■市場の「旬の材料」はテーパリング
ファンダメンタルズ上の視点から言えば、マーケットの流れを測るには材料というものがある。マーケットにはいろいろな材料があり、また、それらはお互いに影響し合うものではあるが、そのなかで支配力を持つ材料が必ずある。
言ってみれば、材料にも「旬」というものがあり、足元の「旬の材料」と聞かれたら、間違いなく「テーパリング」を大半の市場関係者は挙げることだろう。
テーパリング (Tapering)は、 量的金融緩和策の縮小を意味する。 一般的に、中央銀行が実施している毎月の資産購入の規模を徐々(段階的)に縮小していき、最終的に資産購入額をゼロにすることを指す。
おもしろいことに、「テーパリング」という言葉自体は、医療用語でもある。この場合、患者に投与する薬剤などを少しずつ減らしていくことを意味する。
一気にやめるのではなく、徐々に投薬を減らしていくケースのほとんどが、一気に中止すると副作用が出てくる薬剤に限られるようだが、中央銀行が景気対策として打ち出した量的緩和も一気にやめると、間違いなく「副作用」が出る。
よって、それ自体が「危険な処方箋」であったのかもしれない。
■テーパリングを最初に実施し、カナダドルは急騰
現時点において、先進国のなかで率先してテーパリングを実施したのはカナダである。カナダ中銀(BOC)は4月の会合で国債買い入れ目標額を従来の40億カナダドルから30億カナダドルへ減額、出口政策をスタートさせた。
ゆえに、カナダドルは米ドルに対して急騰。米ドル/カナダドルはコロナショック後の高値(つまり、カナダドルの安値)からこれまでほぼ一本調子で下落し、カナダドル高が進んできたが、今回のテーパリング発表がさらに後押しとなって、2017年の安値(カナダドルの高値)を更新することとなった。
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厳しいコロナ禍に対応するため、先進国・地域をはじめとして、世界中で莫大な財政出動や金融緩和が行われてきただけに、世界中にお金が溢れており、これが株、不動産から暗号資産まで、資産価格の高騰をもたらした。
暗号資産市場に至っては間違いなく人類史上最大のバブルを形成し、また、それはすでにいったん弾けたとみられる。
■出口政策の有無によって通貨の価値に明暗
副作用の大きな緩和策は、永遠に続くわけがない。よって、出口政策の有無によって通貨の価値の明暗は分かれる。
テーパリングの実施自体はもちろんのこと、今後の実施の有無や実施開始時期に関する思惑もしばらく為替市場を支配する材料として利用され、また、それがマーケットの本流を作り、その流れはこれからさらに加速していくことだろう。
最近のニュージーランドドルの急騰は、その好例であった。
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ニュージーランドのテーパリング実施の可能性は、今現在はなお先であることと予測されるが、ニュージーランド中銀は声明文の中で、利下げの余地をいったん否定しただけに、カナダに続き、2番目のテーパリング実施となる公算が高まっている。
したがって、ニュージーランドドル高は自然の成り行きであり、これからも高値トライしやすい環境にあると推測される。
もちろん、これは防疫においてニュージーランドが先進国の中では優等生だったからこそということもある。それが市場コンセンサスの形成に寄与している。
したがって、これからの諸通貨の強弱は、テーパリングの可能性の有無やそれが実施される時期によって決定されると言っても過言ではない。また、マーケットの値動きはすでにそのあたりの事情をだいぶ織り込んでおり、通貨の高安もすでにはっきり見えている。
だからこそ、自分勝手な推測をやめ、素直にマーケットの本流に乗ればよい。なぜなら、マーケット自体が市場参加者の集大成なので、値動き自体が市場参加者たちの考えや思惑をすべて織り込んでおり、値動き自体がもっとも明白な答えであるからだ。
■英国もテーパリング実施候補国として浮上
昨日(5月27日)、英ポンドが急伸した。英中銀(BOE)のブリハ委員が、労働市場の回復が想定より早ければ、来年(2022年)前半でも利上げはあり得ると発言し、テーパリング実施候補国として英国が浮上していることが明らかとなった。
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もっとも、英国は戦時体制を取り、いち早く国民へワクチン接種を行っている。防疫において今の英国は、米国やEU(欧州連合)よりも優等生であることが、早期利上げの信憑性を高めている。
ゆえに、英ポンドの強気変動はしばらく続く見通しで、対円はもちろん、対米ドルや対ユーロでの高値トライが確実視される。
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■円安は本物、安易に逆張りしてはいけない
その他の主要通貨、ユーロ、米ドル、豪ドルと円の話になると、テーパリングの可能性で言うなら、日本は一番遠い存在なので、円が一番弱い存在であることは間違いない。
だからこそ、ずっと言ってきたように、円安は本物、安易に円安という大潮に対して逆張りしてはいけない。
昨日(5月27日)の報道では、バイデン米大統領は今後10年間、年間1兆3000億ドル以上の赤字を維持しながら、6兆ドルの予算を提出するつもりで、第二次世界大戦以来の最高レベルの予算案を組もうとしているという。
米ドルを刷って撒くという意味合いでは、これは本来、米ドル売りと連想されやすいが、リスクオンと解釈され、対米ドルの通貨ペアの中では、米ドル/円の上昇がもっとも目立った。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 4時間足)
米ドル/円の上昇があると、米長期金利の上昇と連動したからといった解釈もよく聞かれるが、昨日(5月27日)、円以外の主要外貨は、利上げ示唆のある英ポンド以外、実は値動きが限定的だった。
そこから考えると、円の弱さには日米格差ではなく、より構造的な背景があることが悟れる。
それは、日本の景気回復の遅れ、そしてテーパリングに一番遠い存在であるからということのほかあるまい。
■目先は対英ポンドなどで米ドル安を享受できそうだが…
米第1四半期GDP成長率は、改定値も6.4%増となり、米景気回復の強さを再確認。労働市場の逼迫もあって、イエレン米財務長官はまたインフレの高まりを懸念。このことは米大型赤字予算案がもたらすマイナス要素を相殺する側面もあったが、究極のところ、基軸通貨である米ドルはそもそも赤字体質で、また、基軸通貨だからこそ、赤字が膨らんでいくとしても通貨の価値が維持されるという特権がある。
そのあたりの話は、かなりマクロ的な要素をもって説明しなければならないから、ここでは深堀りしないが、要するに、米ドル全体(ドルインデックス)は2018年安値を割り込むまで下落するかもしれないが、ガンガン下値余地を拡大していくことも想定しにくい、ということだ。
米財政の赤字膨張をもって米ドル安を予想、また、追随して米ドル売りのポジションを作るなら、目先は対英ポンドなどの外貨にて有効と思われるが、より長いスパンにおいて、それがずっと通用するとは限らない。
どこかの時点で頭の切り替えも必要になってくるだろう。
■日本は景気後退の恐れ、円売りの可能性はますます高く
話を円の方へ戻すが、弱い米ドルでも対円では上昇が確認されているのだから、円が一番弱い存在であることが際立っている。
前回のコラムでも指摘したように、日本の防疫事情自体、先進国の中で一番だらだらと続いており、感染拡大を阻止する有効手段のないまま、ワクチン接種の遅れで、景気回復の遅れどころか、景気後退をもたらすリスクさえ大きい。
【参考記事】
●暗号資産総崩れでも有事の円高にならず。台湾有事の可能性が悪い円安の地合いを作る(2021年5月21日、陳満咲杜)
昨年(2020年)のマイナス成長に続き、今年(2021年)第1四半期のマイナス5.1%成長(年率換算)もショッキングな数字で、このままでは第二四半期もマイナス成長になると予測される。
3回目の緊急事態宣言がさらに延長されるなか、日本の景気後退はもはや現実味を増しており、円売りの可能性はますます高まる。
だからこそ、弱い米ドルでも少し材料が出れば対円の大幅上昇を演じ、主要クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)に至っては、十分上昇してきたにもかかわらず、さらに高値を更新し続け、一段と円売りのモメンタムを強めている。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 日足)
繰り返しとなるが、マーケットにおける円安の本流に逆張りしてはいけない。円売りが一段と推進されるのは、むしろこれからだと思う。
ちなみに、逆張りを得意とするミセス・ワタナベさんの多くがユーロ/円の逆張りをしているとの報道もあって、早期テーパリングの可能性が非常に低いユーロでも対円の上昇モメンタムを維持できる見通しだ。
なぜなら、安易なユーロ売り・円買い筋が踏み上げられるから…だ。
市況はいかに。
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