さよなら麻生さん。麻生前財務相はアベノミクスを支えながらも暴走を抑えていた…
大門実紀史参議院議員のFacebook投稿「さよなら麻生さん」が話題です。
大門氏は日本共産党の議員ですが、経済問題に対する見識が深く、その質疑応答は常に金融関係者の間で話題になりました。特に麻生元財務相との質疑応答は、対立しながらも呼応するところもあり、いつもはつまらない国会論戦の中でもひとつの見どころでした。
政治信条は違っても、麻生さんに対する特別な思いがあるのでしょう。それは、わかる気がします。
麻生さんは財務相としてアベノミクスを支えたといえますが、アベノミクスの暴走を抑えていたともいえます。安倍元首相はもっと極端な金融緩和、財政拡大を求めていましたが、麻生さんが重しとなっていました。財務相を戦後最長の8年9カ月続けられたわけですが、財務省からは「大きな武器を失った」という声が報じられています。
財務省に8年9カ月、麻生氏ついに退任 「大きな武器失った」
出所:毎日新聞
写真は安倍元首相と麻生前財務相。麻生氏は財務相としてアベノミクスを支えたといえるが、アベノミクスの暴走を抑えていたともいえるという (C)Bloomberg/Getty Images
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財務省事務次官・矢野康治氏が「バラマキ」批判寄稿。今後想定される財政拡大に対し警鐘を鳴らしているのか
先の自民党総裁選では、岸田新総裁に決まりましたが、マーケットの関心は改革姿勢の河野氏、そして「プライマリーバランス黒字化目標凍結」という極端な財政金融政策を標榜する高市氏でした。その高市氏は政調会長として自民党の政策を取りまとめる立場となり、ポスト岸田の最有力の位置にいるといえます。その意味では、今後、日本の財政政策が拡張気味になる可能性を孕んでいます。
そこに飛び込んできたのが、財務省事務次官である矢野康治氏による「文藝春秋」誌への「バラマキ」批判寄稿です。
「今の日本の状況を例えれば、タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなもの。氷山(債務)はすでに巨大なのに、この山をさらに大きくしながら航海を続けている。」
(出所:Bloomberg)
早速、高市氏から厳しい批判を浴びましたし、最近、YouTubeが好評の高橋洋一氏も「財政破綻しない」と厳しく糾弾しています。
しかし、矢野氏の寄稿は麻生前財務相の了承を得て公表されています。麻生さんは高市氏のプライマリーバランス黒字化目標凍結という政策に対し「日本を実験場にするつもりはない」と批判していましたが、今後想定される財政拡大に対し警鐘を鳴らしているのでしょう。
おそらく日本は未来永劫破綻することはないが、円の価値が落ちる可能性は高いか
日本は財政破綻するのかどうか。クレジットの世界では「リクイディティー」という考えと「ソルベンシー」という考えの2つがあります。リクイディティーというのは、資金繰りがつくかどうか。資金繰りさえつけば破綻しません。その意味では、国債を発行しても忠実な銀行団、そして今は日銀という無尽蔵な財布があるので資金繰りがつかなくなることはありません。
今は、YCC(イールドカーブコントロール)という政策を取っており、無制限に国債を購入することで、金利を0%±0.15%ぐらいで抑えることになっています。
では、「ソルベンシー」という、返済能力があるのかどうかという視点から考えるとどうか。現在GDPの264%(財務省ウェブサイトより)に達する国債発行残高を見る限り、まともな形で返済されるとはちょっと思えないところにはいます。
もっとも、現在のマーケットとは直接の関係はありません。それでも、おそらく日本は未来永劫破綻することはないにしても、返済する「円」の価値は落ちる可能性は高いということになりそうです。
しかし、日本にインフレはありません。2%のインフレ目標を掲げますが、2%は遠く、とても実現できるようには見えません。財政状況を見ると、インフレにならざるを得ないが、現実の経済をみるととてもインフレになるとは思えない、このギャップはどうやって埋まるのだろうか、これがいつも疑問でした。
サプライチェーン問題はいつか正常化するが、資源価格の高騰がさらなる問題に
同じような疑問は為替マーケットにもあります。円は安い。「実質実効為替レート」で見ると、1970年代のレベルにあります。つまり、プラザ合意時点よりも実質的には円安です。海外の物価を見ると、眩しいぐらいに高い。このギャップは、円高になることで解消されるのか、それとも日本が(海外以上に)インフレになることで解消されるのか、それがいつも疑問でした。
この答えが、最近少し見えてきた感じもします。欧米を見ると突然インフレ率が上昇しています。特に米国は2%の物価目標を一足飛びに超えて5%台です。これには驚きました。
サプライチェーンの混乱から生じるものではありますが、意外に長期化し、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長も困惑しています。しかし、時間は長期化すると思いますが、サプライチェーンの問題はいつか正常化するでしょう。
一方、もうひとつ別の問題も出てきています。資源価格の高騰です。特に天然ガスの価格は、欧州において風力発電が思う通りに発電されなかったことや、石炭火力における発電を抑えて電力不足に陥った中国の影響で、10倍近い価格になりました。この影響で、天然ガスに代替性のある原油の価格も上がり、80ドル台に達しています。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
再生可能エネルギーへのシフトが十分に進めば、石油等の炭素エネルギー価格は将来劇的に低下することになっています。しかし、それには想定以上に時間がかかり、混乱もありそうです。
気になるのが、環境シフトを進めるバイデン政権の影響もあり、米国におけるシェールオイルの生産が拡大しないことです。環境への取り組みという意味では良いことではあるのですが、そのため、原油の価格決定権がOPECプラス(※)、つまりサウジアラビアとロシアに握られてしまっていることです。
(※編集部注:「OPECプラス」とは、OPEC(石油輸出国機構)にOPEC非加盟の主要産油国を加えた枠組みのこと)
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今後、冬が近づくたびにエネルギー価格が急騰することもありそう
欧州における天然ガスも、ロシアに依存しています。
彼らにとっては、少々増産するより、価格が上昇したほうが有利に決まっています。あまり価格が高いと世界の景気を冷やしますし、米国のシェールオイルが復活する可能性があるので、そこは微妙ですが、慎重に価格維持に動くでしょう。
資源価格が上昇すると、日本の貿易収支は赤字化します。この円安レベルでも、交易条件は悪化しています。
交易条件とは 貿易の稼ぎやすさ示す
出所:日経新聞
再生可能エネルギーへのシフトというのは、誰から見ても否定し難い絶対的正義です。国際的にも約束されたものです。しかし、その移行には時間もかかるし大混乱しそうです。将来性の無いことと、ESG(※)的に「悪」ということで、原油開発や火力発電等への資金はストップしています。
(※編集部注:「ESG」とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って作られた言葉。ESGに配慮した取り組みを行うことは、長期的な成長を支える経営基盤の強化につながると考えられている)
再生可能エネルギーは不安定なものです。その不安定性から、従来の炭素エネルギーへの需要が一時的に極端に高まったりするでしょう。天然ガス価格が今回10倍になりましたが、今後、冬が近づくたびに、エネルギー価格が急騰するということもありそうです。
そうなると、長い間見たことのなかったインフレが突然日本にもやってくる可能性があるのではないでしょうか。
米ドル/円は新しい円安局面入り。114円台を抜けるとトランプラリーの高値118.68円が目標に
天然ガスの価格上昇を見ると、原油価格が突然150ドルを超えるということもあながちありえないことではありません。その時、日本の貿易収支は大きく赤字化し、円安になるでしょう。
先ほども書きましたが、日銀はYCC政策を取っていますが、突然インフレが襲ったとき、そのときでも日銀は日本国債の利回りを0%近傍に抑えるつもりなのでしょうか。その時、円はぶっ飛んで安くなると思います。
デフレに苦しんできたとはいえ、インフレは日本に取って最大のリスクです。前回のコラムで指摘したように、ついに米ドル/円は112.22円を超えて、新しい円安局面となりました。財政拡大競争になりそうですが、突然のインフレリスクには注意が必要となってきそうです。
【参考記事】
●米ドル/円は昨年高値112.22円突破へ。株価急落時に「鉄板」だった豪ドル/円売りは、なぜ通用しなくなったのか?(10月6日、志摩力男)
目先は114円台が引っかかりそうです。2017~2018年に何度も天井となりました。しかし、そこを超えるとトランプラリーの高値118.68円ですが、その次は心理的節目120円、そして2015年6月高値125.86円となります。
(出所:TradingView)
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