円が買われていても「円高」という言葉を使う気になれない、
2つの理由――1つ目は、円買いというより米ドル売り?
円は買われている。しかし、円高という言葉をあまり積極的に使う気にはなれない。理由は2つある。
1つは米ドル全体の視点で見れば、円が買われているというよりも、米ドルが売られているという見方のほうが合理的であるということだ。ドルインデックスを見れば一目瞭然であるが、目先、2024年2月安値を割り込んでいるから、米ドル全体の反落が鮮明である。
(出所:TradingView)
もっとも、2月13日(火)の米1月CPI(消費者物価指数)のリリースを受け、米ドル全体は急伸していた。ドルインデックスも同日にて大陽線を形成し、いったん104.85までトライした。しかし、その後、なかなか高値を更新できず、またじわじわ反落してきて、米ドルの頭の重さが露呈した。
2月13日の大陽線、プライスアクションの視点では非常に支配力のある罫線だったが、全く効かなかったから、逆に「偽りのドル高」の蓋然性を暗示したと思う・・・ #fx #ドル指数 #日足 pic.twitter.com/YPjRW8jZW5
— 陳まさと@プライスアクション (@chinmasato) February 27, 2024
上の投稿(2月27日のX(旧ツイッター))で指摘したように、2月22日(木)にはいったん2月13日(火)の安値を割り込んでいた。それは弱気のサインと解釈され、「偽りの米ドル高」が暗示されるサインであった。
なにしろ、2月13日(火)の大陽線は、プライスアクションの視点では、同日ザラ場において、いったん2月2日(金)以来の安値を更新していたものの、大幅な上昇を果たし、2023年11月14日(火)以来の高値や終値を形成していた。これは「強気リバーサル&アウトサイド」のサインと呼ばれ、強気のサインの典型であった。
問題は、その典型的な強気のサインが点灯しても、その後は続伸できなかったことだ。その上、2月22日(木)にて、いったん安値の再更新があったから、そこから米ドル全体の頭打ち、また続落の可能性が想定されるべきだった。
一昨日(3月6日)からの大幅続落があって、昨日(3月7日)終値をもって2月安値を割り込んだわけで、今朝(3月8日)のXの投稿で指摘したように、「偽りの米ドル高」であることが、ほぼ証明された。
やはり「偽りのドル高」だったね・・・ #fx #ドル指数 #日足 https://t.co/Ytq6OjX7PN pic.twitter.com/fM2zS7LC4e
— 陳まさと@プライスアクション (@chinmasato) March 8, 2024
「偽りの米ドル高」という言い方は、外ならぬ、巷では米早期利上げ観測の後退をもって米ドル高継続の予測が多かったから、そのような見方は裏切られるだろうという意味合いを含む。
ゆえに、米ドル全体の反落がこれからも続く公算が高く、米ドルの反落と相まって円が買われることは、米ドルロングポジションの決済がもたらした結果、ということに尽きる。
円が買われていても「円高」という言葉を使う気になれない、
2つの理由――2つ目は、円の売られすぎ?
2番目の理由は、円の「売られすぎ」である。そもそも、円は2024年年初から大きく売られてきたから、目先、円の反発があっても円売りポジションの決済にすぎず、円高と言うほど円が積極的買われる段階ではない。
売られすぎかどうかはいろんな測り方があるが、もっともポビュラーな見方は、金利差で見ることだろう。
米ドル/円が一時151円の節目手前に迫った時はもちろん、つい2日前でも日米金利差から見れば、売られすぎの状況であった。
米ドル/円のみでなく、ユーロ/円など主要クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)もそうであった(もちろん、ユーロ/円なら欧米金利差で測る)。
言ってみれば、巷で言う日銀の早期金融政策正常化の可能性がもたらした円金利の上昇は、行きすぎた円安に対する修正のきっかけではあったものの、米ドル/円なら、やはり米金利の急落がおもな背景であった。
日銀3月会合に関する情報も、マイナス金利を解除するといった観測で円が積極的に買われたというよりも、米金利の急落で米ドルロングポジションの決済、といった事情が主であったと思う。
公表されたデータを見る限り、IMM(国際通貨市場)のポジション状況が示す円売りポジションは、2月末までで、すでに13万枚を超えていた。
経験上、これはかなり大きな円売り超過(加熱)の状況であったため、いったん修正されてもおかしくない状況だった。日銀政策に関する思惑の浮上も背景にはあったものの、直接の理由ではないかもしれない。
根本的な理由として、やはり円は「売られすぎ」だったから、修正のニーズが強かった。ゆえに、米ドル/円はいったん147円台半ばを打診しており、近々200日移動平均線(目先≒146.20円)を試してもおかしくなかろう。
(出所:TradingView)
市場は米景気後退の可能性を織り込もうとしている!?
「不都合な存在」がこれから浮上してくるかも…
さらに言えば、米10年金利(米10年物国債利回り)がいったん4.17%まで低下してきたことも、一部の市場参加者にとって意外な値動きとなり、米ドルロングポジションの決済が迫られた模様だ。
そもそも、米早期利下げ観測が低下しており、米金利の切り返しが継続されると思われがちだった。それでも米金利の低下が観察されたわけなので、市場は米景気後退の可能性を織り込もうとしているのではないかと思われる。
天井知らずの米株のブル(上昇)基調に鑑み、米景気後退の可能性はほとんど意識されていないと思われるが、そこに落とし穴があるのではないかと思う。
つい最近まで、円は売られ続ける通貨だと思われがちであったのと同様、半導体株をはじめ、上がり続ける米株に「死角なし」という見方には、何らかの「不都合な存在」がこれから浮上してくるかもしれない。
円安トレンドに「死角なし」という見方にとって、日銀の早期金融政策正常化は「不都合な存在」であった。これから日米株ともに調整してくれば、後を追う形で新たな材料の浮上を警戒すべきだ。
とはいえ、新たな材料を文字どおりに取らなくてもよい。日銀金融政策正常化が早晩実施され、まったく予想できるものであるのと同様、材料の蒸返しは実によくあることだ。市況はいかに。
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