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日銀がYCCの変動幅を±0.50%へ拡大。その理由があまりにも「片腹痛し」
日銀が突然の政策変更に動きました。これまで、YCC(イールドカーブ・コントロール)政策下、10年物金利の変動幅を0%±0.25%としてきましたが、この変動幅を±0.50%へと拡大しました。
大きな政策変更です。12月20日(火)の黒田総裁の会見では、これまで頑なに拒否していた政策変更を実施した理由を「債券市場では市場機能が既往ボトムまで悪化している。国債金利は社債や貸出等の金利の基準となるものであり、こうした状 態が続けば、企業の起債などに悪影響を及ぼす恐れがある。従って、バンド拡大を通じて金融緩和波及効果を高めることが、政策の持続性に資する」と説明しました。
日銀はこれまで、YCC(イールドカーブ・コントロール)政策下、10年物金利の変動幅を0%±0.25%としてきたが、この変動幅を±0.50%へと拡大させた。写真は日銀の黒田総裁 (C)Bloomberg/Getty Images
黒田総裁はこれまで、「バンド幅拡大は事実上の利上げ」と発言していました。それ以前には、「2~3年は金利を引き上げる必要はない」とまで言っていました。そうした発言との整合性はまったく取れていません。よって、まったく納得のいかない理由です。より金融緩和波及効果を高めるという表現は、あまりにも「片腹痛し」です。
しかし、黒田総裁を責める気はありません。政策変更の可能性はまったくないと思っていたので、日銀政策発表前に持っていた米ドル/円のロングポジションはこっぴどくやられましたが、よく難しい決断をされたなと思います。
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なぜ、日銀は政策変更に動いたのか?
なぜ今、日銀は政策変更に動いたのか?
(1)岸田政権は「政府・日銀による共同声明」におけるCPIの2%目標を新日銀総裁と協議するとの報道がありましたが、政策変更は新総裁が行うにはあまりにも負担が大きい仕事。大規模緩和をスタートさせた黒田総裁が責任を取ってバンド幅拡大に動いたことは、良いことです。
(2)YCCのバンド幅拡大でもっとも懸念されるのは、投機筋に狙われ、国債の金利が際限なく上昇してしまうこと。以前、RBA(オーストラリア準備銀行[豪州の中央銀行])が突然量的緩和政策を放棄したところ、国債の金利が急騰したことがありました。今回はクリスマス前の休暇中とあって、投機筋も休みをとってゆっくりしているところだったのでしょう。政策変更後に、JGB(日本国債)の利回りが0.50%の金利上限に張り付くということはありませんでした。
(出所:TradingView)
米ドル/円は130円割れなら125円がターゲット。そこも割り込むと120円、115円と下落トレンドへ
この措置で、マーケットはどう動くのでしょうか?
これまで動かないと考えられていた日銀が動いたということには大きな意味があります。市場にまったく織り込まれてなかったので、新しい材料となるでしょう。
よって、単純に日米金利差だけを引き算して、わずか0.25%の上昇の割に為替市場の反応が大きすぎる、と考えるのは間違いだと思います。
米ドル/円の目先のサポートは、ペロシ米下院議長が訪台した時に付けた安値130.40円、そして130.00円。これが割れると、125円台ということになります。
125円台は2015年の高値です。このレベルを割り込むことは、151.95円からの下げが調整とはならず、120円、115円とさらに下げるトレンドになると思います。
(出所:TradingView)
日銀の政策変更を受けて、ヘッジファンドはどう動くのか?
ヘッジファンドは、どう動くでしょう?日銀の政策変更があったとき、準備ができていませんでした。クリスマス休暇を取っていたトレーダーもいるでしょうし、1年の終わりで、ここからリスクを取ってトレードする人もいないタイミングでもありました。
しかし、来月(1月)にはニューイヤーとなります。新たにリスクが与えられ、取れるリスク量、儲けるべきターゲットも決まります。
ヘッジファンド勢は、おそらく再度JGB(日本国債)を売るでしょう。10年国債の金利は0.50%に張り付くことになります。日銀による国債の購入量も増えるでしょう。
さらにバンド幅を広げる必要性はないように見えますし、黒田総裁も「一切考えてない」と会見では言っていました。しかし、新総裁が就任するまで絶対に動かないと思われた日銀も動きました。黒田総裁はすでに市場からの信用を失っているので、何を言っても無駄でしょう。マーケットはさらなるバンド幅拡大(0.75%(?)ただ、バンド幅を拡大しすぎると、もはやイールドカーブ・コントロール政策でも何でもありません)、もしくは、現在マイナス0.1%である政策金利をゼロに引き上げる、マイナス金利解除といった措置を期待すると思います。その時は、さらに円高が進みそうです。
(出所:TradingView)
これまで、2023年の米ドル/円レンジは、130~150円、もしくはもっと広げて125~155円と考えていましたが、日銀が動いたのですべて撤回しなければなりません。
そもそも、将来150円という目標を立てたのも、アベノミクスという無限の流動性拡大をやったからです。そのアベノミクスが終わりました。正確には、アベノミクスの終了に手がかかりました、というぐらいでしょうか。
よって、米ドル/円は125~145円という感じでしょうが、再度の円安方向への動きが、先送りされるイメージです。
(出所:TradingView)
日本がどの程度金融引き締めに向かうことができるか、未知数ではありますが、財務省はJGBの1%を超える金利は嫌がるでしょう。また、2%などといった高い水準になると、債務が自然に増えて、立ち行かなくなります。許容できても1%前後でしょう。
金利にやはり(目に見えない)上限があるとなると、いずれまた円安局面が現れるということだと思います。
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ユーロと英ポンドに注目。英国のリセッション入りは確実か
他の通貨に関して、ユーロと英ポンドに注目しています。
先日(12月15日)、ECBが利上げを実施しましたが、タカ派的となったラガルド総裁が印象的でした。今後の政策金利の推移も、従来までの2%を少し超えるぐらいといったイメージを超えて、現在、市場では3.25%と予想されています。
米国:5.00-5.25%
欧州:3.25%
英国:4%台半ばから後半
こうしてみると、やはり欧州は低いのですが、従来の2%台と言っていたイメージが忘れられません。以下は、2023年のユーロ/米ドルとユーロ/円の想定レンジです。
ユーロ/米ドル 0.95-1.20ドル
ユーロ/円 130-150円
英国はリシ・スナク新首相を迎え、経済の舵取りに関しては、前任のリズ・トラス氏とは安心感が格段に違います。とはいえ、今年(2022年)、リセッション(景気後退)に突入する可能性が高いのが英国です。
(※「リセッション」とは、景気が低迷し不況にいたる過程のこと。欧米では一般的に、GDPが2四半期連続でマイナス成長となった場合をみなす。英国は2022年第3四半期にマイナスとなったので、第4四半期がマイナスになるとリセッションとなる)
先ほど紹介したとおり、12月15日(木)にECB(欧州中央銀行)が利上げをしたのですが、同日にBOE(イングランド銀行[英国の中央銀行])も利上げを実施しました。しかし、スタンスは対照的でECBはタカ派的な利上げとなった一方で、BOEはECBほどタカ派的でなかったことからも、リセッションに入った後の利下げも意識しはじめているのではないかと推察されます。以下は、2023年の英ポンド/米ドルと英ポンド/円の想定レンジです。
英ポンド/米ドル 1.05-1.30ドル
英ポンド/円 145-175円
今年も当コラム「志摩力男のマーケットの常識を疑え!」をご愛読いただき、ありがとうございました。次回の配信は2023年1月11日(水)の予定です。
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