチャートはこちら → 暗号資産リアルタイムチャート:リップル/米ドル(XRP/USD) 日足)
(リアルタイムチャートはこちら → 暗号資産リアルタイムチャート:リップル/円(XRP/JPY) 日足)
SECは、「リップルは通貨ではなく証券だ、証券であるならば、株式の売出しや上場の時と同様に、法に則った情報開示が必要だ」ということで、リップル社が未登録でリップルを発行して個人投資家から資金を調達したことが、連邦証券法の投資家保護違反に抵触したと主張しています。
(出所:SEC)
これは、まったく当然と言える主張です。リップル社側は、「リップルは証券ではなく通貨だ、だから、そのような情報開示はいらない」というスタンスでしたが、投資家からお金を集めるわけですから、しくみは証券とかなり似ています。
■SECはなぜこのタイミングで動いた? リップルが使われるシナリオは考え難い
SECがいつかは動くというのは、十分、予想されていました。2017年後半、十分な情報開示がほとんどなされないまま、大量の詐欺まがいの「草コイン」が売られ、損失を被った投資家がたくさんいます。SECの動きは、業界の浄化のためにもぜひ、必要なことだと思います。
問題は、どうしてこのタイミングで出てきたか? です。
個人的な意見としては、おそらく理由は単純で、暗号資産(仮想通貨)市場が盛り上がり、時価総額も大きくなってきたからだと思っています。安いときにやっても注目度は低いし、罰金も安くなります。
また、暗に暗号資産市場が大きくなりすぎて、本当に貨幣として機能し、米ドルや円といった通貨の地位を奪いはじめると大変なことになるという意識が、一部のエスタブリッシュメント(支配階級・既存体制)の間にはあるのでしょう。少なくともちゃんとした規制は、いつかはしないといけません。
リップルがこれからどうなるかは、裁判の行方次第です。リップルは残ると思いますが、おそらく証券として認定され、リップル社は相当の罰金を払うことになります。今後おそらく、暗号資産市場の資金は、リップルからより安全なビットコイン(BTC)に流れることになるでしょう。
(リアルタイムチャートはこちら → 暗号資産リアルタイムチャート:ビットコイン/米ドル(BTC/USD) 日足)
(リアルタイムチャートはこちら → 暗号資産リアルタイムチャート:ビットコイン/円(BTC/JPY) 日足)
リップルは、ブロックチェーンとも言えないし、リップル社がないと成立しない暗号資産です。しくみ的には、ポイントに近いという人もいます。銀行間の送金に使われるという触れ込みでしたが、JPモルガンやゴールドマン・サックスといった競争力のある企業がひしめく中、あえてリップルが使われるというシナリオは、まったくもって考え難いです。
■ビットコインは牛乳瓶のフタと同じ。本源的な価値はない
逆に今回の件で、ビットコインが再認識されるでしょう。管理者がいなくても機能する、ビットコインのしくみを考えた人は超天才であり、多くのインテリを魅了しています。しかし、ビットコインの本来の価値はいくらなのでしょう?
【参考コンテンツ】
●初心者でも1分でわかる! 「ビットコイン」の基礎知識
ビットコインは、単なるデータの塊とも言えます。今はソフトバンクグループの副社長で、かつて、ゆうちょ銀行の副社長をしていた元ゴールドマン・サックスの佐護勝紀氏は「100ドル」と言っていました(これは冗談で、はっきりしないけど極めて安いという意味でしかありませんが)。
【参考記事】
●ビットコインは「バブル、手を出さず」 機関投資家の見解一致(ロイター)(外部リンク)
JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEO(最高経営責任者)は、ビットコインはインチキだと言っています。著名投資家のウォーレン・バフェットはビットコインを「殺鼠剤の2乗のようなもの」と表現していましたが、同じような意味でしょう。グリーンスパン元FRB(米連邦準備制度理事会)議長は、「ビットコインには本源的価値がない」と言って否定しました。
【参考記事】
●マイナス500万円!? ビットコイン、なぜ暴落?チャイナショック&JPモルガンショックって!?
ビットコインを「殺鼠剤の2乗のようなもの」と言って否定したことで知られている著名投資家のウォーレン・バフェット氏。バフェット氏だけでなく、元FRB議長のアラン・グリーンスパン氏は本源的価値がないと発言するなど、ビットコインに懐疑的な目を向けている著名投資家などは多いが… (C)Bloomberg/Getty Images
僕も同様に考えていました。「ビットコインと牛乳瓶のフタは同じだ」という有名なブログ記事がありますが、そんなところでしょう。ビットコインに「本源的価値」はありません。ゆえに、適正値は限りなくゼロに近いものであり、ブームが去ったら底なし沼のように下がるだろうと思っていました。
【参考記事】
●ビットコインと牛乳瓶のフタは同じだ(ウェブ1丁目図書館)(外部リンク)
■ビットコインが本当に通貨になれば、えらいことになる
しかし、もし本当に通貨となれば、えらいことになるな、とも思いました。
主権国家は自国通貨を持つからこそ強い。通貨発行益は隠れた大きな収入源ですし、債務を自国通貨で返済するから破綻がないわけです(これはMMT(現代貨幣理論)のバックボーンでもあります)。しかし、自国通貨よりも他のものが上位概念となると、国は単なる市場の1プレーヤーに成り下がるので、市場から資金が取れなくなって破綻する可能性が高まります。通貨供給量を調整して景気をコントロールしたり、社会的弱者を守ったりということができなくなり、大変なことになります。よって簡単に暗号資産(仮想通貨)にその地位を明け渡すわけにはいかないのです。
金本位制のときがそうでした。金(ゴールド)は各国が発行する通貨よりも、価値的に上位にある存在でした。強い国、貿易黒字の国に金は吸収され、弱い国は疲弊、社会はデフレになり、景気後退から抜け出せなくなり、最終的には大戦へとつながっていったわけです。
戦後、ブレトンウッズ体制となり、米ドルだけが金との交換性を維持しましたが、これは失敗だったと言われています。なぜならば、米ドルの価値を金で担保するというのは、金の方が米ドルよりも価値があるものということになるからです。
「金は究極の通貨、通貨の中の通貨」という概念は、いずれ消えるかもしれないと思っています。それは、長い歴史の中で刷り込まれた「共同幻想」だからです。第2次大戦前までは、戦乱が続き、国境線もすぐに変わり、国家というものがまったく安定していませんでしたが、今は違います。しかし、逆に、より強化される可能性も同時にあります。各国の財政金融政策がかなり緩く、通貨供給量が増え続けるので、各国通貨の価値は下落せざるを得ないからです。
■金価格を支えているのは共同幻想。人はビットコインの価値に共同幻想を持つか?
金には「本源的価値」があります。さまざまな工業用途に使われますし、ジュエリー(宝飾品)需要があります。よって、金がどんなに売り込まれても、そうした実需に基づいた価値がバックストップとなり、ゼロにはなりません。
しかし、実需に基づく金の価格はかなり低い。それより高い値段で取引されるのは、やはり、多くの人が金こそが究極の通貨であり、価値貯蔵の手段と思っているからです。「共同幻想」ゆえの、上乗せされた値段です。
(出所:TradingView)
ビットコインには「本源的価値」はありません。だから、金の代わりにはならないと考えていました。
しかし、金が究極の通貨の役割を果たすのは、人々が金にはそうした価値があるとする「共同幻想」を受け入れているからです。そうであるなら、未来の人たちがビットコインにもそうした価値があるとする「共同幻想」を受け入れるならば、ビットコインが金の代わりになる(他の暗号資産もそうなる)可能性はあるということです。
かつて私の上司であった、元ゴールドマン・サックスCEOのロイド・ブランクファイン氏は、「ビットコインは好きではないが、将来もそうならないというのは傲慢だ」と語っています。「コンセンサス通貨」になりうるのではないかと、示唆していました。
■ビットコインが「暗号資産」から「通貨」に変わればすごい需要が…
数カ月前、米決済大手のペイパル(PayPal)がビットコインによる決済を認める方針を発表しましたが、これは、ビットコインが「暗号資産」から「通貨」に変わった瞬間だったと思います。これまでは、決済で使える範囲は極めて限定的でした。だから通貨ではなかったのですが、本当に使えるようになると、ビットコインは通貨になります。
【参考記事】
●一時200万円へ! ビットコインはなぜ上昇?コロナ組参入、DeFiバブル、ペイパル参入
ツイッター(Twitter)の共同創業者であるジャック・ドーシー氏が創業した米決済大手スクエア(Square)では、以前からビットコインによる決済機能をアプリ内に実装しています。
今後、他のところでも決済として使えるようになるでしょう。そうなると、通貨として、ある程度を社会全体で保有していなければならなくなります。それだけでもすごい需要です。自律的に相場が上昇しはじめる可能性がでてきました。ビットコイン/円は急上昇して2021年の年明けほどなく400万円に到達しましたが、この時点での時価総額はまだ70兆円前後です。金のように社会全体で1000兆円を超える時価総額になるとすれば、まだ十数倍以上、上昇余地があることになります。そうなったとしたら、ビットコインは米ドルを超える存在になっていることになります。
■「主権国家 VS 暗号資産」へ
米ドルが基軸通貨であることが、米国の強さです。よって、暗号資産(仮想通貨)が米ドルの地位を奪おうとするならば、米国は全力で排除しようとするのではないでしょうか。米国は世界最大の債務国であり、経常収支が常に赤字です。それでも、そのことがまったく気にならないのは、米ドルが基軸通貨であるからです。
新興国の場合、経常収支はなんとしても黒字にしなければなりません。そうしなければ、自国通貨が売り込まれてしまいます。過去、何度もそうした通貨を見てきました(最近ではトルコリラ)。米国以外の国は、ハンディキャップを背負っているのです。
仮に、米ドルが基軸通貨でなくなったとします。そのとき、米国は自国通貨の価値を保つため、金利を引き上げなければならなくなります。それは経済にブレーキをかけますが、選択肢はありません。そうするしかないのです。
また、中国も規制という点では進んでいます。デジタル人民元を発行する予定の中国政府は、暗号資産を一切認めていません。当然でしょう。よって、ビットコインが本当に米ドル並みの活躍を見せた場合、米国や中国は全力でビットコイン阻止に動く可能性が十分大きいと思っています。
しかし、問題は、本当に止められるのか?です。
リップルのように、売り出す会社があるなら、攻撃は簡単です。でも、ビットコインのように、運用主体がない暗号資産の場合、法律で規制してもなかなかうまくいかないかもしれません。
■「主権国家 VS 米IT企業(GAFAM)」の構図も
2019年に米中貿易戦争が激しくなりましたが、為替市場ではそれほど大きな混乱はありませんでした。リスクオフの円買いがもっと起きても良かったのでは、と思っていましたが、そうはなりませんでした。
米中対立に目が行っていましたが、実は本当の対立は米IT企業と国家にあるのではないかと思います。対立していると言うよりは、米IT企業が国家の枠を飛び越えてビジネスをし、規制がない中、税金を回避しながら、とてつもない競争力を身につけています。
実際、株価を見ても、S&P500の構成銘柄の中からGAFAM(※)の5社を抜いた495社(S&P495)のパフォーマンスは、上がってはいますが、それほど目覚ましいものでもありません。投資資金はGAFAMおよび、その周辺のIT企業群に集中しています。また、これまでの世の中の変化を振り返っても、新しいことはGAFAMなどが作り出しており、これから本格的なAIの時代を迎えるにあたって、未来を作るのはやはり米IT企業群ではないでしょうか。
(※編集部注:「GAFAM」とは、米国の主要IT企業であるアルファベット(旧グーグル)、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフトの5社を指す言葉で、5社の頭文字をつないだ造語)
(出所:TradingView)
トヨタ自動車が今年(2021年)、全固体電池を使った車をリリースすると発表しています。画期的な技術ではありますが、だからと言って、テスラの株がそれで暴落するということはありません。むしろアップルがEV(電気自動車)の市場に進出するというニュースの方が効きました。AIをハンドルする力が、米企業以外にはないと判断されているのでしょう。
これまで、我々はiPhoneによって、世の中がどのように変わったかを体験しています。その中で、日本の家電メーカーは没落していきました。次は車かもしれません。
■ビットコインは押し目があれば買うべき局面へ
米IT企業は国境を簡単に飛び越えます。物凄く優秀な起業家の元に天才集団が集まり、とんでもない未来を提示していきます。彼らに対する規制論はよく聞きますが、なかなか規制できないのは、彼らの技術革新が優れているからです。止めると、米国の国力が落ちるからです。
アマゾンに対する敵意を剥き出しにしていたトランプ大統領ですが、結果的にしたことは、喧嘩しているふりをして彼らのビジネスを助けるということでした。フランスがデジタル税を課そうとしたとき、それに激怒して、「フランスのワインに関税をかける」と脅したのはトランプ大統領でした。
アマゾンの税負担に不満を述べ、数多くの小売業者を廃業に追い込んだなど、常にアマゾンを槍玉に挙げて攻撃していたトランプ米大統領。しかし、結果的にはアマゾンのビジネスを助けていたと志摩氏は指摘している (C) Chip Somodevilla/Getty Images News
米中対立もありますが、より本質的なのは「主権国家 VS IT企業」であり、IT企業に資金が集中し、彼らの技術革新がますます進み、その一方、国家群が疲弊していく姿があります。こうした中で、主権国家の通貨が存在感を低下させ、徐々に暗号資産(仮想通貨)、ビットコインへと移る姿を想定している米企業家は多くいます。もしかすると、その入口に入ってきたのかなと感じます。
ペイパルのニュースを聞いたとき、ビットコインの景色は変わると感じましたが、もっとしっかり考えておくべきでした。あまりにも高いですが、押し目があればビットコインを買うべきフェーズに入ってきたのでしょう。
(リアルタイムチャートはこちら → 暗号資産リアルタイムチャート:ビットコイン/米ドル(BTC/USD)日足)
(リアルタイムチャートはこちら → 暗号資産リアルタイムチャート:ビットコイン/円(BTC/JPY)日足)
どこかで、国家側からの反撃はあると思いますが、米企業、米投資家群がビットコインを認めはじめている以上、今後、ビットコイン相場は簡単には落ちないのでしょう。
(以上、『志摩力男のグローバルFXトレード!』2020年12月27日配信分の一部を加筆修正のうえ掲載)
(編集担当/ザイFX!編集部・堀之内智)
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