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陳満咲杜の「マーケットをズバリ裏読み」

米ドル/円だけでなく、主要なクロス円でも円全面高に。
円の逆襲が始まったと見るが、まだリスクオフの円高の
兆しが見えただけ。円のさらなる切り返しはこれから!

2024年07月12日(金)19:44公開 (2024年07月12日(金)19:44更新)
陳満咲杜

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米ドル/円に加えてクロス円も連動し、米CPI発表後に円全面高へ。
だが今の市況は円高でもなければ、リスクオフでもない

 円の逆襲が始まった。昨日、米CPI(消費者物価指数)がリリースされた後、円は全面高となり、目立つパフォーマンスを見せた。要するに、米ドル/円のみではなく、主要クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)でも連動した値動きだったので、円の値動きが本物であった可能性は高い

世界の通貨VS円 4時間足
世界の通貨VS円 4時間足チャート

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 4時間足

 米CPIが発表された後、エヌビディアをはじめ米大型ハイテク株の調整幅(反落)は拡大した。CPIの数字自体、本来、米早期利下げを示唆する内容で、米株の一段高をもたらしてもおかしくなかったが、すでに歴史的な「買われすぎ」のレベルまで買われてきた分、今回は一転して利益確定の好機と捉えられた模様だ。

 株の話をしたらキリがないので、ここでは割愛するが、言いたいのは、今の市況は厳密に言うと、円高でもなければ、リスクオフでもない。市場が少し揺れると、一部マスコミがすぐ「リスクオフの円高」との見出しで大騒ぎするが、少なくとも目下の時点では勘違いである。

 言ってみれば、円は歴史的な「売られすぎ」の状況だったので、米金利低下を機に円が少し買戻されただけ、そして米大型ハイテク株は歴史的な「買われすぎ」の状況なので、事前に織り込まれてきた米早期利上げの観測が高まるにつれ、ロング筋の利益確定が発生しやすく、またその初動が見られただけで、本格的な「リスクオフ」には程遠い。

猫も杓子も「円売り」や「米ハイテク株買い」で儲かってきたため、円の逆襲はまだ始まったばかりである

 もっとも、取引と言えば、円売りや米ハイテク株買いが2024年年初来の「鉄板」で、猫も杓子も儲かってきた経緯がある。円を売りさえすれば、またエヌビディアを買いさえすれば、「永遠に」儲かると錯覚するほど、トレンドが過激で強かった。目先、円が少し買われて、エヌビディアが少し売られたところだ。大騒ぎする必要はなかろう。

 一方、これからどうなるかと聞かれると、猫も杓子も円を売り、また大儲けしたから、円の逆襲はまだ始まったばかりで、円ショート筋の踏み上げは、むしろこれからだと思う。円のショートポジションの買い戻しが続くなら、どこかの時点で「リスクオフ」の局面となり、さらなる円の切り返しを招く、と予測できるから、気を付けてほしい。換言すれば、大相場はこれからだ。

世界の通貨VS円 日足
世界の通貨VS円 日足チャート

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 巷では170円どころか、180~200円といった円安目標が提示され、円安論者が大人気を博している。それに対して、筆者は繰り返し反対の意見を述べてきたので、今さら強調しなくてもよいが、米ドル/円161~162円程度の円安進行がすでに円売りの「限界の限界」だったから、基本的には円安のピークはもう過ぎたと判定できる。

 根拠も繰り返し指摘してきたので詳しい説明は省くが、「日米金利差との乖離を無視した投機的な円売りであった」こと、そして「猫も杓子も円を売っていたので、新規参入者が続かないと円の一段安が容易ではない」こと、この2点だけ再度記しておきたい。

【※関連記事はこちら!】
米ドル/円が170円へ上昇するのは難しく、円安はそろそろ終わる! 異常を正常と扱う市場の見方が異常!V底なしの円全面安状態で露呈する不都合な真実とは?(2024年7月5日、陳満咲杜)

米CPIリリース後、米ドル/円の下落幅が3円程度にすぎなかった。
マーケット参加者の推測が飛び交うが、介入ではないと思う

 さらに重要なのは、執筆中の現時点で、昨晩(7月11日)、あるいは今朝(7月12日)の為替介入の有無に関してマーケット参加者の推測が飛び交っているが、筆者は介入していないと思う点だ。介入していないなら今回の値動きは本物ということになり、一層トレンドの逆転が展開されやすいかとも思う。

 介入していたなら話が違ってくるかもしれない。なぜなら、介入なしで円の買い戻しがあれば、これこそマーケットの自律調整となり、相場の内部構造(サイクル)に沿った値動きと理解されるからだ。5月初頭のように、介入があって円が一時反発したからこそ、投機筋の意欲が一層刺激され、円売りを仕掛けてくるような市況が再演されにくいと思われる。

 もちろん、介入があったとしても、円売り筋が再度仕掛けてこない可能性もある。なにしろ、前述のように、猫も杓子も円を売っていたので、新規組がなかなか参入してこない上、既存組の余裕や精力がこれ以上残っていない、という状況が推測される。

 米CPIがリリースされた後、米ドル/円の下落幅が3円程度にすぎなかったから、介入ではないと思われる。一般論では、介入があった場合、介入後の値動きに約5円の値幅がないと、非常に小さい金額に留まった可能性がある。

米ドル/円 1時間足
米ドル/円 1時間足チャート

(出所:TradingView) 

 しかし、米CPI発表直後の介入として、米ドル全面安のタイミングに便乗しないと意味がないから、実施するならむしろ「普通」の介入ではなく、インパクトがある金額で行われるはずだ。この意味では、介入がなかった説に一票を入れたい。

今まで投機的な円売りが圧倒的だったが、
米CPI発表以降、やっと円は「普通の通貨」に戻ってきた

 米CPIショック云々の話もあったが、それについても筆者は否定的な見方をとる。

 米早期利下げ観測が高まる中、米ドル全面安自体はむしろ当然の成り行き、円のみではなく、ユーロや英ポンド、豪ドルなど主要外貨対円の上昇幅も正常な範囲内に留まったから、ショックと言えるほどの変動率ではなかった。

 反面、注意しておきたいのが主要クロス円の動向だ。ユーロ/円から、豪ドル/円に至るまで、主要クロス円が軒並み歴史的な「買われすぎ」の状況にあったから、昨晩(7月11日)は外貨安・円高の変動パターンが見られた。諸外貨対米ドルの上昇が見られたにもかかわらず、だ。

世界の通貨VS円 1時間足(上)・米ドルVS世界の通貨 1時間足(下)
世界の通貨VS円 1時間足チャート(上)・米ドルVS世界の通貨 1時間足チャート(下)

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(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 1時間足

 それはほかならぬ、円がやっと「普通の通貨」に戻ってきた証拠だ。

 換言すれば、今まで投機的な円売りが圧倒的で、また米ドル全体の状況と乖離する形で円の売られすぎがあったからこそ、ユーロ/円の176円の節目寸前、英ポンド/円の209円の節目寸前や、豪ドル/円の109円台後半の打診につながったわけだ。

 円の独歩安という言葉があったように、米ドル全体のパフォーマンスとかけ離れた形で円が売られてきたが、昨晩(7月11日)からやっと連動する形で円が反発したから、主要クロス円における頭打ちがすでに図られた公算が高い。

「蚊帳の外」だった円はこれから米ドル全面安の一環として買われ、
一層反発してくる可能性が高い

 となると、「蚊帳の外」に置かれてきた円はこれからパフォーマンスを発揮するだろう。米ドル全面安の一環として買われ、また後ずれになった分、一層反発してくる可能性が高い

世界の通貨VS円 日足
世界の通貨VS円 日足チャート

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 このような市況が見られた場合は、新聞の紙面にまた「円高の株安」といったタイトルの記事が躍るだろう。本当は円高ではなく、単なる円の買戻しにもかかわらず、マーケットがややパニック気味になっていくことも容易に推測される。

 その時は、今巷で流行っている円安ダメダメといった論調が一転、円高のデメリットを強調するようになるだろう。その時に初めて「リスクオフの円高」と言えるから、今は兆しが露呈したばかりの時期だと思う。市況はいかに。

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