先日、当コーナーでは、くりっく365の南アフリカランド/円で実勢価格とかけ離れた異常な“暴落”が起こったことをお伝えしたが、その後、くりっく365に動きがあったので、そのことをお伝えしたい(「大事件か!? 先週末に短時間で大暴落したくりっく365の南アフリカランド/円」参照)。
■その時、何が起こったのか?
これは10月30日(金)の取引——実際の東京時間の時刻としては10月31日(土)の午前5時直前にくりっく365の南アフリカランド/円が、11.5円付近から8.5円付近までごく短時間の間に暴落したという“事件”だった。
この時、現地・南アフリカでは特に何の大事件も起きておらず、くりっく365以外の店頭取引などで提示されていた南アフリカランド/円の実勢レートは、11.5円付近で平穏無事なままだった。
暴落したのは、くりっく365の南アフリカランド/円だけだったのだ。
11月2日(月)の段階でこの件について、くりっく365を運営する東京金融取引所は「市場動向からマーケットメイカーが提示した市場レートであり、システム障害等によるものではありません」との発表を行っていた。
つまり、8.5円近辺というのは、くりっく365が正常に提示したレートであり、システム面で何か問題が起こったわけではないと正式発表されたのだった。
このため、くりっく365で南アフリカランド/円を買っていた投資家の中にはストップロスに引っかかって損切りを余儀なくされた人や、有効証拠金が大きく減って強制ロスカットされてしまった人もいた模様だ。
このような事態に対し、ネット上などでは、投資家の間から疑問の声が上がっていた。
■極めて広いスプレッドのレート提示が行われた
これに対し、11月6日(金)になって、東京金融取引所は異常なレートが提示された際の状況説明と投資家に対する救済措置を発表した。
まず、異常なレートが出現した時の状況だが、当日はマイナー通貨の流動性が急速に低下している状況下で、くりっく365のマーケットメイカーのうち1社が、極めて広いスプレッドのレート提示を行ったとのこと。
ちなみに現在、くりっく365のマーケットメイカーは以下の5社となっている。
・ゴールドマン・サックス証券
・ドイチェ・バンク・アクチエンゲゼルシヤフト(ドイツ銀行)
・コメルツバンク・アクツィエンゲゼルシャフト(コメルツ銀行)
・野村證券
・三菱東京UFJ銀行
これらのマーケットメイカーが提示するレートを合成し、くりっく365は投資家に対して最良の売り気配と最良の買い気配を提示しているが、くりっく365で取り扱いのあるすべての通貨ペアに対して、すべてのマーケットメイカーがレート提示を行っているわけではない。
南アフリカランド/円について、何社のマーケットメイカーがレート提示を行っていたのかは不明だ。
■運命の午前4時59分33秒
話を戻すと、10月31日(土)の東京時間午前5時直前、くりっく365のマーケットメイカーは南アフリカランド/円について、11円台にいくつかビッドを置いておき、その下は8.415円にビッドを置いていたようだ。
ビッドというのはマーケットメイカーが出す買い気配。投資家から見れば、“売れる価格”ということになる。
この時、詳細は不明だが、ある程度の投資家のまとまった売りが出たためか(?)、11円台のビッドがすべて約定したあと、運命の午前4時59分33秒に、8.415円というおそろしく下の方にあるレートで約定してしまったのである。
この件について、このコーナーでは「南アフリカランド/円の暴落」という表現でお伝えしてきたが、マーケットメイカーは極めて広いスプレッドのレート提示を行っていたわけだから、暴落したのはビッド(投資家が売れる価格)だけ。アスク(投資家が買える価格)は正常なままだったようだ(「大事件か!? 先週末に短時間で大暴落したくりっく365の南アフリカランド/円」参照)。
つまり、暴落によって異常に安いところで南アフリカランド/円を売らされた投資家がいる一方、異常に安いところで南アフリカランド/円を買えたラッキーな投資家はいなかったことになる。
そして、8.415円のビッドが約定したあと、8.435円のビッドも約定。結局、くりっく365の南アフリカランド/円の終値は8.435円ということになった。ちなみにこの時のアスクは11.535円だ。
以下の画像はこの時のくりっく365の「マーケット情報」だが、南アフリカランド/円には約3円あまりの巨大なスプレッドが開いていたことがわかる。
つまり、暴落によって異常に安いところで南アフリカランド/円を売らされた投資家がいる一方、異常に安いところで南アフリカランド/円を買えたラッキーな投資家はいなかったことになる。
そして、8.415円のビッドが約定したあと、8.435円のビッドも約定。結局、くりっく365の南アフリカランド/円の終値は8.435円ということになった。ちなみにこの時のアスクは11.535円だ。
以下の画像はこの時のくりっく365の「マーケット情報」だが、南アフリカランド/円には約3円あまりの巨大なスプレッドが開いていたことがわかる。
■救済措置発表でまずは良かったか…
次に、今回発表された救済措置だが、投資家が希望を出せば、以下のことが行われることになった。
(1)異常な価格で約定した南アフリカランド/円の取引について、当該価格での反対売買を行う。
(2)異常な価格で約定した南アフリカランド/円の取引を直接の起因とするロスカット取引について、当該価格での反対売買を行う。
(2)は、南アフリカランド/円のポジションが変動したことにより、他の通貨ペアで強制ロスカットが起こったケースも含んだ救済措置だ。(2)異常な価格で約定した南アフリカランド/円の取引を直接の起因とするロスカット取引について、当該価格での反対売買を行う。
この措置は2009年11月13日(金)の15時まで、その投資家が取引をしていたFX会社で希望を受け付ける。受付には期限があることに要注意! 今回、損失をこうむった人は希望を出すことをお忘れなく!
ただ、このような措置を行わないで、これまでの取引を継続したい人は希望を出さなければOKだ(このまま取引を継続した方が儲かっているという人がもしいれば、希望を出さなければいい)。
今回の事件に絡む思惑から、11月2日(月)の東京市場では、ランド安・円高が進み、その他の通貨ペアもこの影響を受けて、円高が進んだようだ。
ただ、その後はランド高・円安に反転し、南アフリカランド/円は一時12円をつけるところまで回復してきた。つまり、あの“事件”が起こる直前のレートを上回ってきているのだ。
南アフリカランド/円の一件について、一時はどうなることかと思われたが、異常な事態に対する救済措置が今回発表されたことで、とりあえずは一安心といったところだろうか。
(ザイFX!編集部・井口稔)
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