米国が英国と関税で合意。米中交渉が「著しい進展」との報道で、米ドル/円は146円台まで戻した
西原宏一(以下、トレーダー西原) 叶内文子(以下、MC叶内) みなさん、こんにちは。
トレーダー西原 先週(5月5日~)は経済指標よりも、トランプ政権の相互関税の行方にマーケットが大きく揺れる展開となっています。
それでは、まず株の動きからチェックしていきましょうか?
MC叶内 はい、今週(5月12日~)もよろしくお願いします。
FOMC(米連邦公開市場委員会)は金利据え置きで無難に通過、トランプ関税に対する警戒感は後退していますが、米国株は一進一退、週間ベースでは3週ぶりに小幅反落しました。
S&P500は0.7%下落、ナスダック総合指数は0.27%下落、NYダウは0.16%の下落です。この間にNYダウ、S&P500は4月2日(水)以来の水準、ナスダック総合指数は3月26日(水)以来の水準まで戻しました。
4月雇用統計で雇用環境は良好と受け止められました。利下げ予想はちょっと遠のいた感じです。
東京市場は連休明け3日間の取引で、日経平均は4月25日(金)に比べ1797.59円高(+5.03%)の37503.33円と大幅上昇しました。4週連続高で、3月28日(金)以来の37000円台回復です。先週末、TOPIXは2017年10月に記録した12連騰以来の11連騰を記録しています。連休中の海外市場で波乱がなく、好業績や増配を発表した銘柄などが買われました。円安方向にふれたことも先物買いを呼びこみました。そんななか、医薬品や映画に新たな関税方針が示され、株価の重しになりました。
為替市場はいかがでしたか。
トレーダー西原 為替市場は、各主要経済指標よりトランプ政権の関税の行方に注目が集まっています。
先週の重要な変化は、米国が関税交渉において「英国と合意」したという報道。
事前にトランプ大統領が自身のSNSで示唆していたとおり、米国は「関税を巡る交渉」で英国と合意したと発表。これが米国にとって初の関税を巡る合意となります。
英BBCによると、米国は25%の追加関税を課している自動車や鉄鋼・アルミ製品などの輸入で、英国製品に一定量の枠を設け、枠内では関税を引き下げるようです。報道によれば、英国製自動車は10%に下げられたとのこと。
これでマーケットは株高、円安に推移しました。
そして注目の米中貿易協議ですが、日本時間5月12日(月)未明に「著しい進展」と両国の交渉代表が自賛したとの報道で、米ドル/円が一時146円台まで戻しています。

(出所:TradingView)
一方、英国との合意と米中の交渉の報道が目立ち、注目度は薄れていますが、先週はアジア通貨の急騰が話題に。
特に台湾ドルは、5月2日(金)と5月5日(月)に歴史的な7~8%の上昇を演じました。これは、米国と台湾の間での関税交渉の影響であると考えられています。
【※関連記事はこちら!】
⇒米ドル/円の戻り売り継続! 台湾ドルの急騰が米ドル/円の下落を誘引したのは、アジア当局が懸命に否定しても、米国との「アジア通貨高合意」報道や憶測が消えないから(5月8日、西原宏一)
この台湾ドルの急騰に関しては、次の展望で取り上げますね。
それでは、今週のスケジュールと株の展望をお願いします。
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米ドル/円は戻り局面で売り! 関税交渉進展の株高により円安に振れたが、ベッセント財務長官が円安を望まず、上値も限定的
MC叶内 国内では、5月12日(月)に3月経常収支、貿易収支、4月景気ウォッチャー調査、5月13日(火)に4月マネーストック、日銀「主な意見」、5月16日(金)に第1四半期実質GDP速報値の発表などが予定されています。ソフトバンクG、ソニー、三菱UFJなどが決算発表を行います。
海外では、米国の経済指標は、5月13日(火)に4月CPI(消費者物価指数)、5月15日(木)に新規失業保険申請件数、4月PPI(卸売者物価指数)、小売売上高、鉱工業生産指数、5月NY連銀製造業景気指数、5月16日(金)に4月住宅着工件数、輸入物価指数、5月ミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)などがあります。
そのほか、5月13日(火)に英4月雇用統計、独5月ZEW景況感指数、5月15日(木)に英・欧第1四半期実質GDPなどが発表される予定です。決算発表はアプライド・マテリアルズ、ウォルマート、アリババが5月15日(木)の予定です。
注目されるのは、5月13日(火)の4月CPIです。市場予想では、食品とエネルギーを除くコア指数が前年同月比2.8%の上昇で3月から横ばい、総合も3月並みの見込みです。ただ、2月から引き上げられている対中関税の影響が顕在化するとの見方や、駆け込み需要が価格を押し上げたとの指摘もあります。
5月15日(木)の米国4月の小売売上は市場予想の中心は+0%と、前回の大幅改善(1.5%増)からは急激に失速する見通しです。一方、民間調査の小売店の週次データは4月が一段と好調だそうです。
今週の株式市場ですが、米中の高官による貿易協議は成果があったと伝わっています。この詳細は5月12日(月)に出るそうで、この内容によっては上下しそうです。
日本株は関税交渉が長引きそうで上値が重そうです。米国株は重要指標を前に様子見気分が強まると、ちょうど関税前水準くらいまで戻ったところですので、一服となることもありそうです。また、週末がウィッチング(※)になりますので、もう一勝負あるのか注意です。
(※編集部注:「ウィッチング」とは、主に米国市場で使われる用語で、株式先物取引の取引期限満了日のこと)
為替市場はいかがですか。
トレーダー西原 今年(2025年)、金融市場はトランプ大統領が仕掛けた貿易戦争に振りまわされている展開です。
新自由主義経済の基準からすると、あまりにも非合理的に思えるため、多くの投資家に衝撃を与えました。
FT(フィナンシャルタイムズ)の著名コラムニストであるジリアン・テットは、以下のように話しています。
「合理的」かどうかは別として、これはアメリカだけでなく、他の多くの国においても、経済が政治ゲームに取って代わられる世界への移行を反映しています。 そのため、ジョンズ・ホプキンス大学、ダートマス大学、キール大学、スタンフォード大学などの大学は、 IMF、ミルケン研究所、アトランティック研究所などの機関と共に、「地政経済学」プログラムの拡充を目指しているとしています。
今週も彼女が指摘するように、各主要経済指標よりも、マーケットは政治に大きく左右されそうです。
まず先週の米国と英国の合意ですが、アメリカは英国に対して貿易黒字国です。トランプ大統領が問題視する貿易赤字の相手ではありません。そのため、英国はちょっと例外だと見る参加者もいます。
実際、対米国で黒字の多い台湾ドルは急騰しています。
米中の関税交渉の報道でかき消されていますが、先週の大きな報道のひとつに台湾ドルの急騰があり、ました。5月2日(金)と5月5日(月)に7~8%という歴史的な急騰を見せました。

(出所:TradingView)
台湾ドルの上昇に連れ、アジア通貨も総じて上昇。
この意味においては、対米国で貿易黒字の多い中国との交渉がすんなり合意するとも思えませんが、先週までの米国と中国は極めて高い関税を掛け合うという流れになっていましたので、それと比較すれば、米中貿易協議が「著しい進展」という報道はグッドニュースとも言えると思います。
現状のマーケットでは、2つの動きがあります。
トランプ関税の影響でのリスクオン、リスクオフで動く動き、つまり株の動向。その一方で、貿易黒字の多い国、例えば台湾ドルなどは通貨高を強いられています。
この意味においては、リスクオンでの「株高」により円安に振れていますが、先週のように台湾ドルの急騰につれて円高になるという動きもあります。
現在、トランプ政権の鍵を握るベッセント財務長官は何度も「日銀の金利正常化とともに、ドル安、円高が望ましい」とコメントしていますが、一時見られたような米国の株安、債券安(金利上昇)、通貨安というトリプル安は避けたいところ。
世界の終焉のように揶揄されたトランプの相互関税ですが、S&P500は「開放の日(4月2日)」のレベルに向かって値を戻して来ました。
ただ、米中の関税交渉はまだ具体的な発表がありませんので、結果によっては再び急速に値を下げる可能性も高いことから、今後の米中の関税の発表には警戒したいところ。

(出所:TradingView)
リスクオンで米ドル/円は値を戻していますが、ベッセント財務長官が円安を望んでいるわけでもないため、米ドル/円の上値も限定的。
世界的に膨らんだ円ロングのポジションが整理されつつある、米ドル/円の戻り局面で、円ロングを構築したいところでしょうか?

(出所:TradingView)
トレーダー西原 MC叶内 それでは、今週も株為替のトレードを楽しんでいきましょう。
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