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経常収支問題に切り込み始めた財務省
財務省が3月26日(火)に行った国際収支に関する懇談会が注目されています。
(出所:財務省)
参加された「委員」を見ると、植野大作氏、加藤出氏、唐鎌大輔氏、熊谷亮丸氏、河野龍太郎氏、佐々木融氏、中空麻奈氏と言った、テレビによく出演されるアナリストの方々が、ずらりと参加しています。
経常収支が黒字であれば、定義上「円」の価値は担保されることになっています。しかし、経常黒字にも関わらず、円安が止まりません。その点に財務省は危機感を感じているのでしょう。
因果関係的には金利差と為替レートには大きな関係性があるとは言え、かつて日米金利差と米ドル/円レートに大きな相関関係はありませんでした(黒田前日銀総裁もよく会見等で指摘しておられました)。過去30年ぐらい、日本の政策金利は基本的にはゼロ近辺でしたが、円安のときもあれば、円高のときもありました。
日米金利差が縮小することは難しいので円安になるという論調(私も基本的にはそのように考えています)が今は強いのですが、過去は必ずしもそうではなく、特にリーマン・ショック等の米経済危機の際は、同時に円高が襲い日本経済に極めて強い下向きの圧力をかけました。
これまで円高で苦しんできただけに、一時的に円安でもそのうち自然に円高が戻ってくるだろう、そう考える人が多いのです。しかし、どうして最近は自然と円高に戻らないのか、そこを考えたいというのが財務省開催の懇談会の目的なのでしょう。
財務省の問題意識を懇談会の資料(誰でも見ることができます)に沿って見てみましょう。
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経常黒字なのに円高にならなかった理由とは?
経常収支は黒字基調が続き、最近も年間20兆円ほどの経常黒字です。しかし、2010年ごろまでは貿易黒字が経常収支黒字の要因でしたが、最近は所得収支が経常黒字の主因で、貿易収支やサービス収支は大きく赤字になっています。
(出所:財務省懇談会資料)
当初、経常黒字にも関わらず、円高にならないことは不思議に思われていました。しかし最近では、貿易収支の黒字は必ず円転される一方、所得収支の黒字は現地で再投資されることが多く日本に戻ってこないため、同じ経常黒字でも、所得収支が黒字の主体であるとき、円高要因にならないと分析されています。
(出所:財務省懇談会資料)
貿易収支の内訳を見ると、日本からの輸出は比較的コンスタントに輸送用機器を中心に出ています。
「円安にも関わらず、どうして輸出が伸びないのか」とよく言われますが、貿易赤字の原因は輸出側と言うより、輸入側にあります。鉱物性燃料の輸入が近年極めて大きくなっています。
必ず必要なものなので、値段が上がっても下がっても、一定量輸入します。よって資源価格が上昇すると貿易収支が悪化するので、その意味では、円安が貿易赤字を拡大させています。
冷静に考えれば日本経済は極めて脆弱な状況に置かれていると言えます。原油価格(資源価格は原油にほぼ連動します)は、今は落ち着いていますが、世界情勢は二つの戦争など、激動しており、いつ何時、原油価格が再上昇するかわかりません。
原油が1バレル150ドル、200ドルとなった場合、貿易赤字は極端に大きくなり、その時の米ドル/円レートがどうなるのか恐ろしく感じられます。
(出所:TradingView)
日本への投資に大きなメリットがないと資金還流は難しい
そして、最近注目されているのは、サービス収支の赤字です。特にデジタル関連の赤字は年々巨額になっています。
(出所:財務省懇談会資料)
海外からの旅行客が増えているので、旅行収支の黒字はありがたいことですが、拡大するデジタル赤字を埋めるには至っていません。現在デジタル関連赤字は5兆円を少し超えるぐらいですが、実態はもっと大きいのではないでしょうか。
完全に補足されていない可能性もあるように感じます。自分自身の支出を考えても、マイクロソフトやアップル、グーグル等々に結構なお金を払っています。
それでも、経常収支は黒字です。その要因である第一次所得収支が日本に還流すれば、円の価値は上昇するはずです。ではなぜ還流してこないのか?
(出所:財務省懇談会資料)
この図を見ると、第一次所得収支は、かつては証券投資収益が大きかったのですが、今では直接投資収益が大きいことがわかります。直接投資は海外で工場を作ったりした資金なので、簡単に戻っては来ないということになります。
では、証券投資が戻ってくればよいのですが、そこには海外で再投資すればよいのか、それとも日本に投資すればよいのかという投資判断が入ってきます。金利もなく、成長も乏しい日本に投資しても、リターンはきっと小さいという投資判断が、日本への資金還流を阻むことになります。日本に投資すると大きなリターンがある、そうならないと難しいということでしょう。
新NISAで投資する資金も海外に向かっています。日本に投資することに魅力がないということです。結局のところは、人口構成の高齢化を放置し、潜在成長力が限りなくゼロに近い社会であることが、ますます資金を遠ざけ、それが日本の成長を阻害しているということになります。
昔から言われていることなので、ちょっと何かを変更したところで状況は変わらないとは言えます。リパトリエーション(リパトリ=本国送還)減税もウワサされていますが、根本のところが変わらないと、少し減税されても資金を戻す理由にならないでしょう。
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財務省は円安是正に本気になった!神田財務官は米ドル/円は152円前後をどう死守するのか?
日本は、TSMCを国内に誘致するために、1兆円を超える資金を提供しています。それを考えると、大幅な投資減税等を行ってもよいのではないかと個人的には思います。
ただ、こうした国際収支に関する懇談会を開いたりするというのは、財務省が円安是正に本気になっていることを感じさせます。
日本はデフレに陥っていました。まずは企業が業績を上げて、富を生み出さないことには、誰も栄えません。そして日本企業の収益は高まり、それが労働者側に分配され始めました。株価も上昇しました。次は、ついに過剰に安くなった円の水準修正に順番が回ってきたかもしれません。
10年以上にわたって続いてきたアベノミクスにより、円を持っていれば損をする、その恐怖感たるやすごいものがあります。とにかく、円を持っていては損をするということが刷り込まれました。その刷り込みを修正するには大変な時間がかかるでしょう。
本邦当局も、ついに「断固たる措置」を取ると言い始めました。過去の経験から言うと、「断固」という言葉が出ると、2-3円以内には介入がありました。今回の米ドル/円に当てはめると155円ぐらいまでには入るということでしょう。
それでも、円安を是正するのは難しいとは思います。一時的に、円安を止めるのは簡単ですが、トレンドを転換させるのは、相当難しそうに見えます。
一定のレベルをターゲットに介入することはしてはいけない、あくまで為替介入は市場の混乱回避が目的、と言われています。だが本邦当局が152円を死守すべきレートと考えていることは明らかでしょう。神田財務官がどのような介入で152円前後を死守するのか、注目です。
(出所:TradingView)
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