相場に感情論を持ち込むのは禁物!
円安が「悪いかどうか」は相場のゆくえに関係ない
前回のコラムで、米ドル/円の長期ターゲットを提示していたが、あくまで相場の内部構造に基づく計算ということで、正直、筆者自身も戸惑う部分があった。
【参考記事】
●米ドル/円は、150円超えがあってもおかしくない。米ドルは短期スパンでは買われすぎでも、中長期では一段と上昇しやすい(2022年5月20日、陳満咲杜)
なにしろ、そこまでの円安は筆者自身、経験したこがなく、また現時点においてなかなか実感できない側面があるから、円安のデメリット(輸入物価の高騰)などを考えると、一層不安になる。
ところで、円高にしても、円安にしても、強いトレンドの進行があれば、比例して「けしからん」と罵倒する声が高まる。かつて「円高亡国論」が一世風靡したように、今は「円安亡国論」が流行っているように見える。
筆者が言う不安は、決して「円安亡国論」ではないので、その点について、まず言っておきたい。実際、円高にしても、円安にしても、デメリットとメリットの両方があるから、仮に「行きすぎ」であるとしても、一概に「良し悪し」を言うことはできない。だからこそ、筆者自身は、いわゆる「悪い円安」云々の論調は、いただけない。
何しろ、相場に感情論を持ち込むと、ろくなことがない。仮に「悪い円安」の進行が「行きすぎた」としても、相場が円安の進行を押し進めず、円高に反転してくれるかどうかはまったく別の次元の話で、円安が「悪いかどうか」は関係ないはずである。
また、円高にしても、円安にしても、いくら行きすぎでも亡国などあるはずもない。先進国の日本が為替レートで亡国するなら、そもそも国体としておかしい話なので、亡国論自体が馬鹿馬鹿しく、反論する必要もないかと思う。
問題は円安トレンドがいつまで続くか。
円安が行きすぎかどうかを判断するには、スパンも大きな要素
さて、不安があるとすれば、それはほかならぬ、円安トレンドがいつまで続くかに尽きる。
ターゲット自体が大幅な円安余地を示すこと自体は問題ないが、大幅に円安が進行するには、時間が必要である。
換言すれば、スパンが短くなればなるほど、ターゲットの達成が難しくなるから、大幅な円安の進行を有力視するなら、我々は元に戻れないことを確実視しないといけない。
実はそれは非常に重要なポイントである。なぜなら、現在の円安を行きすぎと判断する基準は単に為替水準ではなく、スパンも大きな要素ではないかと思う。
というのも、仮に円安トレンドが雄大で、今までの円安の進行が途中であれば、行きすぎと指摘する声が少なくなっていくはずである。
従来のロジックで考えると、2015年安値を超えた円安の進行が確認されたから、事実、2011年円の高値からずっと円安の進行が確認されたこととなり、行きすぎだという判断も当然のように聞こえる。
(出所:TradingView)
しかし、これこそ大きな間違いだと強調したい。そもそも2011年の円高は史上最高レベル(円高亡国論云々と叫ばれた)であり、それを基準にすること自体が適切ではない。
さらに、もっとも重要なポイントはほかならぬ、2011年の史上最高値を記録してから、円は戦後一貫して継続してきた円高の時代に終止符を打ち、そこから円安の時代に転換してきたから、もう元に戻れないことを悟らなければならない。
(出所:TradingView)
そのあたりの論証は、本コラムをもって筆者が繰り返し行ってきたから、ここでは重複しないが、円安が行きすぎと判断する方々の持っている基準、あるいは大前提は、歴史的な円高トレンドの継続にあることを提起したい。
【参考記事】
●【2022年の見通し】円は2022年も引き続き、最弱の通貨として売られやすい! ただし、米ドル/円は123円程度が上値の限界か(2021年12月24日、陳満咲杜)
言ってみれば、戦後一貫して継続してきた米ドル安・円高の流れがとっくに終わったにもかかわらず、円高論者の多くは過去のロジックにしがみついて認めようとしないから、大幅な円安のターゲットに当然同意できない。
米ドル全体の流れも、雄大な米ドル高の方向にある
そもそも、米ドル全体の流れも2008年を底に反転してきたから、米ドル/円のみではなく、その他の主要通貨に対しても歴史的な転換を果たしている。ただ、2020年のコロナショックの試練もきちんと受けたから、米ドル全体の流れとして雄大な米ドル高の方向にあること自体、多くの方は、まだ認識していない。
(出所:TradingView)
無理もない。米ドルと金の兌換停止が発表された1971年から2008年まで(米ドル/円は2011年まで)ずっと、大きな流れとして、ほぼ一貫して米ドル安の進行があった。
途中、米ドル高の局面ももちろん多数あったが、結局メイントレンドに対する修正にすぎず、リバウンドが高ければ高いほど、その後、米ドルの安値が低くなっていく、という流れであった。
ゆえに、ここまで米ドルが高くなると、やはり行きすぎと判断してしまい、いずれドル安の流れに復帰してしまうだろうと考えるわけだ。
従来のロジックに縛られると足元の状況を理解できず、将来を予測できるはずもない
円の話も、その一環にある。2011年の史上最高値まで、円は一貫して円高のトレンドを推進してきた。
途中の円安の局面も、本質的には円高に対するスピード修正にすぎなかったから、日本人は本格的な円安の市況を経験していなかった。
だからこそ、2011年から本格的な円安の時代が始まり、また、本日まで続いていたとしても、相場の方向がすでに大きく変わったと認識できないのであれば、やはり円安が行きすぎと感じ、いずれ元のレベルへ逆戻りするだろうと思うわけだ。
しかし、仮にこれから円高進行の局面があっても、それは円安の本流に対するスピード調整だ。途中の調整が多ければ多いほど、勘違いされる方も多くなる可能性がある。
いずれにせよ、従来のロジックに縛られると足元の状況を理解できず、将来を予測できるはずもない。
借金大国の米国が発行する米ドルが、これからも上昇していくことはないだろうといった反論も多いと思うが、同じ理屈を言うなら、なぜ借金大国の日本の通貨が高くなっていくべきだと思うのかを、逆に筆者から聞きたい。
米ドル高・円安がさらに進むと、それを支持するファンダメンタルズ要素が出てくる
ところで、ここで屁理屈を並べるつもりがないが、1点だけ強調しておきたい。
相場というものは非常に不思議で、現実より先走る性質をもつものだ。実際、米ドル高・円安がさらに進むと、それを支持するファンダメンタルズの要素がたくさん出てくるから、余計な心配はいらない。
米ドル高なので、必然的にユーロ安だから、ユーロの行方を楽観視することはできない。半面、ユーロ/円について見方は違ってくる。
そこはまた米ドル/円の上昇を予測できるヒントが隠されるから、次回にて検証したい。市況はいかに。
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