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FOMCは非常にタカ派的!インフレ率2%への道のりはまだある
6月10日~14日の週はヘビーなイベントが集中しました。12日(水)の米CPIとFOMC(米連邦公開市場委員会)、そして14日(金)の日銀金融政策決定会合です。
米CPIは前月比で市場予想(+0.1%)を下回る0.0%でした。下2桁まで見ると+0.01%です。コアCPIは市場予想(+0.3%)に対し+0.2%でしたが、下2桁でみると+0.16%とかなり低い数字となりました。航空運賃と自動車保険の価格下落が維持不可能なペースであり、ヘッドラインほど弱い数字ではありませんが、2021年8月以来の低水準であり、インパクトがありました。
しかし、弱いCPIの結果にも関わらず、FOMCは非常にタカ派的な内容でした。ドット・チャート(ドット・プロット)が前回の2024年3回利下げから1回利下げへと上方シフト、そして2024年末のPCE(個人消費支出)インフレーションの予測が前回2.4%から2.6%へ、PCEコアインフレーションの予測も前回2.6%から2.8%へと引き上げられました。
(出所:FRB)
会見では、ベテランの記者(質問者)から「インフレ予測が上昇しているのに、なぜ年内の利下げを考えているのか?」と詰められる場面もありました。
パウエル議長自身はハト派方向にFOMCを持って行きたい意向がにじみ出ていましたが、CPIの低下を見ても、多くのFOMC関係者はブレることなくタカ派姿勢を維持したように見えます。
パウエル議長自身はハト派方向にFOMCを持っていきたい意向がにじみ出ていたのだが… (C)Bloomberg/Getty Images News
雇用関連の数字は、相変わらず雇用増は堅調なペースに見えますが、JOLTS(求人件数)が低下し、失業率が4%台に乗せたように、軟調な部分も出てきています。しかし、インフレ率を2%に抑え込むことはまだ難しそうです。
全米不動産協会が21日(金)に発表した中古住宅価格の中央値は41万9300ドルと過去最高となりました。金利上昇の結果、住宅を買い替えると組み直すローン金利が上昇するので、中古物件の売り物が少なく、それが価格上昇につながるという皮肉な結果になっています。住宅価格が下がらないのであれば、それはいずれCPIに反映されることになります。
今後も、強弱入り乱れる米経済指標が発表されるでしょうが、インフレ率が2%へと低下するにはまだまだ道のりがあるように見えます。高金利を維持せざるを得ない状況が続くのでしょう。
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「事前リーク」報道はあったのに、なぜ日銀は日和ったのか?
ところで、農林中金は保有する外国債券10兆円以上を売却、損失確定することを決定しました。
3月末時点で含み損が2兆2000億円(現時点の米長期金利は3月末時点より若干高いので、含み損はもう少し膨らんでいると思われます)あり、それを損切りし1兆2000億円の資本増強を進めるとのことですが、なかなかの決断です。おそらく、この決断の背景には、米金利が今後も高止まりするとの判断があるのでしょう。
さて、問題は日銀です。
日銀金融政策決定会合前に、国債購入減額を決定するとの「事前リーク」的報道が、時事、日経、産経、ロイター等、さまざまなメディアでなされました。市場はおそらく現状の月6兆円購入から5兆円程度への減額を織り込んでいたものと思われます。
しかし、国債購入減額は決定されたものの、詳細については7月会合で決めるというあいまいなものでした。当然、失望から米ドル/円は157.30円前後から158.25円前後へと急激に円安が進みました。
(出所:Tradingiview)
なぜ先延ばしたのか。1兆円程度の減額をどうして決めることができなかったのか? 債券市場関係者との会合を開催するとのことですが、決定延期の言い訳にしか聞こえません。
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国債の利払い増加で格下げ、それがさらなる円安を呼び込む事態もあるか
最近の、日銀を取り巻く動きを振り返ってみたいと思います。
4月26日に行われた日銀金融政策決定会合において、植田総裁は「円安による基調的物価への影響は無視できる範囲」と発言したことで炎上し、その影響で160円を超える円安となり、財務省は為替介入に踏み切らざるを得ませんでした。
【※関連記事はこちら!】
⇒日本円はいつ通貨危機になってもおかしくない水準にある!なぜ財務省は「1米ドル=160円」まで為替介入をしなかったのか?そして、FOMC後に行われた2回目の介入はあまりにも非常識だった…(5月15日、志摩力男)
こうしたこともあり、5月7日には岸田首相と植田総裁との会談が行われましたが「円安について日本銀行の政策上十分注視していくことを確認した」と総裁は発言しました。
【※関連記事はこちら!】
⇒6月日銀会合に向けて米ドル/円で円高方向に仕掛けが入っても驚かない!岸田首相が植田総裁を呼んだのは叱責ではなかった?日銀が電撃的に利上げする可能性が低くない理由とは?…(5月31日、志摩力男)
5月13日、日銀は国債買い入れオペ「5年超10年以下」の部分に関して4250億円と前回(4月24日)より500億円減額しました。
こうした結果から、日銀は本格的に国債買い入れを減額するとの思惑から長期金利上昇、5月22日には1%を超え、5月30日には1.1%近辺まで上昇しました。
為替に十分注視していくなら、日銀の政策は当然引き締め方向となります。JGB(日本国債)金利が1%を超えて行くのも自然に思われます。そして、6月の日銀政策決定会合ではさらなる本格的な減額プランが示されるものと期待されていました。
ところが突然、植田日銀は日和りました。
なぜ、具体的な決定を延期したのか。
10年金利が1%を超えたことで、国債急落への懸念が高まったこと、そして日本経済に今ひとつ自信が持てなかったからでしょう。
国債急落への懸念ですが、国債購入減額を急激に進めると、国債価格が急落しかねないことが懸念されています。円安は阻止したいのですが、金利上昇は利払い増から財政を圧迫します。
もしかすると1%を超える金利上昇を見て、財務省もしくは自民党筋から横槍が入ったのかもしれません。
もっとやっかいなことは、日本の国債利払いが増大すると、そのことが日本の財政継続性への疑念が生じ、格付け会社が格下げする可能性が現実問題としてあります。日本は現在シングルA格となっていますが、BBB(トリプルB)に格下げされると、海外勢のJGB売りを呼び、それがさらなる円安を呼ぶかもしれません。
(※筆者提供)
上記の図は極端なケースを想定していますが、結局小手先の対策をしても、日本は円安と金利上昇の同時進行は、いずれ免れなくなるのかもしれません。
円安の根本原因は、少子高齢化からくる日本の成長鈍化です。それを金融緩和で埋め合わせしようにも限界があります。岸田首相がいきなり、プライマリーバランスの正常化を唱え始めていますが、財政規律を良くし、さらなる円安進行は絶対に阻止したい模様ですが、どうなるでしょうか。
(出所:TradingiView)
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