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11年続いた日銀の「異次元緩和」がついに終焉
日銀が政策変更に動きました。
3月18日~19日に開催された日銀金融政策決定会合後に行われた会見における冒頭で、植田総裁は次のように述べられました。
「賃金と物価の好循環を確認し、先行き、展望レポートの見通し期間終盤にかけて、2%の物価安定の目標が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断しました。こうしたもとで、これまでのイールドカーブ・コントロールおよびマイナス金利政策といった大規模な金融緩和は、その役割を果たしたと考えています」
喜怒哀楽をあまり表に出さない総裁ですが、こころなしか晴れがましい表情に見えました。心中では「やったぞ!」とガッツポーズを取っていたでしょう。
11年続いた、いわゆる「異次元緩和」は終わりました。
マーケットでもっとも懸念されたのはJGB(日本国債)市場の混乱です。RBA(オーストラリア準備銀行[豪州の中央銀行])が量的緩和政策を終了した際、豪州国債が急落し大きな相場変動となりました。植田総裁はこの難事業を、特に大きな市場変動をもたらさずに実現したことは、すごいことだと思います。植田総裁は歴史に名前を残すことになりました。
今回変更された点は以下のとおりです。
(1)マイナス金利政策を解除し、無担保コールレートを0.0~0.1%へと誘導する
(2)イールドカーブ・コントロール政策を撤廃する。これまでと同程度の金額でJGB買入を継続。長期金利急上昇時には機動的に買入額増額や指値オペ、共通担保資金供給オペ等を実施する
(3)ETFおよびJ-REITの新規買入終了
(4)オーバーシュート型コミットメントについても、その要件を充足したものと判断(終了)
(5)これまで三層構造であった、日本銀行当座預金に対する付利金利は0.1%を適用
これほど大きな変更にも関わらず、マーケットは混乱しませんでした。その理由のひとつとして、事前に内容をマスコミへ「リーク」した、ということがあったと思われます。
今回ほど、多くの「リーク」報道を目にしたことはありません。決して褒められたことではないと思いますが、結果的に市場の安定につながったことは確かだとは思います。
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マスコミへのリークが他にも流れていた!?
しかし、マスコミへのリークが他にも流れたということはないでしょうか?
今回の米ドル/円相場、日銀政策決定会合のかなり前から円高方向への投機が始まりました。ヘッジファンド等に事前に情報が流れた?とも思えるような動きでした。
(※筆者提供・TradingView)
また、見た目の政策は大きく変わりましたが、実際の政策は大きく変わってはいません。
マイナス金利と言っても三層構造となっており、基礎残高には0.1%、マクロ加算残高には0.0%の金利が適用され、実際に-0.1%のマイナス金利が適用された政策金利残高は、それほど大きくありませんでした。
YCC(イールドカーブ・コントロール)は撤廃されましたが、国債買い入れは同じ程度の金額での買い入れが続きます。量的緩和政策は続行され、日銀のバランスシートに変化はありません。
日経平均も4万円台、ETF(上場投資信託)は最近ほとんど買っていません。
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日銀の政策変更は予想通りだがいくつかの疑問もある
会見でも植田総裁は「当面、緩和的な金融環境が継続する」と発言しています。
事前にリーク報道等の影響もあり円高方向の投機があったこと、そして外形的には大きく変わっても、実質的な政策に大きな変更がなかったことから、日銀金融政策決定会合終了後も円高方向への動きはまったくありませんでした。
今回の政策変更は、ある程度事前に予想されたものとは言え、いくつか疑問もあります。
(1)なぜ本命とされた4月ではなく3月だったのか
(2)今後政策金利はどのようなスピードで上昇するのか
(3)2%の物価目標が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったとの判断だが、それは本当なのか
(1)なぜ、4月ではなく3月なのか。それは、国内政治の状況、そして欧米の金融政策の動きが関係するのかなと思います。現在、裏金問題で安倍派幹部が動けない状況にあることは、政治的に好都合であるとは思います。そして、欧米が6月ごろから利下げに動くことも関係あったと思います。
政策を変更したとはいえ、わずか0.1%です。欧米との膨大な金利差が厳然としてあるので、政策変更後も円安傾向は変わらないでしょう。
しかし、6月に欧米が利下げに動くときに、(可能性は低いが)日本が利上げすれば、金利差縮小から円高方向への流れを作り出せる可能性もあります。4月に政策変更して6月もというのは、タイミング的に厳しい。3月に変更し、日本が7月ごろに再利上げぐらいであれば、自然な感じがします。政策の自由度を確保したいタイミングだったと言えます。
(2)それでは今後の金利上昇スピードはどうなるのか? 内田副総裁は2月8日の講演で、政策が正常化しても金利上昇は極めてゆっくりと説明されました。植田総裁も同じ主旨で説明されています。日本が本当に金利上昇に耐えられるのか、そこは厳しいでしょう。
植田総裁の会見でもその点に質問は集中しましたが、植田総裁は「他の中央銀行と同じように、物価・経済見通しに従って適切な金利水準を選んでいく」と答えられています。市場で織り込まれている今後の金利見通しは、極めてゆっくりとしたものです。
(3)市場は2%の物価安定目標が実現するとは見ていません。会見で総裁も発言していましたが、市場が予想する物価上昇率は1~1.5%程度のところです。
(※筆者提供 出所:日本相互証券株式会社、Break-Even Inflation Rate)
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植田総裁が中立金利をはっきり示さなかったワケ
日本の中立金利がどこにあるのか? 植田総裁は「はっきりしない」と言葉を濁らせました。中立金利は以下の計算式で求められます。
「中立金利=予想物価上昇率+実質中立金利」
しかし、実質中立金利はどこにあるのか。米国でも自然利子率がどこにあるのか、いつも議論になっており、よくわからないところがありますが、FRB(米連邦準備制度理事会)は3カ月に1度、SEP(Summary of Economic Projection)を出して、FOMC(米連邦公開市場委員会)に参加する各委員の想定する中立金利がどこか示しています。3月に行われたFOMCでは、それは2.6%でした。
日本で中立金利を示すと、JGB金利はその近辺にいずれ上昇すべきだ……ということになってしまい、JGBの暴落(金利上昇)を招きます。よって、言えないのだと思います。
そして、今後も金利は中立金利をかなり下回るということになります。
そうなると、日本は今後もずっとマイナスの実質金利になるので、円はなかなか上昇しないということだと思います。
(出所:Tradingview)
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日銀の「二枚舌作戦」で新しい円安相場がやってくる
日銀金融政策決定会合後のマスメディアの論調を見ると、「金利のある世界がやってきた」、「金利が上昇したら住宅ローンはどうなるのだ」、「中小企業は金利を払っていけるのか」、「ゾンビ企業の倒産が今後相次ぐのではないか」と金利上昇に対する警戒を非常に強く感じさせました。
長い間、金利がゼロである期間が続いたので、金利を払うという概念そのものが日本人から無くなっているのでしょう。
少し前までは、「円安をどうするんだ」、「こんな異常な金融緩和を続けて大丈夫なのか」とヒステリックな感じでしたが、今度は金利上昇に対し極めてヒステリックになっています。
円安でもヒステリック、金利を上げてもヒステリックとなれば、いったい日銀はどうすればよいのでしょう。ただ、円安を受け入れられないことと同様、金利上昇も受け入れられないというのが日本人の本音だと思います。
しかし、そうであれば、日銀はどうすればよいのでしょう?
おそらく日銀は、今後、マーケットに対しては金利上昇に気をつけろと言い、国内向けには緩和的状況がずっと続くと言い続けるのでしょう。この二枚舌作戦がいつまで有効かわかりませんが、日銀は1~2回利上げしたら、もう動けないという状況に陥りそうです。
その時、新しい円安相場が始まるのでしょう。
今は、介入警戒等もありますが、日本に資金を置いていても金利が付きません。外のお金が日本に還流してくるわけもありません。円は安いのですが、安い意外に買う材料もありません。よって、結果的に円安相場が続くのだと思います。
(出所:Tradingview)
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