今後の世の中はどうなるのか? それを考える上で、下記の2点が重要かと前回のコラムで書きました。
【参考記事】
●この先、世の中はどうなる? コロナ感染は抑制されて好景気に。円安傾向強まるか(2月10日、志摩力男)
(1) ワクチン接種が進んでコロナ感染は抑えられ、人々の移動が復活。米国を中心に世界は好景気を迎える
(2) 長期的な流れでは、バイデン政権となり、従来の化石燃料から再生可能エネルギーへのシフトが進む
今回は(2)に関して、書きたいと思います。
■「グリーン水素」の実現で、温暖化ガス排出量はゼロに
長期的には、再生可能エネルギーのみで世界のエネルギー需要を賄うことになるはずですし、それは可能です。
しかし、エネルギーは安定して供給されなければならないものの、太陽光にしろ、風力にしろ、再生可能エネルギーによる発電は、かなりの変動を伴います。
出力を安定させるためには、一時的にエネルギーを何かに蓄えなければならないのですが、現在、広く使われているリチウムバッテリーでは、容量・コスト両面で限界があります。
そこで、「水素」が有力視されています。
水素の製造には、さまざまな方法があります。現在は、天然ガス等の化石燃料から作り出す「ブルー水素」が主流ですが、それでは二酸化炭素を排出します。
再生可能エネルギーにより発電し、その電力で水を電気分解して作り出す「グリーン水素」でなければなりません。
それが実現する時、温暖化ガス排出量をゼロにすることができますし、その時人類はエネルギー問題から解放されることになります。
■今後は貴金属の産出国が重要に
再生可能エネルギーを作り出すには太陽光が有力ですが、その時、「銀」が使われます。
また、水を電気分解して水素を作り出す時、電極に「プラチナ」や「イリジウム」が必要となります。
EV車(電気自動車)が動くにはモーターが必要ですが、「銅」「コバルト」が使われますし、現在、主流のリチウムイオンバッテリーには、名前のとおり「リチウム」が必要となります。その他、さまざまな希少金属、「レアアース」も使われます。
現代は、石油産出国がエネルギー安全保障上重要ですが、今後は、こうした貴金属を産出する国が重要となってくるでしょう。
■貴金属産出国である南アフリカと豪州の通貨が上昇基調
ウィキペディア等を参考に、貴金属の主要産出国と、その産出率をわかる範囲で列挙してみると、以下のとおりです。
「銀」…ペルー(17%)、メキシコ(15%)、チリ(7%)
「銅」…チリ(37%)、アメリカ、ベル-
「プラチナ」…南アフリカ(78%)、ロシア
「イリジウム」…南アフリカ、ロシア
「ロジウム」…南アフリカ、ロシア
「パラジウム」…南アフリカ、ロシア
「コバルト」…コンゴ(60.8%)
「ニッケル」…豪州(36%)
「リチウム」…豪州(87.4%)
こうしてみると、為替市場に関係するのは、プラチナ等の南アフリカ、そしてニッケル、リチウムの豪州が重要でしょうか。
【参考記事】
●プラチナ高騰で南アフリカランドが上昇! ドル紙幣は新興国やオセアニア通貨へ流れる(2月15日、西原宏一&大橋ひろこ)
●豪ドル、鉄鉱石急騰を受けて上昇継続! 長期では水素燃料関連の報道も買い材料に(2020年12月17日、西原宏一)
実際、両国の通貨はこのところ上昇基調にあります。特に南アフリカランドは長期ダウントレンドを上抜け、大きく上昇するように見えなくもありません。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
■将来的に豪州は産油国のような立場になりえる
また、再生可能エネルギーをどこで発電するかということも重要です。
できれば自国で発電したいのですが、例えば日本で再生可能エネルギーを作り出すのはコストがかかります。四季があり、雨が降り、風が弱いからです。
砂漠地帯がある豪州、北アフリカ、中東等々や、風に恵まれているチリ等では、再生可能エネルギーによる発電コストは相当安くなります。
日本の場合、豪州の電力で作り出した水素を、液化水素にして輸入するというのが、安く済ませる方法の1つとなるでしょう。
そうなると、将来的に豪州は水素輸出国となり、現在の産油国のような立場になりえます。
ただ、こうした話は将来的なことです。
水素社会に移行し、電極にプラチナが必要だとしても、実際にどの程度、需要が短期的に高まるかというと、極めて限定的で、マーケットへのインパクトはゼロに近い。
よって、マーケットを語る上でのストーリーでしかないとも言えます。
■原油価格は100ドルまで上昇するか、という話も…
しかし、バイデン政権による再生可能エネルギーシフトは、思わぬ方向に市場を動かす可能性が短期的にはあります。
現在、コロナの影響で石油需要は極端に落ち込んでいますが、ワクチン接種で世の中が正常化すれば、石油需要は簡単に戻ってきます。
その時、米国はフラッキング(※)を一部禁止したように、シェールオイル産出に対する見方が厳しくなっていますので、簡単に増産できない可能性があります。
(※編集部注:フラッキングとは、シェールオイル産出のための水圧破砕法のこと)
そうなると、現在はOPEC(石油輸出国機構)が原油生産をコントロールしているので、原油需要が高まると、意外に原油価格が急上昇する可能性があります。
70~80ドルぐらいまでの上昇が可能でしょうが、もしかすると100ドルという話もちらほら出てきています。
(出所:TradingView)
■原油価格上昇やインフレは円安材料。今後続く可能性も
原油価格が上昇すると、日本は貿易赤字になるので、円安材料です。
また、インフレになりやすくなるので、米金利が上昇しやすくなります。これも合わせて円安材料です。
年初の予想とは違い、現在、やや円安方向に米ドル/円相場は動いていますが、これが今後、続く可能性も見えている感じがします。
【参考記事】
●2021年の米ドル/円は、少し円高方向か。95~105円程度がコアのレンジと想定(2020年12月23日、志摩力男)
(出所:TradingView)
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