■米ドル/円とドルインデックスの連動に注目
昨日(2021年6月3日)、米ドル全体(ドルインデックス)は切り返しを果たした。
(出所:TradingView)
ADP雇用統計、米新規失業保険申請件数、そして、ISM非製造業景気指数の指標がともに雇用回復を示す内容となったことで米ドル買いが進んだわけだが、そんななかで米ドル/円の上昇が目立ち、米ドル/円と米ドル全体の連動性が注目されるところだ。
(出所:TradingView)
もっとも、為替市場をあまり知らない方からすれば、米ドル/円と米ドル全体の値動きが連動すること自体、まったく当然と思われ、そこを強調する意味がわからないかもしれない。
ドルインデックス(米ドル全体)が上昇すれば、米ドル/円も上昇すると連想されることは多いが、実はそれはケースバイケースであり、どちらかというと、よく見られる現象とは限らない、といえる。
ドルインデックスにおけるシェアは、円はユーロに続き2番目の地位を占めるが、ユーロの57.6%に比べてずっと小さい13.6%に留まる。その上、実はドルインデックスとの連動性は統計上、3番目の英ポンド(同11.9%)、4番目のカナダドル(同9.1%)よりも劣っている。
【ドルインデックスの構成割合に関する参考記事】
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要するに、今まで円は特別な存在だったから、米ドル全体との連動性が一般人の想定ほどは強くなかった。
その原因は他ならぬ、円がリスク回避先と見られてきた経緯にあった。素人でもよく耳にする言葉、「有事の円高」はその象徴であった。
要するに、円はリスク回避先として見られてきた経緯があったから、マクロ環境の悪化があるたびに円は買われて、それが米ドル/円と米ドル全体のパフォーマンスの連動性を薄めてきたわけだ。
■コロナショックで従来のロジックが一変した
ちなみに、「有事の米ドル買い」という言葉があるように、米ドル自体もリスク回避先として見られてきたが、円のパフォーマンスには勝っていなかった。
その好例として印象に残るのは、やはり2008年のリーマンショックであろう。世界的金融危機の発生で米ドルが円以外の外貨に対して買われる一方、対円のみ大きく下落、結果として主要クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)の暴落、すなわち円の急騰をもたらした。
しかし、このような現象やロジックは、昨年(2020年)、コロナショックで一変した。
コロナショック後の高値から、米ドルは対円以外の外貨において大きく売られてきたが、対円のみ下落幅がかなり限定的であり、2021年年初来、対円では一転して大きく上昇した。
2021年年初来のドルインデックスのパフォーマンスが保ち合いに留まり、また、足元まで弱含みで、いったん2月安値を割り込む場面があったにもかかわらず、米ドル/円のみは強気変動を維持してきた。
(出所:TradingView)
その分、当然のように主要クロス円は軒並み高値更新を続け、昨年(2020年)のコロナショック後の安値から大型V字反騰を果たした上、2018年高値の更新に迫る強いブル(上昇)トレンドの構造を示している。このブルトレドはさらに延長される公算が高いと思われるわけだ。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 月足)
つまるところ、昨年(2020年)のコロナショックで円の役割は大きく修正され、円はもはや「リスク回避先」としての役割を失っている。最近になると「円を持つこと自体がリスク」と思われるほど売られているから、昨日(2020年)のように、米ドル全体の切り返しがあると、米ドル/円がリードして上昇するのも理解されやすいかと思う。
円は主要外貨の中で、最弱な位置にあることを再確認しておきたい。
■米雇用統計の数字が悪い方が米国株が上がる?
ところで、昨日(6月3日)は米経済指標の好転で米ドルの切り返しがあったが、米国株の方はポジティブな反応をしなかった。
(出所:TradingView)
無理もない。あえて言うなら、今夜(6月4日)リリースされる米雇用統計の数字は想定より悪い方が、実は株を押し上げると思う。
なぜなら、雇用環境が改善されない方が金融緩和策の継続につながり、雇用環境が改善されればされるほどテーパリング(※)の思惑が喚起されるからだ。
(※編集部注:「テーパリング」とは、量的緩和政策により、進められてきた資産買い取りを徐々に減少し、最終的に購入額をゼロにしていこうとすること)
この意味合いにおいて、少なくとも市場関係者の中には、目先、米雇用環境が改善してほしいと願う人はあまり多くないと推測される。
また、米雇用統計の結果を問わず、米ドル/円は上昇傾向を維持できると思う。
なぜなら、米雇用統計が改善される場合は米ドル全体の切り返しが進み、米ドル/円も連動して上昇しやすいが、想定より悪化する場合はテーパリングの思惑後退で株が買われやすく、今度はリスクオンの米ドル買い・円売りが進みやすいとみられるからだ。
そして、このことのポイントはやはり、リスクオンの米ドル買いである上、リスクオンの円売りであるということを強調しておきたい。
なぜなら、円安の流れは本物、また円売りがメイントレンドとして定着している以上、リスクオフの円買いがあまり見られない分、リスクオンのムードが強ければ強いほど円は売られやすい側面も大きいからだ。
ゆえに、主要クロス円における外貨高・円安の流れは続き、また、さらに上値余地を拡大するとみる。米ドル全体の切り返しがあっても、米ドルが弱含む基調は一気に修正できないから、たとえスピード調整的な円高があってもしばらく値動きは限られるだろう。
■クロス円のスピード調整は押し目買いの好機
さらに前述のように、米ドル全体の切り返しが進む場合は、米ドル/円の方がよりリードして上値トライする傾向にあるから、主要クロス円におけるメイントレンド、すなわち上昇トレンドが維持される公算が高い。
それどころか、仮にスピード調整があれば、主要クロス円における押し目買いの好機として利用しないともったいないだろう。
一見して「買われすぎ」と思われる主要クロス円の上昇トレンドは、維持されればされるほど逆張りの投機筋が参入してくる。よって、何らかの材料でいったん反落してくれば、トレンド転換だとのベア(下落)トレンドの始まりだのといった見通しや思惑の浮上でショートポジションが貯まり、それが踏み上げられることも推測される。
しかし、経験則から言えば、このような状況や市場センチメントにおいては、往々にしてメイントレンドがさらに進み、それが逆張り筋の踏み上げをもたらすから、結果的に逆張り筋の投機は失敗に終わる公算が大きい。
そして、逆張りの投機筋の失敗があるからこそ、一見「買われすぎ」のブルトレンドがさらに加速していくと推測される。
相場は理外の理と言われるが、よく見れば理にかなうところも多い。市況はいかに。
(PM1:50執筆)
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