ECB利上げも、ユーロの大幅高にはつながらず
昨日(7月21日)ECB(欧州中央銀行)は、11年ぶりの利上げを実行した。上げ幅は22年ぶりとなる大きさで、0.50%だ。
景気後退感が強まるなか、インフレ退治を優先するというECBの判断はややサプライズではあったものの、事前に予想(大幅利上げ)があっただけに、ユーロの大幅高にはつながらなかったようだ。
もっとも、ECBの利上げ、また、大幅利上げの予想があったからこそ、ユーロ/米ドルは7月14日(木)安値から一時300PIPS幅の反騰を達成し、同材料を織り込んでいた。
(出所:TradingView)
それまで、かなりベア(下落)トレンドを推進してきただけに、下落モメンタムの強さから考えると、大幅利上げとはいえ、すぐに修正できなくても別におかしくはない。
さらに、ロシアとの軋轢によるガス供給問題や、イタリア政局不安(EU(欧州連合)離脱説まで飛び出す)など懸念材料が多く、手放しでユーロ高になれないのもわかりやすい。
しかし、そういった材料のどちらも、決定的な要素ではないと思う。実際のところ、やはり米ドルサイドの要素が支配的で、最大の外貨における22年ぶりの大きさの大幅利上げとはいえ、マーケットの主導権を握ることはなかった。
来週(7月25日~)の7月FOMC(米公開市場委員会)を控え、やはり米利上げ幅が主要材料として市場参加者の焦点となる。
よって、その前にECBの利上げがあっても、マーケットの流れを決定するだけのインパクトはない。内部構造に沿った動きが、仮にユーロの反騰につながるものだとしても、FOMC後でないと本格的なサインを灯さないだろう。
本来、一段と円売りが進んでもおかしくない状況で、円売りモメンタムが低下
ECBの利上げを受け、先進国の中で日本とスイスだけがマイナス金利の国として取り残されることとなった。さらに、7月の日銀会合での政策維持決定や黒田総裁の緩和継続発言もあって、本来、一段と円売りが進んでもおかしくない。
しかし、執筆中の現時点では、円を積極的に売っていくような基調ではなく、どちらかというと、円売りモメンタムの低下が目立つほどだ。
なにしろ理屈では、大幅利上げしたユーロは、ゼロ金利の円に対して大幅な上昇を果たしてもおかしくなかった。そのような市況が確認されていないなら、他ならぬ、円売りのモメンタムが低下してきたと言える。
何回も強調してきたように、ユーロ/円はインターバンク市場で直接取引されるクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)なので、その影響が米ドル/円に波及するから、ユーロ/円におけるサインは見逃せない。
昨日(7月21日)ユーロ/円は、一時142.35円をトライしてから140.50円で大引けした。
日足では典型的な「スパイクハイ」のサインを灯し、さらに前日の高値をいったん更新して値幅を拡大した形での反落となったわけで、「弱気リバーサル&アウトサイド」(チャート中の(1))のサインと解釈できる。
(出所:ゴールデンウェイ・ジャパン)
利上げしたユーロであるが、逆に対円では弱気変動となった。どう解釈するかは人それぞれだが、筆者は円売りモメンタムの低下と捉える。
さらに、7月5日(火)の大陰線(2)も強烈な「弱気リバーサル&アウトサイド」のサインをともしたから、その結果、7月8日(金)まで下落を続け、いったん6月16日(木)安値(3)を割り込んでいた。
6月に3回ほど144円前半の打診があったからこそ、6月16日(木)の安値の割り込みで「トリプル・トップ」を形成しかねない状況だが、ここをこれから守れるかどうか、昨日(7月21日)の市況で雲行きがあやしくなってきた。
米ドル/円は上昇ウェッジを下放れしたように見える
円売りモメンタムの低下は、米ドル/円でもしっかり確認された。昨日(7月21日)の陰線は、同じく「弱気リバーサル&アウトサイド」のサインを灯し、下のチャートが示した「上昇ウェッジ」を下放れしたように見える。
(出所:ゴールデンウェイ・ジャパン)
早期切り返しを果たし、また高値更新してこないと、市場のセンチメントはまた変化してくるだろう。
なにしろ、前回のコラムで指摘したように、ウォール街の面々がトレンドの後を追うように、米ドル高一辺倒をあおり、巷もつい最近まで円安恐怖感に包まれていた。
【参考記事】
●米ドル高の連鎖が続くが、今は米ドルの高値を追わない方が良い! なぜ、米ドル高をあおる面々が、率先して買わないのか?(2022年7月15日、陳満咲杜)
一方、円安の進行が避けられないと叫ばれるなか、米ドル/円の高値更新はなかなか見られず、円ショート筋の苛立ちも、少し見え始めたのではないだろうか。
目先は米ドルの高値を追わないほうがいい
誤解しないでほしいが、筆者はこれから円高になるとは予想してない。円の買い戻しがあっても、あくまで大幅円安に対するスピード調整であるが、重要なのは、米ドルの高値を目先追わないほうがいいということだ。仮に米ドルの反落、即ちタイミングに関して示唆があれば、見逃せない。
一時、米1%利上げ予想が支配的だったことは、1つ重要な示唆であった。市場センチメントは常に悲観しすぎか、楽観しすぎになりやすい。総悲観の中、米株が逆に切り返してきたように、ウォール街の面々があおっているうちに、米ドルに関する行きすぎた楽観論も後退してきたように見える。
さらに、昨日、今日(7月21日、22日)の日経さんの2本の記事も気になる。
1つは、日本個人投資家が円安の流れに乗り、またこれからも続くような内容。もう1つは、EUの利上げで取り残された円が売られるのも自然な成り行き、といった内容と記憶している(斜読みなので記憶が曖昧なところもあるが、おおむねの話…)。
意地悪く言えば(わざとではない)、このような「記者の目」は、「すでに過ぎた現象に対する総括で、往々にして市況の後を追うだけの話であり、結果的に盛大に書かれること自体が1つのサインとみなせる。
つまるところ、円売りに急がなくてもよいということだ。市況はいかに。
13:50執筆
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