(「ニュージーランドドル/円はなぜ、原油価格との連動性が高いのか?」からつづく)
資源国通貨として有名な豪ドル、ニュージーランドドル、カナダドル、南アフリカランドの動きと、関連性が高いものを探っていくシリーズ。第2弾の前回はニュージーランドドルを取り上げ、ニュージーランドドル/円と原油価格の連動性が高い理由などを探っていきました。
【参考記事】
●ニュージーランドドル/円はなぜ、原油価格との連動性が高いのか?
第3弾の今回取り上げるのはカナダドルです。カナダといえば米国の北側に接する広大な国で、産油国でメープルシロップが名物で……といったイメージですが、ここで第1弾、第2弾記事にて紹介した4つの資源国(豪州、ニュージーランド、カナダ、南アフリカ)の主要輸出品目を改めて確認してみると、以下のとおりです。
(出所:JETRO「世界貿易投資動向シリーズ」)
ニュージーランド以外の3カ国は代表的な輸出品目は鉱物資源で、カナダの主要輸出品目の構成比は原油などを含む鉱物性生産品が26.5%となっていました。カナダドルは「産油国通貨」とも呼ばれるくらいですから、原油との相関がかなり高そうですが、実際にはどうなのでしょうか?
また、こちらも第1弾、第2弾記事で紹介したものですが、資源国通貨について一般的に言われている傾向などをまとめてみると、以下のようになるでしょうか。
資源国通貨について一般的に言われている傾向
・ 資源価格が上昇すると、資源国通貨が上昇する
・ 原油が上昇すると、原油を産出していない国も含めて資源国通貨全体が上昇する
・ 株高でリスクオンになると、資源国通貨が上昇する
・ 資源国の長期金利が上昇すると、資源国通貨が上昇する
上記のうち、「資源価格が上昇すると、資源国通貨が上昇する」「原油が上昇すると、原油を産出していない国も含めて資源国通貨全体が上昇する」については、カナダドルと原油の動きを見ていけばよさそうです。
そこで、今回はカナダドル/円と米ドル/カナダドルのチャートに、原油価格、日米株価指数、通貨ペアにかかわる長期金利の金利差のチャートを重ね合わせたものを見ていきたいと思います。参照期間は2020年11月から2021年7月です。
また、これらに加えて今回は、カナダドルと木材価格の関係がどうなっているのかも探っていきたいと思います。
なぜかというと、記事冒頭でカナダのイメージについて「メープルシロップが名物」と触れましたが、カナダにはメープルシロップの元となる樹液が取れる木、メープルなどの木材資源が豊富に存在するからです。カナダの国旗の中央に描かれた赤い葉っぱが、メープルの葉(メープル・リーフ)であることも、カナダと木材の関係が切っても切り離せないものであろうことをうかがわせます。
また、新型コロナウイルスの感染拡大以降、米国を中心に都心の集合住宅から郊外の一戸建てへ移住する人が急増。新築やリノベーションに伴う木材需要が高まり、木材価格が高騰する「ウッドショック」が発生しました。そういったこともあり、木材価格の高騰とカナダドルの関連性が果たして高いのかを確かめてみようということです。
【参考記事】
●木材相場が1カ月で2倍の急騰! その木材相場をCFDで取引できるって知ってた?
●次にテーパリングに動くのは米国なのか? 材木相場続伸で、カナダドル/円は95円目標(5月13日、西原宏一)
●テーパリング着手で上昇のカナダドルは、材木相場の急騰で、さらに買い妙味アリ?(5月6日、西原宏一)
産油国通貨のカナダドル、原油との相関が高い状況がずっと続くわけではない
それではまず、カナダドルと原油の動きに関連性があるのかを見ていきましょう。
カナダドル/円とWTI原油先物のチャートは以下のとおりです。
(出所:TradingView)
2020年11月から2021年3月半ばまで、カナダドル/円と原油は変動幅や方向が一部異なる時期も見受けられるものの、総じて右肩上がりで上昇。3月末から4月半ばはいずれも方向感を欠くなど、まずまず高い相関関係にありました。
ところが、4月末以降、カナダドル/円と原油の相関が崩れます。4月末から5月の原油は引き続き方向感が出なかったものの、カナダドル/円は上昇。これは4月21日(水)にBOC(カナダ銀行[カナダの中央銀行])が資産買入れを従来の毎週40億カナダドルから30億カナダドルへ減額すると発表し、テーパリング(※)に着手したことを受けたものでした。
(※編集部注:「テーパリング」とは、量的緩和政策により、進められてきた資産買い取りを徐々に減少し、最終的に購入額をゼロにしていこうとすること)
【参考記事】
●テーパリングに着手したカナダ。カナダドルは全面高! 次は、米国やオセアニア?(4月22日、西原宏一)
そして、6月半ばにかけて原油は上値を試す展開だった一方、カナダドル/円は調整が進み、まったく逆の動きとなりました。これは、6月16日(水)にFOMC(米連邦公開市場委員会)が利上げ実施時期の見通しを前倒すなどタカ派的な内容を発表したことにより、金融市場でリスクオフのムードが一時高まったためです。
6月末にかけてはカナダドル/円が反発したものの、7月に入ると下げが加速。原油はいったん上昇が止まったものの、高値圏を維持しており、相関が戻ったとまでは言い切れない動きとなっています。
産油国通貨と呼ばれるカナダドルですが、そうだからといって、原油との相関が高い状況がずっと続くというわけでもないようです。
続いて、米ドル/カナダドルとWTI原油先物の動きを見ていきます。WTI原油先物は上下を反転し、チャートが下がるほど価格は上がるチャートとします。
(出所:TradingView)
2020年11月から2021年3月半ばまで、米ドル/カナダドルと反転した原油はいずれも勢いよく下落し、カナダドル高と原油高が進行。3月末から4月半ばはいずれももみ合いとなるなど、かなり高い相関が見受けられました。
しかし、その後は相関が崩れています。4月21日(水)にBOCがテーパリングを決定すると、5月にかけてカナダドル高が加速。その間、原油は引き続きもみ合いとなりました。6月になると、原油高が再開しましたが、カナダドルは6月16日(水)のFOMCのタカ派的な内容を受けたリスクオフをきっかけに反落するなど、逆行した動きとなっています。
木材はカナダを代表する輸出品ではないが、木材価格とカナダドルは結構相関が高い
次に見ていくのは、カナダドルと木材価格の動きです。ウッドショックで木材価格が高騰したことは記事前半で触れたとおりですが、ここでカナダの主要輸出品目をもう少し詳しく紹介すると、以下のとおりです。
【参考記事】
●木材相場が1カ月で2倍の急騰! その木材相場をCFDで取引できるって知ってた?
(出所:JETRO「世界貿易投資動向シリーズ」)
2019年のカナダの主要輸出品目の構成比は鉱物性生産品が26.5%だったわけですが、木材などは2.8%と鉱物性生産品の10分の1ほどの輸出規模しかないようです。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う、新築やリノベーション関連の木材需要で、2020年や2021年の木材などの構成比は2019年の2.8%より増えてはいそう……ですが、カナダの国旗の中央にメープルの葉が描かれているからといって、木材はカナダを代表するほどの輸出品ではないようです。
そんな木材の価格とカナダドルの関係はいったいどうなっているのでしょうか。カナダドル/円とシカゴ木材先物は以下のように動いていました。
(出所:TradingView)
2020年11月から2021年2月半ばは、カナダドル/円と木材が連動しながら上昇。3月半ばにかけてカナダドル/円は上昇したものの、木材は横ばい。3月末から4月半ばはカナダドル/円が横ばいで、木材が上昇しましたが、チャート全体で見ればいずれも右肩上がりでした。
そして、4月21日(水)のBOCのテーパリング決定を受けて、4月末から5月初めのカナダドル/円は急上昇。一方の木材もウッドショックで急騰し、高い相関関係を見せました。
しかし、木材はその後状況が一変。5月半ばから6月にかけて、1700ドル台から700ドル割れまで暴落しました。カナダドル/円は5月半ばから6月初めは高値圏でのもみ合いが続いたものの、6月16日(水)のタカ派的なFOMCを受けたリスクオフなどをきっかけに、調整が進んでいます。
カナダドル/円と木材は変動幅が大きく異なる時期もあるものの、全体的にはそこそこ連動している感じです。
続いて、米ドル/カナダドルと反転したシカゴ木材先物を見ていくと、以下のとおりです。
(出所:TradingView)
2020年11月から2021年5月初めにかけて、米ドル/カナダドルはキレイな下落トレンドを形成し、カナダドル高が進みました。反転した木材はというと、2020年12月末から1月初めや、2月半ばから3月半ばに少し切り返す動きも見られたものの、基本的には右肩下がりで木材高が進行。米ドル/カナダドルとの相関は結構高いように見えます。
5月半ばから6月にかけては、一転して木材安が加速した一方、カナダドルは6月初めまで安値圏のもみ合いを続けて相関が崩れかけましたが、6月半ばからカナダドル安が進んで相関が戻っています。
カナダの輸出品構成比26.5%の鉱物性生産品のひとつである原油と、カナダドルの相関性は基本的に高いものの、足もとで崩れていることは先ほど触れましたが、鉱物性生産品の10分の1ほどの輸出規模しかない木材と、カナダドルの相関は足もとにおいてもそこそこ高い、という意外な結果となりました。
ウッドショックで市場の注目が集まった木材ですから、もしかしたら、木材の輸出規模の大小よりも「木材といえばカナダ」というイメージで、カナダドルとの連動性が高まっているのかも…しれませんね。
カナダドルはNYダウと相関が高い時期と、日経平均と相関が高い時期に分かれる
次に見ていくのは、カナダドルと日米株価指数の動きです。カナダドル/円と日経平均、NYダウの日足チャートは以下のようになりました。
(出所:TradingView)
2020年11月から2021年2月は日経平均とNYダウがグイグイ上昇した一方、カナダドル/円はじりじりと下値を切り上げながら上昇した感じで、変動幅に違いがあるものの、総じて上昇基調でした。
3月以降、日経平均は上下しながら上値を切り下げる動きとなった一方、カナダドル/円とNYダウは4月初めから半ばこそ逆の動きとなったものの、その時期以外は連動していて、日経平均よりNYダウのほうがカナダドル/円との相関が高い時期にありました。
もっとも、7月に入るとカナダドル/円の調整が加速。日経平均も下げ幅を広げた一方、NYダウは高値圏を維持しており、NYダウより日経平均との連動性が高まっています。
カナダドル/円はNYダウと相関が高い時期と、日経平均と相関が高い時期に分かれるのかもしれません。
そして、米ドル/カナダドルと反転した日経平均、反転したNYダウは以下のように動いていました。
(出所:TradingView)
2020年11月から2021年2月は米ドル/カナダドル、反転した日経平均、反転したNYダウはいずれも下落していますが、反転したNYダウのほうが米ドル/カナダドルと絡みつきながら下落していて、高い相関関係にありました。
3月以降、日本株は冴えない動きとなる一方、米国株は比較的好調な状態が続き、日経平均とNYダウの動きは違いが大きくなってきました。
上に掲載した反転した日経平均と反転したNYダウのチャートでいえば、反転した日経平均は下値を切り上げましたが、反転したNYダウはさらに下落しました。一方、米ドル/カナダドルは3月半ばから4月半ばは方向感が出ませんでしたが、4月末から再び下落。5月半ばから6月半ばは反転したNYダウと米ドル/カナダドルが安値圏でもみ合いとなるなど、両者の相関は高い時期が続きました。
6月末から米ドル/カナダドルが反発した一方、反転したNYダウは戻りの鈍い展開となっていて、逆行した動きとなっています。一方、反転した日経平均は足もとで米ドル/カナダドルと似たような動きをしており、日経平均と米ドル/カナダドルの相関が高まっている感じです。
カナダドル/円とカナダ日長期金利差に高い相関
最後に、カナダドル/円とカナダ日長期金利差、米ドル/カナダドルと米カナダ長期金利差の関係を確認しましょう。
本記事では、長期金利差を、長期金利の代表的な指標とされる10年債利回りの金利差で算出することにします。つまり、カナダ日長期金利差はカナダと日本の10年債利回りの金利差、米カナダ長期金利差は米国とカナダの10年債利回りの金利差ということです。
まず、カナダドル/円とカナダ日長期金利差のチャートから見ていくと、以下のようになりました。
(出所:TradingView)
カナダドル/円とカナダ日長期金利差は基本的に高い相関があるように見えます。
気になるところとしては、4月21日(水)のBOCのテーパリング決定を受けてカナダドル/円は急上昇した一方、カナダ日長期金利差は高値圏でのもみ合いが続いたところが挙げられます。
けれど、カナダドル/円の急上昇も落ち着き、6月以降、上値が切り下がると、カナダ日長期金利差も頭が重くなるなど、相関関係は戻っているようです。
続いて、米ドル/カナダドルと米カナダ長期金利差の動きを確認しましょう。
(出所:TradingView)
米ドル/カナダドルは2020年11月から5月初めに下落し、6月末に反発するという動きでした。
しかし、米カナダ長期金利差は長い目で見れば、徐々に右肩下がりになってはいるものの、しばしば上下に行ったり来たりしてハッキリとした方向感があまりなく、米ドル/カナダドルとの相関は薄そうに見えます。
カナダドル/円とカナダ日長期金利差には基本的に高い相関があったにもかかわらず、米ドル/カナダドルと米カナダ長期金利差は相関が薄そうというのは、非常に両極端な結果と言えるのではないでしょうか。
まとめ
ここまで、2020年11月から2021年7月のカナダドルの動きと、原油、木材、日米株価指数、通貨ペアにかかわる長期金利差の動きの関連性について探ってきました。
カナダの代表的な輸出品目である鉱物性生産品のひとつである原油と、カナダドルの相関性は基本的に高いものがありました。けれど、足もとでは原油とカナダドルが逆行する動きも見られるなど、カナダドルが産油国通貨だからといって、原油との相関が高い状況がずっと続くというわけでもないようです。
また、カナダの国旗にメープルの葉が描かれるほど縁が深い木材と、カナダドルの動きを見てみると、結構相関が高く、足もとで原油とカナダドルの相関が崩れているにもかかわらず、木材とカナダドルは足もとでもそこそこ相関している、という意外な結果となりました。
木材はカナダを代表するほどの輸出品ではないのですが、木材の輸出規模の大小よりも「木材といえばカナダ」というイメージで、カナダドルとの連動性が高まっているのかもしれません。
そして、カナダドルと日米株価指数の比較では、NYダウとの連動性が高い時期と、日経平均との連動性が高い時期に分かれることがわかりました。
それでは、カナダドルと長期金利差の関係がどうだったかと言えば、カナダドル/円とカナダ日長期金利差には基本的に高い相関があった一方、米ドル/カナダドルと米カナダ長期金利差は相関が薄いという、非常に両極端な結果となりました。米ドル/カナダドルを取引する際、米カナダ長期金利差を気にする必要もなさそうです。
最後に、今回の内容は、2020年11月から2021年7月という期間において、カナダドルの動きと、カナダドルに関連性が高そうなものの動きに着目したものです。本記事で取り上げたカナダドルとの相関の有無や強さが今後も永遠に変わらないかどうかはわかりません。
とはいえ、直近では本記事で取り上げたような動きをしてきたのは事実です。カナダドルをトレードする際は、なんとなくのイメージだけでトレードするのではなく、こうした傾向をしっかり把握したうえで、トレードしてみてはいかがでしょうか。
(ザイFX!編集部・藤本康文)
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