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志摩力男の「マーケットの常識を疑え!」

今の円安は「日本の信用リスク」が意識されて
いる可能性も。拡張的な財政政策と金融緩和
で、水準を超えたインフレ・円安への警戒が
必要か

2021年10月28日(木)09:04公開 (2021年10月28日(木)09:04更新)
志摩力男

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米ドル/円は調整局面入りも、大きくは下がらず。今回の円安、多くのエコノミストが説明に苦慮している

 先週(10月18日~)、114.70円前後まで上昇したあと、米ドル/円相場は調整局面に入っています。しかし、下げも今のところ113.42円前後までで、大きく下げるわけでもありません。

米ドル/円 日足
米ドル/円 日足

(出所:TradingView

 今回の円安、多くのエコノミストが説明に苦慮しています。そもそも昨年(2020年)末、2021年の為替予想として多くのエコノミストが円高を予想しました。それからおよそ1年、米ドル/円は当時より10円円安です。さらに円安に向かうには、根本的に違う何か理由が必要になってきます。

米ドル/円 週足
米ドル/円 週足

(出所:TradingView

 水準感からいうと、円は非常に割安です。

黒田日銀総裁が「実質実効為替レートでは、かなり円安の水準」、「ここからさらに実質実効為替レートが円安に振れるということは、普通に考えればありそうにない」と発言したのは2015年6月、125円台のとき。現状の実質実効レートは同水準です。

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円の絶対水準は安いが、さらに安くなりそう。そう見える、3つの材料とは?

 しかし個々の材料を見ると、さらに円安に向かいそうに見えます。

 ひとつ目の材料は、米金利の上昇です。今回の米ドル/円上昇は9月23日(木)、米FOMC(米連邦公開市場委員会)をきっかけに始まりました。

 FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長が、11月テーパリング(※)開始、来年(2022年)6月終了を示唆した時です。

(※「テーパリング」とは、量的緩和政策により、進められてきた資産買い取りを徐々に減少し、最終的に購入額をゼロにしていこうとすること)

 米長期金利はそれまでレジスタンスだった1.4%を突破して、1.7%前後まで上昇、それにつれて、米ドル/円も上昇しました。

米長期金利 日足
米長期金利 日足

(出所:TradingView

 ふたつ目は、米国以外の国々も金融引き締めに動いていることです。ノルウェーが9月26日(日)に利上げ、ニュージーランドも10月6日(水)に利上げしました。今後も英国など、利上げに動くことが想定されています。

【参考記事】
将来米ドル/円150円予想は維持!円安トレンドに乗れ!世界が利上げに向かう中、日本の超金融緩和政策は継続(10月20日、志摩力男)

 3つ目、エネルギー価格の上昇です。グリーンフレーションとも呼ばれ始めていますが、脱炭素を進めるため、従来の化石燃料への投資が絞られ価格が上昇、資源を輸入するしかない日本の貿易収支は、かなりの円安水準というのに、赤字化しています。

 つまり、絶対水準は安いが、さらに安くなりそう……それが円の状況です。

日本の「信用リスク」がマーケットに加味されてきた可能性

 しかし、それだけではない要素も感じます。

 現在の米ドル/円レートは、米金利の水準に歩調を合わせていますが、今年(2021年)のはじめに米長期金利が1.77%前後まで達した3月末ごろ、米ドル/円は110円前後でした。

現在、米長期金利は1.62%前後ですが、米ドル/円は114円前後の水準にあります。

米長期金利&米ドル/円 日足
米長期金利&米ドル/円 日足

(出所:TradingView

 つまり、米金利上昇以外の理由もあって、円安が進んでいるともいえます。

 もしかすると、日本の「信用リスク」もマーケットに加味されてきたのかもしれません。

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ここ1カ月、日本の首相交代は大きな変化。高市氏政調会長就任で、ポスト岸田の最有力候補に

 この1カ月でいろいろありましたが、もっとも大きな変化は首相の交代です。

 菅首相から岸田首相となりました。そして、高市早苗氏が自民党の政策決定責任者である政調会長に就任しました。自民党総裁選挙では「プライマリーバランス黒字化目標撤廃」という思い切った政策を打ち出していました。

【参考記事】
岸田総裁決定も、市場の反応は冷ややか。中国恒大集団とリーマンブラザーズを比較するのは、問題の本質を取り違えている(9月29日、志摩力男)
米ドル/円も株価もぶっ飛ぶ!? 自民党総裁選、高市早苗氏の政策はアベノミクスのバージョンアップ。恒大集団問題、影響は限定的か?(9月22日、志摩力男)

 総裁選では敗北したものの、政調会長に就任し、ポスト岸田の最有力候補となっています。先日、矢野財務次官が文藝春秋誌上で財政のバラマキを批判する論文を発表した時、「大変失礼な言い方だ。デフォルト起こらない」と色をなして高市氏は反論しました。

 これが、様々な波紋を呼んでいます。自国通貨を持つ国は、いくらでも自国通貨を発行することができるので破綻することはありません(狭義のデフォルト)が、広義のデフォルトはありえます。それは、ハイパーインフレであったり、大規模な財産税を課したりです。

【参考記事】
米ドル/円はトランプラリー高値118.68円が意識される展開へ。日本に突然インフレが襲ってきたら、その時、円はどう動く?(10月13日、志摩力男)

拡張的な財政、超金融緩和継続で、水準を超えたインフレ、円安の可能性を考慮か

 矢野論文は絶対的に正しい。しかし、日本は少子高齢化が続くので、増税で財政収支をバランスするようにすると、かなりの増税が必要になります。

 たとえば消費税30~40%とかです。これは、政治的に取り得ない。必要なところに資金がいかない、必要な投資がなされない、必要な研究開発がなされなければ、財政がバランスしても国としては没落していきます。

 取り得る道は、矢野論文と、矢野論文を批判する人の、その中間点がどこにあるのか探すことでしょうか。拡張的な財政、超金融緩和が続くので、やはりどこかで水準を超えたインフレ、円安が起こり得る可能性を考慮しなければならないのかもしれません。

 国の破綻確率はCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の取引を見ればわかります。日本のCDSにはほとんど変化はありません。しかし、CDSは特殊なマーケット。参加者も限定的で超薄い。そもそも、日銀が国債を無限に買うと約束しているYCC(イールド・カーブコントロール)政策を取っています。CDSマーケットが動くはずもありません。

 そうなると、変化は為替市場で起こります。今回の円安は、日本の信用リスクを少し感じ始めているのではないか、そう感じます。


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