(「カナダドルが産油国通貨だからといって、原油との相関がずっと高いわけではない。『木材といえばカナダ』で相関は結構高い」からつづく)
資源国通貨として有名な豪ドル、ニュージーランドドル、カナダドル、南アフリカランドの動きと、関連性が高いものを探っていくシリーズ。第3弾の前回はカナダドルを取り上げ、カナダドルが産油国通貨だからといって、原油との相関がずっと高いわけではないことなどがわかりました。
【参考記事】
●カナダドルが産油国通貨だからといって、原油との相関がずっと高いわけではない。「木材といえばカナダ」で相関は結構高い
シリーズ記事の最後となる第4弾の今回取り上げるのは南アフリカランドです。南アフリカといえばアフリカ大陸最南端の国で、ダイヤモンドや金(ゴールド)を産出する資源国で、2010年にはアフリカ大陸初のサッカーW杯(ワールドカップ)が開催されたり、2019年に日本で開催されたラグビーW杯では、準々決勝で日本を破った勢いのまま優勝したり……といったことが思い浮かびます。
【参考記事】
●ラグビーW杯出場20チームの通貨を調査! 珍しい通貨はFXで取引できる?(2019年10月4日)
ここで、第1弾から第3弾記事にて紹介した4つの資源国(豪州、ニュージーランド、カナダ、南アフリカ)の主要輸出品目を改めて確認してみると、以下のとおりです。
(出所:JETRO「世界貿易投資動向シリーズ」)
ニュージーランド以外の3カ国は代表的な輸出品目は鉱物資源で、南アフリカの主要輸出品目の構成比はダイヤモンド、金、プラチナ、パラジウムといった貴石、貴金属などが17.1%となっていました。また、鉱石・スラグおよび灰が14.6%でした。スラグというのは、鉱滓(こうさい)とも呼ばれるもので、鉱石などから目的金属を得る際に生じた、目的金属以外の溶融物質のことを指します。
ダイヤモンド、金、プラチナ、パラジウム、鉱石、スラグ、灰といったコモディティ(商品)のうち、今回は、先物市場で世界的に取引されている金、プラチナ、パラジウムを調査対象とし、南アフリカランドとの関連性を探っていきたいと思います。
また、こちらも第1弾から第3弾記事で紹介したものですが、資源国通貨について一般的に言われている傾向などをまとめてみると、以下のようになるでしょうか。
資源国通貨について一般的に言われている傾向
・ 資源価格が上昇すると、資源国通貨が上昇する
・ 原油が上昇すると、原油を産出していない国も含めて資源国通貨全体が上昇する
・ 株高でリスクオンになると、資源国通貨が上昇する
・ 資源国の長期金利が上昇すると、資源国通貨が上昇する
そこで、今回は南アフリカランド/円と米ドル/南アフリカランドのチャートに、金、プラチナ、パラジウム、原油価格、日米株価指数、通貨ペアにかかわる長期金利の金利差のチャートを重ね合わせたものを見ていきたいと思います。参照期間は2020年11月から2021年7月です。
南アフリカランド/円と金、プラチナ、パラジウムは連動する時期としない時期がハッキリ分かれている
はじめに、南アフリカランドと金、プラチナ、パラジウムの動きに関連性があるのか確認していきましょう。南アフリカランド/円とNY金先物、NYプラチナ先物、NYパラジウム先物のチャートは以下のとおりです。
(出所:TradingView)
南アフリカランド/円と金、プラチナ、パラジウムは連動する時期と連動しない時期が割とハッキリ分かれているようです。
2020年11月から2021年6月初めにかけて、南アフリカランド/円は時に調整を挟みながらも右肩上がりのキレイな上昇トレンドを描きました。
一方、2020年11月から2021年3月初めまで金は下落、パラジウムは横ばいだったものの、プラチナは2020年11月から2021年2月半ばまで急上昇。この頃はプラチナと南アフリカランド/円との連動性がまあまあ高い時期でした。
2月末から3月初めにかけてプラチナは調整したのち、6月初めにかけて高値圏でもみ合い。一方、パラジウムは4月末にかけて急伸。金も6月初めにかけて急伸しており、南アフリカランド/円との連動性が高まりました。
6月半ばになると、南アフリカランド/円、金、プラチナ、パラジウムがそろって調整。これは6月16日(水)のFOMC(米連邦公開市場委員会)が利上げ実施時期の見通しを前倒すなどタカ派的な内容を発表したことを受けたものでした。
6月末から7月にかけて金、プラチナ、パラジウムは反発したものの、南アフリカランド/円は戻りが鈍い展開。南アフリカのズマ前大統領の収監に抗議するデモの一部が暴徒化したことも南アフリカランドの重しとなっているようで、金、プラチナ、パラジウムとの相関関係が崩れつつあるのかなという感じです。
続いて、米ドル/南アフリカランドと金、プラチナ、パラジウムの動きを見ていきます。金、プラチナ、パラジウムは上下を反転し、チャートが下がるほど価格は上がるチャートとします。
(出所:TradingView)
米ドル/南アフリカランドは2020年11月から12月に下落して南アフリカランド高が進行。2021年1月から3月は一進一退、4月から6月初めに南アフリカランド高が再開し、6月半ばから7月にかけては南アフリカランド安が進んでいます。
それでは金、プラチナ、パラジウムはどうなっていたでしょうか。
2020年11月から1月は反転したプラチナと米ドル/南アフリカランドが絡みつくように連動。2月末にかけてはプラチナ高が加速した半面、南アフリカランド高はそこまで進まなかったものの、プラチナと南アフリカランドが上下するタイミングは3月にかけてもだいたい一致していた印象です。
4月から6月初めは南アフリカランド高が再開したわけですが、4月末にかけてはパラジウム高、6月初めにかけては金高が進んでおり、それぞれ連動性が高い時期でした。
そして、6月半ばはタカ派的なFOMCなどをきっかけに南アフリカランド安が進行。同時に金安、プラチナ安、パラジウム安も進みました。7月にかけても南アフリカランド安が進みましたが、コモディティ市場では金高、プラチナ高、パラジウム高が進んでおり、連動性が薄れてきています。
南アフリカランドと原油は基本的に相関が高い。逆行の時期から相関が戻るタイミングに妙味がありそう
次に見ていくのは、南アフリカランドと原油の関係です。
南アフリカの主要輸出品目の17.1%を貴石、貴金属などが占めることは記事前半で触れたとおりですが、南アフリカは原油についてはどれくらい輸出しているのでしょうか。南アフリカの主要輸出品目の構成比をもう少し詳しく見てみると、以下のとおりになります。
(出所:JETRO「世界貿易投資動向シリーズ」)
南アフリカの主要輸出品目の構成比で、鉱物性燃料は9.8%と4位でした。鉱物性燃料とだけ言われても、それが原油なのか、石炭なのか、天然ガスなのかわからない…のですが、JETROによると、南アフリカの主要生産鉱物は石炭とのこと。また、国連貿易開発会議(UNCTAD)などのデータでは、世界の石炭輸出額で南アフリカは5位にランクインするほどの石炭大国なのです。
つまり、南アフリカの主要輸出品目の構成比で、原油が占める割合はかなり小さいことが推察されますが、そんな原油と南アフリカランドランドの関係はどうなっているのでしょうか。南アフリカランド/円とWTI原油先物は以下のように推移していました。
(出所:TradingView)
南アフリカランド/円と原油は基本的に相関が高いようです。
細かいところを見ていけば、2021年1月初めや3月初めは原油が上昇した一方、南アフリカランド/円は下落して逆の動きとなりましたが、その後に相関は戻りました。
6月半ば以降、南アフリカランド/円はさえない展開だったものの、原油は上昇が続いて一時逆行しましたが、7月半ばには原油が下落して相関が戻りつつあるようです。
南アフリカの原油輸出は小規模なのに、これだけ原油価格と南アフリカランドが連動していることは一見すると驚きですが、南アフリカは石炭大国で、エネルギー資源価格は相互にある程度連動する部分があることを考慮すると、南アフリカランド/円と原油の相関が高いことに納得できる部分もあるのではないでしょうか。
そして、米ドル/南アフリカランドと反転したWTI原油先物の動きは以下のとおりです。
(出所:TradingView)
米ドル/南アフリカランドと反転した原油は2021年1月初め、3月初め、6月半ばから7月初めに逆の動きを見せたものの、それ以外の期間はいずれも連動しており、南アフリカランドと原油は高い相関関係にあるようです。
南アフリカランドと原油の相関が今後も続くと考えるならば、逆行の時期から相関が戻りそうなタイミングでトレードできれば、妙味があるのではないでしょうか。
南アフリカランドとNYダウは基本的に連動性が高いが、足もとでは崩れている
続いて、南アフリカランドと日米株価指数に関連性があるのか確認していきましょう。南アフリカランド/円と日経平均、NYダウのチャートは以下のとおりです。
(出所:TradingView)
南アフリカランド/円は基本的にNYダウとの連動性が高いようです。
2020年11月から2021年2月半ばは日経平均とNYダウが右肩上がりの上昇。南アフリカランド/円は2021年1月初めに一時調整したものの、全体的には上昇して、日経平均やNYダウとの連動性がそこそこ高い時期でした。
2月末以降、日経平均は上下に振れながら上値を切り下げる動きだった一方、2月末から6月初めはNYダウと南アフリカランド/円がともに上昇し、高い連動性を見せました。
その後、6月半ば以降、FOMCのタカ派的な内容などをきっかけに南アフリカランド/円は調整ムードに。NYダウも一時失速したものの、こちらはすぐに切り返しており、南アフリカランド/円と逆の動きとなりました。もっとも、7月半ばになってNYダウが反落しており、南アフリカランド/円とNYダウの連動性が戻りつつあるのかなといった感じです。
そして、6月半ば以降の日経平均に目を向けてみると、南アフリカランド/円と絡みつくように下落していて、足もとでは連動性が結構高いようです。
今度は、米ドル/南アフリカランドと反転した日経平均、反転したNYダウの動きを見ていきます。
(出所:TradingView)
米ドル/南アフリカランドは2021年1月から3月まで方向感が定まらない時期もあったものの、2020年11月から2021年6月初めまで、基本的に右肩下がりで南アフリカランド高が進みました。その間、反転したNYダウのチャートもきれいな下落トレンドを描いて、米ドル/南アフリカランドとのそこそこ高い連動性を見せました。
ただ、6月半ば以降、米ドル/南アフリカランドは反発したものの、反転したNYダウのチャートは下落傾向で逆行。7月半ばになって、反転したNYダウチャートは下げ止まりましたが、米ドル/南アフリカランドとの連動性が戻るかどうかといったところでしょうか。
反転した日経平均のチャートはというと、2020年11月から2月半ばに大きく下落したあと、2月末以降は下値を切り上げる動き。6月半ば以降は、反発した米ドル/南アフリカランドと、反転した日経平均の動きに連動性が高まったように見える状況です。
南アフリカ10年債などを購入するために、南アフリカランドが買われたのかも
最後に、南アフリカランド/円と南アフリカ日長期金利差、米ドル/南アフリカランドと米南アフリカ長期金利差の関係はどうなっているのでしょうか。
本記事では、長期金利差を、長期金利の代表的な指標とされる10年債利回りの金利差で算出することにします。つまり、南アフリカ日長期金利差は南アフリカと日本の10年債利回りの金利差、米南アフリカ長期金利差は米国と南アフリカの10年債利回りの金利差ということです。
先に米ドル/南アフリカランドと米南アフリカ長期金利差の動きから確認すると、以下のとおりです。
(出所:TradingView)
米ドル/南アフリカランドと米南アフリカ長期金利差は基本的に相関性がない…どころか、基本的に逆相関すらしているように見えます。
そこで、長期金利差を米国と南アフリカの10年債利回りの金利差ではなく、南アフリカと米国の10年債利回りの金利差である南アフリカ米長期金利差に差し替えて、米ドル/南アフリカランドとの動きを確認すると、以下になります。
(出所:TradingView)
米ドル/南アフリカランドと南アフリカ米長期金利差は絡みつくようにピッタリ連動している時期が長く、2021年1月初めを除けば、基本的にかなり高い相関性があるようです。
普通に考えてみると、南アフリカと米国で10年債利回りの差が南アフリカ優位に推移すれば、米ドル安・南アフリカランド高が進み、米国優位に推移すれば、米ドル高・南アフリカランド安と動きそうなもの。
しかし、実際には、それとはまったく逆に動いていたということになります。
このような現象はなぜ起きているのでしょうか。
明確にこれだと断言できるものではありませんが、南アフリカランドをめぐる金融市場において、南アフリカランドという通貨を買って、そのお金で南アフリカ10年債などを買う動きがかなり大きな割合を占めているのであれば、南アフリカランドの上昇に伴って、南アフリカ10年債価格が上昇(=南アフリカ10年債利回りは低下)するというような動きが起こっているのかもしれません。
コロナ禍で世界の中銀がゼロ金利政策や量的緩和策を打ち出してから1年以上経過しているわけですが、2020年11月から2021年7月の南アフリカ10年債利回りはおおむね8.4%から9.6%の間で推移していました。これは主要国の10年債利回りより格段に高い利回りです。
(出所:TradingView)
世界の中銀の金融緩和や各国政府による大規模なコロナ緊急経済対策でカネ余りの状況が生まれ、その資金が、主要国の国債より格段に利回りが高い南アフリカ10年債などに流入。その際、南アフリカ10年債などを購入するために南アフリカランドという通貨も買われた、という可能性はあるのかもしれません。
そして、南アフリカランド/円と南アフリカ日長期金利差の動きは以下のとおりです。
(出所:TradingView)
南アフリカランド/円と南アフリカ日長期金利差は、2020年12月から2021年1月にかけては動きがないという点が共通していますが、その時期以外は基本的に相関性がないようです。
先ほどと同様に、長期金利差を南アフリカと日本の10年債利回りの金利差ではなく、日本と南アフリカの10年債利回りの金利差である日南アフリカ長期金利差に差し替えて、南アフリカランド/円との動きを確認すると、以下になります。
(出所:TradingView)
南アフリカランド/円と日南アフリカ長期金利差は2020年11月から2021年2月半ばにかけて、変動幅に大きな違いはあるものの、いずれも右肩上がりで、連動性はそこそこ高いものがありました。
2月末から3月に日南アフリカ長期金利差は急落した一方、南アフリカランド/円は底堅く推移して、まったく違う動きとなりましたが、4月以降は再び連動性が高まっている状況です。
こちらも、2月末から3月以外の時期は、両者の連動性が高い状況にあり、その背後では利回りが高い南アフリカ10年債などを購入するために、南アフリカランドという通貨が買われるというような動きが起きているのかもしれません。
まとめ
ここまで、2020年11月から2021年7月の南アフリカランドの動きと、金、プラチナ、パラジウム、原油、日米株価指数、通貨ペアにかかわる長期金利差の動きの関連性について探ってきました。
南アフリカランドと金、プラチナ、パラジウムは連動する時期と連動しない時期が割とハッキリ分かれる結果となった一方、南アフリカランドと原油は基本的に相関が高いことがわかりました。
南アフリカランドと原油は逆行する時期も何度かあったのですが、逆行しても結局相関が戻ったという特徴がありました。この相関性を頼りに、原油相場を見ながら、南アフリカランドをトレードする手はあるのかもしれません。
また、南アフリカランドと日米株価指数の比較では、NYダウとの連動性が基本的に高いことがわかりました。ただ、足もとではNYダウが堅調、南アフリカランドが軟調と逆の動きとなっており、このまま連動性が薄れて、上値が重い日経平均との連動性が高まっていくのか、注目ポイントにきている感じです。
それでは、南アフリカランドと長期金利差の関係がどうだったかと言えば、米ドル/南アフリカランドと米南アフリカ長期金利差は基本的に相関性がないどころか、基本的に逆相関すらしているように見えました。そこで、米ドル/南アフリカランドと南アフリカ米長期金利差の動きを確認すると、絡みつくようにピッタリ連動していた時期が多く、基本的にかなり高い相関があるようでした。
このような現象が起きた理由を考えてみると、南アフリカランドという通貨を買って、そのお金で、主要国より格段に利回りが高い南アフリカ10年債などを買う動きがかなり大きな割合を占めているのであれば、南アフリカランドの上昇に伴って、南アフリカ10年債価格が上昇(=南アフリカ10年債利回りは低下)するというような動きが起こっているのかもしれません。
最後に、今回の内容は、2020年11月から2021年7月という期間において、南アフリカランドの動きと、南アフリカランドに関連性が高そうなものの動きに着目したものです。本記事で取り上げた南アフリカランドとの相関の有無や強さが今後も永遠に変わらないかどうかはわかりません。
とはいえ、直近では本記事で取り上げたような動きをしてきたのは事実です。南アフリカランドをトレードする際は、なんとなくのイメージだけでトレードするのではなく、こうした傾向をしっかり把握したうえで、トレードしてみてはいかがでしょうか。
(ザイFX!編集部・藤本康文)
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