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田向宏行
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陳満咲杜の「マーケットをズバリ裏読み」

暗号資産総崩れでも有事の円高にならず。
台湾有事の可能性が悪い円安の地合いを作る

2021年05月21日(金)18:34公開 (2021年05月21日(金)18:34更新)
陳満咲杜

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■暗号資産の暴落は“ショック”ではなく想定内

 金融市場の本質は不確実性にあり、だからこそいろいろジンクスというか、「都市伝説」みたいな言い伝えがある。「有名な女優さんが結婚すると相場は暴落する」といったジンクスは、その典型だと思う。

 2021年5月19日(水)、新垣結衣さんの結婚発表で市場関係者はまた騒ぎ出した。

 昨年(2020年)10月1日(木)、石原さとみさんが結婚を発表した日に東証の取引システムがダウンした記憶も新しいだけに、今回は翌5月20日(木)の東京株式市場にまたショックをもたらすのでは…と半分冗談、半分警戒されていた。

 しかし、想定と違い、翌日(20日)の株より大きく崩れたのは19日の暗号資産(仮想通貨)市場だった。それでも、ガッキーショックはやはり効いたと、日本人しか通用しないジンクスがまた「証明」されたわけだ。

【参考記事】
新垣結衣さん結婚が金融市場に波及!? 暗号資産暴落! ガッキーショックの意味とは?

暗号資産VS米ドル 4時間足
暗号資産VS米ドル 4時間足チャート

 

(リアルタイムチャートはこちら → 仮想通貨リアルタイムチャート:対米ドル相場 4時間足) 

 暗号資産相場の話は深追いしたくないが、1点だけ記しておきたい。それは他ならぬ、ビットコインをはじめ、主要暗号資産の値動きから、すでに大きなベア(下落)トレンドへの突入が明白に示唆されていたということだ。

 よって、暴落は早晩あり得たことで、ガッキーショックなどはもちろん、中国政府の取り締まり政策やら、イーロン・マスク氏のあおりや豹変など外部要素はあっても、それらはあくまで引き金を引いただけで、本質的な原因ではないということだ。

 少しテクニカルの基礎知識があれば、誰でも判断できるように、ビットコインは2021年4月高値からすでに大きく反落、「上昇ウェッジ」の下放れを果たしたあと、4月安値が3月安値を割り込んだ。

 そして、5月高値への切り返しも4月高値に遠く及ばす、また、その後再度反落。4月安値どころか、2月末安値も割り込んでいたから、大きな「三尊天井」に近い弱気構造が露呈し、また、下放れが確認されていたから、さらなる安値トライ自体、むしろ当然の成り行きであった。

ビットコイン/米ドル 日足
ビットコイン/米ドル 日足チャート

(出所:TradingView

 だから、「パニック相場」とか、「ショック」とかの表現に、筆者は違和感を覚える。

 もともと暗号資産市場の変動率は大きいから、暴落があってもサプライズではない上、構造上のベアトレンドの強さは火を見るよりも明らかだったから、ショックと言われても困る。

 逆に言えば、内外を問わず、暗号資産相場の参加者の多くは未熟すぎで、少なくともテクニカルの視点においては、為替相場に鍛えられてきたミセス・ワタナベに学んでほしいところだ。もちろん、ガッキーさんとはまったく関係ない話である(笑)。

【参考記事】
ビットコイン暴落を示唆していたビットコイン・ドミナンスとは? 2017年バブルと同じ「40%」!(高城泰)

■暗号資産総崩れでも「有事の円高」にはならず

 為替の話に戻ると、暗号資産市場の総崩れがあったから、円全面高の市況になるのではないかという、一部市場参加者たちからの連想も多かった。

 しかし、結果的に執筆中の現時点において、そのような市況は見られず、円は相変わらず主要外貨のうち最弱の存在である。

 たびたび指摘してきたように、そもそも「有事の円高」というロジックは古い。円はもはや、リスクオフの対象、すなわちリスク回避先としての役割を失ったから、元の地位には戻りにくい。

 マクロ的な構造の変化に加え、コロナショック後の円のパフォーマンスも、よい証明材料の役割を果たしてきた。

 コロナショック直後の安値を割り込めず、逆に2021年年初来、大きな上昇を果たした米ドル/円は、米ドル全体のパフォーマンスから大きく乖離した値動きとなり、最近の安値が107円台前半に留まったのも円の弱さを鮮明に示唆している。

米ドル/円 週足
米ドル/円 週足チャート

(出所:TradingView

■円の地位沈下へ拍車をかけるワクチン接種率の低さ

 円の弱さに関して、あえてファンダメンタルズの材料から解釈すれば、最近、急浮上している一大要素が見逃せない。

 昨年(2020年)のGDP(国内総生産)や、今年(2021年)第1四半期のGDPが示したように、日本の景気はコロナショックの大打撃を受け、戦後最悪のマイナス成長に陥っている。

 これはもちろん円売り材料として捉えられるが、もっと大事な要素も見逃せない。それはほかならぬ、他の先進国との格差だ。

 言ってみれば、その昔、「有事の円高」というロジックが通用したのは、日本の景気後退が世界の景気後退と連動していたからこそであり、2008年のリーマンショックやその後の低迷期において、円高の進行が確認されたわけだ。

 しかし、コロナショックは違っていた。なにしろ、欧米日ともに大規模な財政出動や金融緩和を取ってきた分、景気の急速な悪化があったにもかかわらず、株価をはじめ資本市場が著しく上昇していたので、リスクオフの円高には至らなかった。

 さらに、最近になってわかったことも重なり、円の地位沈下へさらに拍車がかかった。それがワクチンの接種率である。

 現時点において、G7の中で日本のワクチン接種率は最下位に留まり、また、それで景気回復も一番遅れると予測される(ほぼ確実)から、リスクオフになっても円は買われにくい。

 それどころか、円はリスク回避先からリスク資産そのものへ変わりつつあるかと思われるほど構造的な変化が見られるから、これからさらなる円安の余地は大きいと思う。

■これから欧米との格差は拡大していく一方だろう

 構造的な問題を言い出したらきりがないと思いつつ、今回のコロナショックに対する日本政府の対応のみを取り上げたい。

 確かに日本は欧米に比べ、コロナ死者数は全然少ない方だが、それは政府の対策が良かったからではなく、日本の民度が高かっただけの話である。政府の方は、民度頼みばかりで無策、無能、無力ぶりを「遺憾なく発揮」してきたのではないかと、誤解を恐れずにあえて言いたい。

 筆者は来日30年、今回ほど日本が国として果たして機能できるかどうか、疑問視したことはなく、また、動揺することはなかった。だから当然、円を売りたくなるわけだ。

 10年前、あの福島第一原発事故のとき、多くの方が民主党政権を批判し、「自民党なら違ったはず」と口にした記憶がある。しかし、今回の一件でわかるように、問題は与党ではなく、日本という国の危機管理が弱く、「打たれ弱い」構造であることなのだ。これは容易には解消されないと思う。

 もう1年以上も経ったが、コロナ感染拡大を抑制できず、また、医療崩壊も避けられなかったこと自体が、何より本質を露呈させている。リスクオフの進行があっても円が買われにくいことは明白である。

 より深刻、また、現実的な問題として、日本政府の財政出動の金額自体、GDPに対して半分に近い規模なので、先進国の中で財政負担が一番重かったにもかかわらず、ワクチン接種率の低さで景気回復が一番遅くなる可能性が極めて大きいということがある。これから欧米との格差は拡大していく一方になる恐れが大きい。

 景気回復度合いの格差自体が、必ずしも為替レートと連動するとは限らないが、ポストコロナの展望をまったく描けない日本にとって、円がその格差のまま売られる余地は大きい。

■台湾有事となれば、日本には取り返しがつかない大打撃

地政学の視点でも、円はこれから売られる通貨になるリスクが大きい。台湾有事が現実なシナリオとなりつつある現在、台湾有事の場合、リスクオフの円高になるといった従来のロジックを展開する「識者」もいるが、まったくその逆だと筆者は思う。

 なにしろ、台湾有事の場合は、日本は紛争の最前線になるから、円はリスクそのものとしてまず売られるだろう。

 中国の軍事愛好家が集まるサイトを少し覗ければわかるように、現役軍人を混じえた台湾有事に関する討論では、「中国統一に日米の軍事介入必至と考える人民解放軍は、在日米軍基地の先制攻撃も辞さない」といった主張が圧倒的に多い。

 これは決して戯言ではない。台湾有事があれば、「打たれ弱い」構造のままでは、日本は取り返しのつかない大打撃をこうむるだろう。このような懸念がますます強まっていくと推測され、長期スパンにおける「悪い円安」の地合いを作っていくと思う。

 何だか政治コラムみたいな口調、また、暗い話で申し訳ないが、本当は円を愛する筆者の杞憂であってほしい。

 最後に、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)における外貨高・円安の流れは当面不変、また一段と加速する可能性があることを記しておこう。

 詳細はまた次回、市況はいかに。

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