■トヨタのリコール問題は為替相場の材料にならない!
一方、ユーロ/円は下げ幅を拡大している。
円は、外貨安に伴う“受動的な上昇”が続く結果、対ユーロ、対英ポンドだけではなく、対米ドルでも強気トレンドを維持できている。
先進国の中で財政赤字ワースト・ワンの日本ではあるが、ギリシャの財政赤字に起因したソブリンリスク(外国の政府や中央銀行に対する融資におけるリスク)が飛び火してもおかしくないものの、まったく無視されている。
まして、トヨタ自動車のリコール問題にいたっては、円相場の「材料」としてさえ浮かんでこなかった。
それは、円が持っている「翻弄される通貨」という宿命に起因している。
つまり、円相場は基本的に、円サイドのファンダメンタルズや需給バランスよりも、外貨サイドの事情と思惑によって高安が決定しているのだ。
米株安が一段と進行すれば、リスク回避という「大義名分」の下で円高傾向は続くだろう。その裏返しとして、円高傾向が続くのであれば、マーケットが世界の景気回復への確信を持てず、金融危機再燃といった懸念を払拭できずにいるとも読み取れる。
■やはり、2010年のマーケットは波乱となるか?
ところで、前回のコラムで、筆者は「虎年に当たる今年のマーケットは波乱の公算が高く、為替市場におけるボラティリティの拡大に気をつけなければならない」と述べた(「中国の風水学だと2010年はかなりの波乱!?利上げ期待の反動で今年後半はドル安か」を参照)。
その根拠は、風水学の視点だけではなく、現実に、このような局面を引き起こすであろうと考えるに値する「脅威材料」が存在しているからだ。
米国のオバマ政権が1月下旬に「ボルカールール」と呼ばれる金融規制案を発表し、ウォール街を凍りつかせたことは、皆さんもご存知だろう。
これは、米国の金融政策の歴史的転換をもたらすと言われている。
具体性にはまだ欠けるものの、骨子が固まっているところを見ると、預金を取り扱う銀行が自己勘定取引やヘッジファンドへの投資および所有を禁止するという内容になっていて、借り入れに頼って規模を拡大することに歯止めをかける方針も示されている。
「ボルカールール」については、賛否両論の激しい論争が引き起こされている。だが、筆者は論争自体ではなく、それが与える影響を市場関係者は真剣に考えるべきだと思う。
オバマ政権はどうやら本気で、同法案を実行に移す可能性が高く、その影響を危惧せざるを得ない。
■もし、ボルカールールが実行されると、その影響は…
広いマーケットの中で、為替市場が世界ナンバーワンの出来高を誇っている土台は、他ならぬ、巨大銀行の自己勘定による取引ネットワークの存在である。
銀行が自己勘定取引をできなければ、マーケットから主要プレーヤーがいなくなり、流動性が低下してマーケットの変動幅が極端に拡大し、不確実性が高まる。
不確実が高まると、為替市場に参入する者が少なくなり、さらに流動性が低下するといった悪循環に陥るかもしれない。
いずれにせよ、「ボルカールール」が実行されば、為替相場に大きな変化がもたらされることは間違いないだろう。
一部の市場関係者はそのような局面を危惧し、為替相場が1944年より前の固定相場制に逆戻りするのではないかとさえ心配しているようだ。
このような心配が現実となる前には、1992年の「ポンド危機」のように、ビッドとオファーの差が300pipsも広がるといった「過激相場」に遭遇するかもしれない。しっかり警戒と対応を行いたい。
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