■ビットコイン暴落! 最高値から約50%下落
ビットコイン/円が一時、351万円まで暴落した。4月につけた史上最高値707万円から約50%の下落だ。
その後、切り返して400万円台を回復したものの、1日の下落率では今年(2021年)最大であるのはもちろん、2016年以降でも9番目の大きさとなる下落だった。
(リアルタイムチャートはこちら → 暗号資産リアルタイムチャート:ビットコイン/円(BTC/JPY) 日足)
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何が急落のきっかけとなったのか。
ちまたで「戦犯」とされるのは、中国の中央銀行であるPBC(中国人民銀行[中国の中央銀行])だ。
投機的な取引へ警告するとともに、金融機関などに対して暗号資産(仮想通貨)の取扱禁止を通達したことが、急落を引き起こしたとも解説されるが、あとづけ感は否めない。中国はすでに2017年の段階で、暗号資産へ厳しい規制をかけていたからだ。
中国関連の報道はきっかけに過ぎず、むしろ昨年末(2020年末)から続いてきた上昇相場への調整が進んだことで「売りが売りを呼んだ」と見るべきだろう。
暗号資産統計サイト「bybt」によると、5月19日(水)に発生したロスカットは約80億ドル。その多くが暴落の起きた5月19日(水)21時前後に集中しており、「下げる→ロスカットが発生する→さらに下げる→さらにロスカットが発生する」との連鎖で急落したと推測できる。
この暴落により、大手取引所ではサーバダウンや接続障害が相次いだ。
ナスダックへ上場したばかりの米大手コインベース 、日本最大手のbitFlyerで取引できない時間が発生したほか、証拠金取引で人気のFTX、世界最大の取引所とされるバイナンスでもログイン不能などのトラブルを訴えるツイートが散見された。
Coinbase is down for some users as Bitcoin sees massive selloff https://t.co/9OXE9LCGIX
— CNBC (@CNBC) May 19, 2021
5 月 19 日(水)午後 9 時 53 分頃から当社サービスにアクセスしにくい状態となっておりましたが 5 月 20 日(木)午前 0 時 46 分現在、全てのサービスが正常に稼働しております。お客様にご迷惑をおかけしましたことを心よりお詫び申し上げます。 https://t.co/Pk0OhKE7Ka
— bitFlyer status (@bitFlyer_status) May 19, 2021
■イーロン・マスク主演・演出による暗号資産ミュージカル「テスラ座の怪人」!?
ロスカットの連鎖が生んだ暴落だったが、センチメントを悪化させたのはテスラCEOのイーロン・マスクだった。
そもそも、今回の暗号資産バブルを生み出したのは、テスラに代表される米国の事業法人だった。その流れを改めて振り返ってみよう。
最初に市場を驚かせたのはマイクロストラテジーだ。2020年8月に約2.5億ドル(約2万BTC) のビットコイン投資を発表してからも買い増しを続け、5月時点の保有量は9万2079BTC。発行済枚数の0.44%を保有する「大クジラ」となっている。
マイクロストラテジー以降も法人によるビットコイン購入の波は続いた。決済大手のスクエア、生保大手のマスミューチュアル生命保険などが続き、超大物であるテスラ参入へとつながっていく。
【参考記事】
●一時200万円へ! ビットコインはなぜ上昇? コロナ組参入、DeFiバブル、ペイパル参入
テスラのビットコイン購入には予兆があった。テスラCEOのイーロン・マスクは2020年末、ビットコインのロゴ入り画像をツイッターにアップした。
志摩力男さんが「とても子供には見せられない、また、キリスト教徒の方であれば、眉をひそめるもの」(2021年2月8日配信、『志摩力男のグローバルFXトレード!』より)と評する過激な画像だ。
【参考コンテンツ】
●志摩力男のグローバルFXトレード!
ここからイーロン・マスク主演・演出による「テスラ座の怪人」とも題すべき壮大な暗号資産ミュージカルが始まった。
テスラCEOのイーロン・マスクは2020年末、ビットコインのロゴ入り画像をツイッターにアップ。ここからイーロン・マスク主演・演出による「テスラ座の怪人」とも題すべき壮大な暗号資産ミュージカルが始まった (C)Getty Images
■イーロン・マスクの発言にビットコインは一喜一憂
イーロンがアップした過激な画像にマイクロストラテジーCEOが反応。ビットコインの購入を薦めた2か月後の今年2月、テスラによる15億ドルのビットコイン投資が明らかになった。
イーロンはさらに、テスラの電気自動車(EV)をビットコインで買えるようにしたり、話題となった音声SNSのクラブハウスでビットコインを推奨したりと、ビットコインを煽るような行動を繰り返し、ビットコインは史上最高値へと向かっていく。
ところが、4月下旬になると風向きは明らかに変わった。
テスラ社が第1四半期に保有するビットコインの約1割を売却していたことが明らかになり、さらにはテスラがビットコイン決済の停止を表明。イーロンがビットコイン売却を辞さない姿勢を示したツイートの直後に起きたのが、今回の暴落劇だった。
イーロンのツイートに着目していた大橋ひろこさんは、5月17日(月)公開の「FX&コモディティ(商品) 今週の作戦会議」のなかで、こう話していた。
【参考記事】
●豪州の経済予想は、今後上ブレがほぼ確実と言えるワケは? 豪ドル/円の押し目買い継続(5月17日、西原宏一&大橋ひろこ)
こうした一連の行動をチャートに示すと、いかにイーロンの動向で市場が一喜一憂してきたかが一目瞭然だ。
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(出所:TradingView)
■「テスラ兼ドージコインCEO」イーロン・マスク
イーロン・マスクの「買い煽り」がビットコイン以上に奏功したのが、アルトコイン(ビットコイン以外の暗号資産)のひとつ、ドージコインだった。
ドージは掲示板でのやり取りから生まれた「ジョークコイン」。
ネットならではのノリで行われた「ドージコインのCEOは誰がいいか?」とのアンケートをもとに、勝手にCEOへ任命されたのがイーロン・マスクだった。
ノリだったはずのCEO就任だったが、これ以降、イーロンはツイッターを通じて定期的にドージを買い煽っていく。今年に入ってからはその頻度も増えて、ドージコイン/米ドルは年初の0.005ドルから0.76ドルまで恐ろしい勢いで暴騰していた。
(出所:TradingView)
■柴犬、秋田犬が跳躍した「ドージ多発テロ」
ドージの暴騰が誘発したのが「犬バブル」だ。
ドージコインのアイコンは柴犬のイラスト。同じように犬をアイコンとしたトークン(※)が一斉に買われたのだ。
(※編集部注:「トークン」とは、ビットコインやイーサリアムなどのブロックチェーンを使って発行される独自の暗号資産のこと)
「ドージコイン・キラー」を自称する「SHIBA INU」、「Akita Inu」などの「犬コイン」が続々と買われ、暴騰していった。
「お犬戦争」とも「ドージ多発テロ」とも称される犬コインたちの跳躍によりSHIBは5月10日(月)、ついにバイナンスへの上場を果たす。
上場直後に暴騰し、2日目からはしなびていくIPO(新規株式公開)銘柄を思わせるような「上場ゴール」型のチャートを描いて、どうやらクライマックスとなったようだ。
(出所:TradingView)
■DeFi、NFT、IEO
ドージ多発テロ以前にも「暗号資産内バブル」とも言える動きは相次いでいた。
どんなバブルがあったのか、耳慣れない単語も多いと思うが、駆け足で紹介していこう。
【参考記事】
●一時200万円へ! ビットコインはなぜ上昇? コロナ組参入、DeFiバブル、ペイパル参入
昨年来から急速に広まった「DeFi(分散型金融)」は今年、SNSでインフルエンサーが盛んに「イールドファーミング」や「流動性マイニング」をつぶやいたことで、利用者が急増。DeFiの市場規模を示す指標は100億ドルへと達した。
3月には「NFT(非代替性トークン)」を利用したデジタルアートが75億円で落札され、大きなニュースとなった。株式市場でもNFTが旬のテーマとなるなど、世界的な話題ともなっている。
もうひとつ、3月ごろからブームとなっていたのが「IEO」によるトークンセールだ。「IEO? ICOではなくて?」と思う人もいるかもしれない。
【参考記事】
●「ICO」とは? 「IPO」と何がどう違うの? テックビューロ発、「COMSA」のしくみは?
2017年バブルでは暗号資産版IPOである「ICO」が盛り上がったが、新たなアルトコインの新規売り出しがICOだ。
GACKT氏がプロモーションに携わった「SPINDLE」などの話題を覚えている人もいるのではないだろうか。
ICOでは問題点もあった。発行者のなかにはモラルが欠如した発行者もいて、「コインを売ったらあとは放ったらかし」となるプロジェクトも少なくなかったのだ。
先述のSPINDLEも、5月時点で0.0075円。ほぼ無価値となっている。投資家が発行者の信頼性を判断し、投資を決断する必要があった。
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「だったら取引所が発行者を審査して信頼に足るものだけを売り出そう」という発想で始まったのが、取引所を通じた新規売り出しであるIEOだ。
世界的な大手取引所であるFTXで行われるIEOからは、暴騰する銘柄が続出。3月に0.125ドルでIEOされたOXYGENは上場初日、9ドルの高値をつけた。72倍の値上がりだ。「当たればテンバガー(10倍株)!」と購入希望者が殺到する事態となっていた。
■イーサリアム史上最高値の背景は?
DeFi、NFT、IEO、お犬戦争――これらのイベントによってアルトコインの価格は総じて上昇していった。
それを示すのが、「ビットコイン・ドミナンス」という指標だ。暗号資産全体の時価総額に占めるビットコインの割合であり、これと暗号資産全体の時価総額を見ることで相場の現在地がおおよそ把握できる。
下のチャートでは暗号資産全体の時価総額と、ビットコイン・ドミナンスを表示させている。時価総額は5月19日(水)の急落まで右肩上がりに増えており、新たなマネーの流入を示している。
ところが、ドミナンスは1月から低下傾向を示しており、特に3月末以降は角度を強めて低下している。今年入ってきた新たなマネーはビットコインよりもアルトコインへ、より多く流れていたことになる。いわゆる「アルトのターン」だ。
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(出所:TradingView)
3月末以降に何があったのか。イーサリアムの急騰だ。
DeFiやNFTといったテーマ性に加え、イーロン・マスクも指摘した「ビットコインのマイニングは電力のムダ使い、エコじゃない」との批判も追い風となった。イーサリアムでは電力消費がより少ない「PoS(プルーフ・オブ・ステーク)」への移行が始まっているからだ。
(出所:TradingView)
■循環物色の最終地点。ビットコイン・ドミナンスが示唆していたビットコイン暴落
暗号資産市場が盛り上がる時期には、「ビットコイン→主要アルトコイン→その他のアルトコイン」という順序で資金が移っていく傾向がある。
「ビットコインは高すぎて買えない、もっと安いイーサを買おう、イーサも上がってきたから。次はもっとマイナーなコインを――」と物色の対象が循環していくのだ。
循環物色の流れを裏返せば、マイナーなアルトコインまで物色されるようになれば、ひと相場が終わるということでもある。そのとき、ビットコイン・ドミナンスは限界まで低下する。
ドミナンスの下限はどこか。参考になるのが2017年に始まった前回のバブルだ。
ビットコインが高値をつけたのは2017年12月17日(日)。遅れること1か月、イーサリアムは2018年1月13日(土)に高値をつけた。循環物色のとおりだ。
この時点でドミナンスは40%割れまで低下。その1週間後にはビットコインが160万円から100万円割れまで大暴落し、バブル崩壊の始まりを告げた。
(出所:TradingView)
そして今回の暴落前日の5月18日(火)、ビットコイン・ドミナンスは40%割れ寸前まで低下していた。イーサリアムが史上最高値を更新したのは6日前だった。
(出所:TradingView)
犬も食わないトークンが買われる相場は循環相場の極北であり、それによりビットコイン・ドミナンスが低下し、40%前後へ達すると、ビットコイン暴落が近い、ということが前回、そして今回のバブルから言えそうだ。
(出所:TradingView)
2017年バブルと同じ展開になるなら、ここから暗号資産は冬の時代を迎えることになる。
ただ、個人投資家頼みだった前回バブルと違い、今回は法人や機関投資家が生み出したバブル。「下がれば買いたい」と思っている機関投資家も多いようだ。
マイクロストラテジーは5月の急落時に2度、500BTCを買い増している。こうした押し目買いがあるため、今回の相場は底堅いとの見方も強い。
幾度かの急落を繰り返しながら、年内に10万ドルの節目をめざす、というのがコンセンサスでもある。
ビットコインが10万ドルに達してもまだ、時価総額は2兆ドル弱。世界最大のアップルには及ばない。ビットコインの行く末に注目だ。
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(文/ミドルマン・高城泰 編集担当/ザイFX!編集部・藤本康文)
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