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志摩力男の「マーケットの常識を疑え!」

なぜ、米ドル/円と日米金利差は連動性を失ってしまった
のか?米国は日本の為替介入を不快に思っている!米国
経済減速の兆候が見られれば、対円以外で米ドル安が進む
可能性あり

2024年07月10日(水)06:57公開 (2024年07月10日(水)06:57更新)
志摩力男

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米ドル/円と日米金利差の乖離が起きている

「謎の円安」というレポートをゴールドマン・サックスが出しています。

 これまで米ドル/円相場を説明するのに、日米金利差こそがもっとも適切な要因でしたが、本邦通貨当局が為替介入を行った5月初め頃から関係性が乖離しています。日米金利差が縮小しているにも関わらず、円安が進み、その理由が特に見つからないので「謎」なのでしょう。

日米10年金利差&米ドル/円相場 週足(青ライン=日米金利差)
日米10年金利差&米ドル/円相場

(※筆者提供・TradingView

 「謎」とはいえ、いくつか考えられる理由を指摘しています。日本の機関投資家が為替ヘッジを縮小している(米ドル/円の買いになります)、もしくはYCC(イールドカーブ・コントロール)終了で円の金利感応度がレジームシフトしたという珍説まで紹介しています。

 私が考える、円が日米金利差との連動性を失ったもっとも大きな理由は、イエレン財務長官による為替介入牽制発言だと思います。

 為替介入直前の4月25日に最初の発言がありますが、為替市場への介入は「まれ」な状況でのみ容認されること、そして介入は事前に相手国と協議されるべきと発言がありました。そしてその牽制発言は驚くことに、その後4回も繰り返されました。
【※関連記事はこちら!】
日本円はいつ通貨危機になってもおかしくない水準にある!なぜ財務省は「1米ドル=160円」まで為替介入をしなかったのか?そして、FOMC後に行われた2回目の介入はあまりにも非常識だった…(5月15日、志摩力男)

 通常、為替介入が行われる際、こうした為替介入の効果を失わせるような発言は控えてもらうよう事前に協議があるはずです。

 2022年の為替介入の際は、米国は日本の為替介入の効果を減じるような発言はありませんでした。それが今回、あからさまに発言があったのは、やはり日本の介入に対して不快に思っているからでしょう。

 その後、米為替報告書において日本は「モニタリングリスト」に入れられました。これは機械的な基準で決められるものとはいえ、前回まで日本はこのモニタリングポストに入ってはいませんでした。過大な為替介入があれば、為替操作国として認定される可能性がでてきました。

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神田財務官の退任による円安への影響はあったのか?

 一部には、7月末に神田財務官の退任が決まったことが円安の材料と見る意見もあります。いかに神田さんの存在感が大きかったとはいえ、為替介入は財務省の総意として決めたことであり、1人の財務官の交代で大きく変化するようなものではないでしょう。

 それでも、過去の為替介入を見ると、財務官、もしくは現場担当者の個性が色濃く反映されるものであったことも確かです。その意味では、三村新財務官のお手並みを拝見といったところでしょうか。

 神田財務官は退任前に、多くのエコノミストを集めて、国際収支の現状と、このまま行くと大幅な円安が続くとして、国際収支問題を考える懇談会を開催していました。

「このままなら相当まずい」 “宇宙人”財務官を突き動かした危機感

(出所:毎日新聞

「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」懇談会 報告書

(出所:財務省

 この懇談会の結論は、従来から認識されている議論ばかりであり、新しい発見は特にありませんが、原発の再稼働や日本の国債格下げリスク(前回の当コラムで指摘させて頂きました)に言及されていたのは、流石だなと思いました。
【※関連記事はこちら!】
日銀の「事前リーク」報道があっても、結局日和って米ドル/円上昇!円安の根本原因とは何なのか?日本の国債利払い増加がさらなる円安を呼び込む?(6月24日、志摩力男)

トルコリラは日本円の未来を暗示しているように見える

 日米金利差縮小にも関わらず円安が続いていますが、それでも為替相場にもっとも影響を及ぼすのは、「金利差」です。トルコリラも、中央銀行が積極的に金利を引き上げた結果、ついにトルコリラ安が止まりました(トルコリラに関して、ザイFX!編集部によるインタビュー記事が掲載されています、ご参照下さい。
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FXで「トルコリラ/円」の見通しを背景にした取引戦略!価格が20%下落してもトータルの収益はプラスに?取引するならスワップポイントが高いFX口座がおすすめ

トルコリラは、円の未来を暗示しているようにも見えます。大幅な通貨調整がありましたが、金利を引き上げることで通貨安は止まりました。どんな通貨安も金利を上げれば止まります。

トルコリラ/円 月足
トルコリラ/円 月足

(出所:TradingView

 裏を返せば、いまだにゼロ金利政策を採りながら通貨安で悩んでいるのは、欧米から見ると滑稽でしょう。

 どの程度かはともかく、金利を上げれば通貨安は止まります。そこを為替介入のような暴力的手段に訴えるからイエレンさんも不快に感じるのです。

 国内経済が弱い状況で金利を上げることがなかなかできないというのは理解できますが、内需の弱さはインフレに負けているからであり、利上げでインフレが鎮静化すれば、内需は回復します。

 その意味では、7月31日(水)に行われる日銀金融政策決定会合が注目されます。(1)どの程度大きな国債購入減額プランが決まるのか、そして(2)同時に金利引き上げも決定されるのか、その辺りが注目です。

 そして、米国の金融政策がどうなるのか。米国経済は非常に強い状況が続きましたが、7月5日(金)に発表された米5月雇用統計において、失業率はついに4.1%に達しました。

 NFP(非農業部門雇用者数)については、20.6万人と堅調でしたが、4月と5月の雇用増が合計11万人ほど下方修正されました。見た目ほど景気は強くない、そういった雰囲気が出ています。

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米国経済減速の兆候があれば対円以外で米ドル安が進む可能性

 今週(7月8日~)は、パウエルFRB議長による議会証言が7月9日(火)、10日(水)と2回あります。そして7月11日(木)には米CPI(消費者物価指数)の発表もあります。

 米国経済に減速の兆候があるならば、それがきっかけで対円以外の通貨での米ドル安が進む可能性があります。

 ユーロ/米ドルや英ポンド/米ドル、豪ドル/米ドルが強くなっているので、戦いの主戦場が米ドル/円からクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)にシフトする可能性を感じます。

 特に多くの方も買いを推奨する豪ドルですが、中国経済不振を受け、軟調な展開が続いていましたが、インフレ率をしっかり抑え込むことができておらず、数カ月後の利上げを市場は織り込み始めています。

 豪ドル/米ドルは長い間のもみ合いを上抜けようとしています。

豪ドル/米ドル 週足
豪ドル/米ドル 週足

(※筆者提供・TradingView

 豪ドル/円は長期チャートがボトムを作っているように見えます。

豪ドル/円 月足
豪ドル/円 月足

(※筆者提供・TradingView


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