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米債務上限問題はシナリオの決まっている「プロレス」なのか?
市場関係者の間では、米債務上限問題はしばしば「プロレス」と言われます。つまり、どんなに激しく合意は不可能に見えても、実はシナリオがあり、落とし所は決まっていて、最終的には合意するはずだと。
おそらくそうです。最終的に本当に米国債が「デフォルト」するなど、ありえないことです。
しかし、あるプロレス好きの友人が、今回は過去の米債務上限問題よりも「セメント」なのではないかと言っていました。
「セメント」の意味がわからなかったのですが、検索すると、シナリオのある勝負をしているはずが、何かのはずみで「ガチンコ」の勝負になってしまうこと、だそうです。
「ガチンコ」はまずいです。
今回、過去のケースより妥協が難しいのは、共和党、民主党、共に内部に深刻な分裂を抱えているからです。先の中間選挙で、下院は共和党が過半数を制しましたが、下院議長を選出する際に、かなり混乱しました。トランプ支持派がマッカーシー氏を支持せず、何回も投票を繰り返したことは記憶に新しいところです。マッカーシー氏は強硬なトランプ支持派をコントロールする力がありません。
一方の民主党ですが、サンダース氏やAOC(アレクサンドリア・オカシオ=コルテス氏)らを支持する、いわゆる左派も強硬です。バイデン大統領は「共和党に妥協しすぎている」と猛烈に批判されています。
それでも妥協案を合意するにはどうすればよいのか?
「合意は致し方なかった…」という状況を作るしかありません。国家の危機を意図的に作るしかないのです。
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⇒米債務上限問題とは? 債務が上限に到達したらどうなるのか、注目されるようになった理由、トレーダーが気をつけるべき点などを、わかりやすく解説!
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米債務上限問題は最終的に合意も、多少の金融市場の混乱はあるか
6月1日(木)が債務上限のデッドラインと言われています。それは、イエレン財務長官が何度も繰り返し言っていることです。しかし、おそらく、本当のデッドラインはもっと先でしょう。1週間先か、2週間先か、3週間先かはわかりませんが、このデッドラインを超えても大丈夫なように、ある程度余裕を持たせているはずです。
5月29日(月)はメモリアルデーで米国は祝日です。日程を考えると、その前の週末ぐらいまでに合意がないと、5月中に議会を通すのは難しいでしょう。今週(5月22日~)末がひとつのヤマ場になります。
5月中の合意が望ましいに決まっていますが、6月1日(木)を超える可能性が相当高いと思います。その時、マーケットは少し荒れる可能性があります。
過去の米債務上限問題のときには、政府機関の閉鎖がありました。目に見える形で、米国民の生活に悪影響が出てくると、両党に対する批判が高まりますが、それが反対派を妥協させるには必要です。
今回はどうなるかわかりませんが、ある程度金融市場も混乱しないといけないのかもしれません。また、そうでないと、妥協・合意は難しい。
最終的には、「デフォルト」はありえない選択肢なので、合意はありますが、6月1日(木)のデッドラインを超え、手に汗握るシーンが必要になってくるので、この「プロレス」の一部として、金融市場の混乱もシナリオに書かれているかもしれません。株価が下落し、リスクオフマーケットになると思いますが、それはそれでチャンスでしょう。
(出所:TradingView)
(不謹慎ですが)リスクオフマーケットを取りに行くのも良いですし、下がったところで株を買う、為替市場であればリスクオンのポジションに切り替えるというのも良いでしょう。
ただ、仮にデフォルトしたとしても、これはテクニカルなデフォルトです。米国の債務支払い能力には何の疑問もありません。
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FRBの金融政策に少し混乱がみられる。米雇用統計などの数値が重要になる
米金融政策に少し混乱が見られています。
5月19日(金)、パウエルFRB議長はバーナンキ元議長とのパネルディスカッションにおいて、6月FOMC(米連邦公開市場委員会)において、利上げの一時停止を示唆しました。
米地銀の経営が危うい状況になっているので、与信厳格化から金融環境が引き締まり、その分だけ利上げを待つことができるとしました。
しかし、翌週の5月22日(月)、ブラード・セントルイス連銀総裁が「あと0.50%の利上げが必要」とパウエル議長とは真逆の発言をし、米ドル/円はそれを受けて1円程度上昇しました。
パウエル議長とまったく反対の意見をパブリックに表明するというのは、日本では考え難いのですが、米国らしくそれが米国の強さだなと思います。ブラード総裁以外にも、6月のFOMCでの利上げを示唆するFRB関係者は何人もいます。
その状況を正確に反映したのが、5月FOMCの議事要旨でした。
Some participants commented that, based on their expectations that progress in returning inflation to 2 percent could continue to be unacceptably slow, additional policy firming would likely be warranted at future meetings.
「参加者の数名は(Some)、2%のインフレ率に戻すプロセスが受け入れがたいほど遅いだろうという予測から、今後の会合での追加引き締めが正当化される可能性が高いとコメントした」
そして、このすぐ後に、
Several participants noted that if the economy evolved along the lines of their current outlooks, then further policy firming after this meeting may not be necessary.
「参加者の数名は(Several)、経済が現在の見通しに沿って進展するのであれば、今後のさらなる政策の引き締めは必要ないかもしれないと指摘した」
追加利上げを支持する意見と、必要ないという意見が並列に、そしてその差はsomeとseveral、日本語にすればどちらも「数人」です。しかし、おそらく「SOME<SEVERAL」、つまり、利上げ休止派の人数が少し多いということです。
※以下、2023年5月30日(火)追記
上記のように書いたのですが、間違いでした。SOME>SEVERALです。FOMC議事要旨では、数は重要なのでしっかり認識していたつもりだったのですが、Bloomberg ラジオで”Some is more than Several”と言っていたので、「しまった」と思いました。
言い訳をさせていただければ、日経新聞も同じ間違いをしています。以下、日経新聞から引用します。
【ワシントン=高見浩輔】米連邦準備理事会(FRB)は24日、5月2〜3日に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨を公開した。何人かの参加者は次回以降の会合でも追加の引き締めが必要になる可能性が高いと指摘したが、それを上回る参加者が利上げの停止を主張しており、見方は分かれている。
出所:日経新聞
利上げを求める参加者と、利上げの停止を求める参加者、どちらが多いのかは重要です。その意味では、日経は(私同様)致命的な間違いを犯しています。日経なので英語のエキスパートが記事をチェックしているはずです。一般的な世界ではSOME>SEVERALなのだと思いますし、その点は正確に訳されています。
FOMC議事要旨におけるCounting Wordsは重要で、これはFRBのホームページにしっかり定義が載っています。
以下の表に、量を表現する言葉を多い順に並べています。
FOMCに参加するのはFRB理事(現状パウエル議長、バー副議長、ボウマン、クック、ジェファーソン、ウォーラーの6人)と、全米に12ある地区連銀総裁で、現状全員で18人です。その前提で人数は推測しています。SOMEというからには半数(9人)を下回るでしょうし、Manyは半数を上回り、大体3分の2までかなと推定しています。重なる部分も多いと思います。
米金利はFOMC議事要旨前から上昇開始し、議事要旨後も上昇を続けていました。利上げを求める関係者の数が、わずかとは言え、多いと認識していれば、米ドルにより強気になれたのかもしれません。
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