米CPIリリース後、米株は急騰、米ドルは急落
前回(2022年11月4日)の本コラムでは、市場センチメントが変わりやすいことを指摘し、米株のアノマリーが効くなら、11月は米株高になりやすく、また、リンクした米ドル高一服が想定されることを記していた。
【※関連記事はこちら!】
⇒米ドル/円は160円台の打診も可能か!? 米ドル高の一段の行きすぎがあってもおかしくないが、今の市場のセンチメントが9月末頃と同じように見える点には注意が必要!(2022年11月4日、陳満咲杜)
昨日(11月10日)の米CPI(消費者物価指数)リリース後、米株の大幅高や米ドルの大幅反落が見られたから、そのとおりの展開になっている。
(出所:TradingView)
もっとも、先週末(11月4日)、すでにその兆しを点灯していた。米雇用統計が想定より良かったにもかかわらず、株は続伸、そして米ドル全体が反落していたのだ。
雇用統計の好調は、本来は大幅利上げ継続の観測を高める存在であったが、市場参加者はむしろそれを利用してポジション調整を行っていたようで、米ドル高一辺倒ではなかった。
ゆえに、予想に届かなかったCPIを受け、相場は一気に反転した。ナスダックスは7%以上の上昇を果たし、米ドル全体は2009年以来の下落幅を記録した。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
中でも、米ドル/円は値幅6円超となり、逆ショックと言えるほどの変動率を示した。
(出所:TradingView)
逆ショックというのは、やはりインフレ水準の低下自体がポジティブなので、ポジティブ・ショックともいえる。ただし、筆者からみれば、材料というものは、往々にしてトレンドの後を追って発生する存在なので、まったくサプライズではない。米ドル高の一服を想定していた分、追い風が吹いてきただけの話だ。
米長期金利の見通し低下にともない、
ここまでの相場見通しが一転する可能性も
とはいえ、米金利見通し自体がなお変化していくので、油断できない。米インフレ傾向も一直線で修正がないが、途中の紆余曲折はなお想定される。
しかし、米ドル/円を例として挙げると、一気に140円台前半まで下落したから、さすがに160円や170円といった上値ターゲットを提示する方が沈黙しそうな雰囲気になってきた。
つい最近、あのウォール街の王者GS(ゴールドマン・サックス)さんが米ドル/円のターゲットを155円台へ引き上げたばかり。昨日(11月10日)のCPIの数字を受け、同ターゲットを修正するかどうかはわからないが、米政策金利自体が5.25%まで引き上げられるという前提条件があっただけに、不確実性が高まってきた。
相場のことは、相場に聞く。カギとなる米長期金利の見通しは、目先、だいぶ低下してきた。
米10年物国債利回りの日足を見ればわかるように、昨日(11月10日)の大幅続落で、一気に3.811%まで下落。日足におけるサイン、「1-2-3の法則」で測るなら、やはり頭打ちとなった上に、トレンドを転換した可能性が示唆される。
(出所:TradingView)
同法則は繰り返し紹介してきたので詳説を省くが、要するに頭の重い構造が証左され、米金利の見通しが従来ほど強くならない公算大。ここまでの見通しが一転する可能性も高いから、ポジションの整理を一段と迫られる見通しも高まる。
「一段と」と強調したのは、ほかならぬ、昨日(11月10日)、米ドル/円の急落が見られたように、大規模なポジション整理はすでに行われたはずだからだ。日本のFX業者さんの統計を見る限り、CPI発表前における個人投資家の米ドルロングポジションは圧倒的に多かったので、同指標を受けた狼狽売りが推測される。米ドル/円の急落、また値幅拡大は、ロング筋の損切りの結果であるとも思われる。
米ドル/円はサポートラインも機能しているとみえ、
下値を追う段階ではない
ただし、ポジションの調整自体も一気に進んでいるから、短期スパンなら、逆に米ドル/円の反落も一服してくる可能性がある。
シンプル・イズ・ザ・ベストなので、下のチャートが示しているように、米ドル/円におけるメインサポートラインの打診はあったものの、目先、機能しないとも考えにくいから、米ドルの下値を追う段階でもなかろう。
(出所:TradingView)
なにしろ、日米金利差はなお拡大していく段階にあり、ゼロ金利の円が対米ドルで大幅上昇することは考えにくい。
昨日(10月11日)の急落は、CPI逆ショックを受けたポジション調整であったと思えば、ここからはしばらくレンジ変動に留まるだろう。
もちろん、昨日(10月11日)の大陰線自体もすぐには否定されにくいから、米ドル/円の切り返しがあっても145~146円台のレジスタンスに阻まれる公算大。
ドルインデックスの反落が続くなら主要外貨に上昇の余地
半面、ドルインデックスの反落が続くなら、対円ではなく、円以外の主要通貨が受け皿となってくるだろう。
ユーロ/米ドルの1.02ドルの節目回復に象徴されるように、円以外の主要外貨の切り返しの余地が大きく、しばらく米ドル安の受け皿として買われやすい展開と想定できる。
(出所:TradingView)
ユーロ以外だと、フラッシュクラッシュで史上最安値に一時沈んだ英ポンドは明らかに「売られすぎ」なので、1.2ポンドの大台回復を狙えるだろう。
(出所:TradingView)
優位性のある豪ドルも、まず、0.67豪ドルの大台回復を目指し、これから一段と切り返しの余地を拡大すると推測される。
(出所:TradingView)
そうなると、肝心のクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)も、やはり再度上昇していくと推測される。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 日足)
昨日(11月10日)のCPI逆ショックの最大の波乱といえば、円の急伸をもたらしたことだ。しかし前述のように、米ドル/円の下値余地が限定的であれば、主要クロス円における一時の深い押しがあっても「ダマシ」となり、逆に出遅れたロング筋にとって絶好の押し目買いの好機と映る。
米ドル全面高の一服があったからこそ、クロス円が上昇する。こういった理屈は本コラムが繰り返し指摘してきたが、また検証する好機に恵まれた。詳細はまた次回、市況はいかに。
15:00執筆
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)