岸田新内閣の閣僚人事、「滞貨一掃」の印象。金融所得課税引き上げは金融市場に悪影響及ぼす
岸田新内閣がスタートしました。閣僚人事等が発表されましたが、評判は今ひとつ。印象としては「滞貨一掃(※)」。
(※編集部注:「滞貨一掃(たいかいっそう)」とは、売れ残った商品などを片付けること)
比較的高齢で、初入閣という方が多い。1回ぐらい入閣しないと辞めるに辞められないという事情もよくわかりますが、国民目線からすると、どうでも良いこと。長期政権のあと、短命内閣が続くのは、こうした事情もあるのでしょう。
また、金融市場から見ると、看過できない政策が早速打ち出されました。「金融所得課税の引き上げ」です。
格差是正は重要なことで、そこに異論はありません。しかし、別の方法があるのではないでしょうか。金融所得課税を引き上げて、どれだけ税収が増えるのか? また、そのことが金融市場にどれほど悪影響を及ぼすのか、しっかり考えているのでしょうか。
アベノミクスにはいろいろな意見はありますが、株価が上昇したことで日本経済に好循環が生まれたことは事実です。それが、我々の年金や機関投資家の運用に好影響を与え、株価の含み益の増大が経済の刺激になっています。
金融市場が頑強な米国と脆弱な日本とでは、事情は違います。せっかく育てた金の卵を産むガチョウを殺す政策にしか見えません。
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岸田新内閣の支持率は軒並み低調。株価は急落
岸田新政権への支持率は、日経59%、読売56%、毎日49%、朝日45%とばらつきがありますが、菅政権誕生時と比べるとかなり低い。期待値が低いといえます。
株価は急落しています。金融市場的には“Sanae or Nothing”だったので、期待剥落ともいえますし、中国恒大集団問題という新しいファクターも影響しているでしょう。しかし、選挙前に「金融所得課税の引き上げ」という増税を打ち出す、そのセンスが問われていると思います。
(出所:TradingView)
「成長と分配」といっても、どうしても「分配」にしか目がいきません。30年間成長しない日本経済が問題なのであって、分配だけをしていても、パイの取り合いに終わります。
米国経済は足元は好調だが、成長が鈍化してくることが徐々に明らかに
さて、金融市場は混乱してきています。中国恒大集団に象徴されるように、これまで世界経済を牽引してきた中国経済が成長鈍化するかもしれないという懸念が出てきています。
一方、米国では、サプライチェーンの混乱からインフレ率が高止まりしています。経済の正常化に伴い、エネルギー需要が高まり、天然ガスや原油価格の上昇につながっています。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
こうしたインフレ要因がある一方、米国経済自体は、現状は好調ですが、成長が今後鈍化することが徐々に明らかになっています。
先日発表された、米8月製造業新規受注は、予想のプラス1.0%を上回るプラス1.2%でしたが、在庫の伸びが顕著で、ゴールドマン・サックスは今年(2021年)第4四半期の米国の成長率予想を4%へと下方修正しました。
これまでは新型コロナ対策として、ふんだんにマネーが供給され、財政からも莫大な支出が許容されてきましたが、来年(2022年)以降は締まってきます。インフレ高進もあり、テーパリング(※)から将来の利上げが見えてきている一方、「財政の崖」から支出は絞られます。2022年後半の成長率は、プラス1.5%程度まで減速するとゴールドマン・サックスは予想しています。
(※「テーパリング」とは、量的緩和政策により、進められてきた資産買い取りを徐々に減少し、最終的に購入額をゼロにしていこうとすること)
【参考記事】
●岸田総裁決定も、市場の反応は冷ややか。中国恒大集団とリーマンブラザーズを比較するのは、問題の本質を取り違えている(9月29日、志摩力男)
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株価急落時に「鉄板」の豪ドル/円売りが通用しなくなった理由
この先、金融環境が引き締まり、低成長となることが見えてくると、株価的には苦しくなります。おそらく今後、上下動の荒い展開になるでしょう。
その時、「円」はどう動くのか、難しくなってきています。従来からの相関関係がなくなっているからです。
少し前であれば、世界中の株価が急落する局面では、豪ドル/円を売っておくのが「鉄板」でした。しかし、最近は米国株が下落しても、豪ドル/米ドルも下落しないし、米ドル/円も下がりません。豪ドル/円はむしろ上昇していました。
(出所:TradingView)
豪ドルが上昇するのは、エネルギー価格上昇で天然ガスや石炭の輸出による貿易黒字が増えてきているからです。「円」は安いという理由以外に、買う理由がありません。
なぜ、「リスクオフ」の円高は続かなくなったのか?
今後、世界中の金利が次第に上昇していきますが、金利上昇から一番遠いところにいるのが日本です。それでも、「リスクオフ」の際には、これまで円高になっていました。これがなぜ続かなくなったのか。
円高にならないという「症状」はトランプ政権のときから観測されていました。米中貿易問題で、大きな事件が起きても、円高は2~3円ぐらいで、すぐに戻ってしまい、結局、米ドル/円は100円を切ることはありませんでした。
(出所:TradingView)
今年(2021年)の始め、多くのエコノミストは米ドル/円が100円を割れるような円高予想を出しましたが、結局円安となり、今後、円高に向かう気配は感じられません。
どうしてそうなったのか?
ひとつには貿易黒字が消えたからです。円が割安であるならば、日本からの輸出が増えて、貿易黒字が大きくなり、円高となるのが経済理論です。
しかし、(トランプ政権の影響もあり)現地生産が優先され、日本に新規に工場を作るということはなくなっています。おそらく、今後もあまり戻らないでしょう。こうして、割安でも貿易を通じて修正されるという経路がなくなりました。
米金利上昇なら、米ドル/円は昨年高値112.22円突破へ。新たな上昇波がスタートするか
もうひとつは、投資家の「ホームバイアス」の消滅です。かつての日本の投資家は「ホームバイアス」が極端に強いといわれていました。リターンが少なくても日本に必ず資金を戻したり、留めたりしていました。度重なる円高の影響もあったと思います。
しかし短期のみならず、長期金利もゼロに収れんし、日本における安全な投資リターンはまったくなくなってしまいました。企業の成長も、明らかに米IT企業などの方が上です。
人口減少の日本では成長しないので、M&Aを通じて海外に進出することに躊躇はなくなりました。個人投資家の方々も、日本企業より、米企業の方へ投資するようになってきているのではないでしょうか。
こうして、日本に資金を戻すインセンティブがほとんどなくなっています。そうなると、割安な円がさらに安くなるという経路しか見えなくなってきています。
米金利がさらに上昇する時、おそらく米ドル/円は、昨年(2020年)高値112.22円も突破してくるでしょう。そうなると、新たな上昇波のスタートとなります。安い円がさらに安くなる、そうしたマーケットが来るのではないかと考えています。
(出所:TradingView)
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