米ドル/円の買い戻しが続き、円キャリートレードの再来などと言われているが、それは難しいだろう
米ドル/円の買い戻しが続いている。米緊急利下げとか、50bps利下げとか大袈裟な予想が後退し、9月開始でも25bpsの「普通」の利下げが市場のコンセンサスとなり、昨日(8月15日)リリースされた米7月小売売上高も想定より強く、米ドルの買い戻しが一段と強まった模様だ。
(出所:TradingView)
しかし、米ドルの買い戻しは、米ドル/円はもちろん、米ドル全体(ドルインデックス)から見てもあくまでスピード調整の範疇であり、米ドル高基調へ復帰することはなかろう。株式市場の大反発と相まって、円キャリートレードの再来云々とまた大袈裟に言われているが、難しいかと思う。
株にしても、為替(円相場)にしても、先週月曜(8月5日)ザラ場安値(円の高値)までの大波乱自体がそもそもクレージーであった。当日の日経平均は史上最大の下落幅を記録し、メガバンクの三井住友銀行さえストップ安まで売られた。行きすぎた急落(円の急伸)は修正される宿命にあり、日経平均が本日(8月16日)3万8000円の大台に乗せ、米ドル/円は149円台前半までいったん戻ったのも、むしろ自然な成り行きだとみる。
(出所:TradingView)
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換言すれば、株の急落、また円の急騰自体が一時行きすぎだったから、それに対する反動が見られただけの話で、大袈裟に解釈すべきではなく、また必要以上に正当化してはいけない。これぐらいの値動きで騒ぐ者がいたら、素人だと言わざるを得ない上、相場から「振り落とされやすい」者だと思う。
ドルインデックスは、ここからの戻りがあっても限定的。三尊天井がすでに下放れしており、さらに下値余地は拡大するはず
為替市場の話に限定し、まずドルインデックスの状況を見てみよう。昨日(8月15日)切り返しを果たしたものの、メインレジスタンスゾーン(矢印)を突破できるかどうかは未知である上、2024年年初来安値に接近していただけに、ここからの戻りがあっても限定的だと思われる。
(出所:TradingView)
さらに、4月高値を「ヘッド」として、日足では「三尊天井」に近いフォーメーションが形成されている。すでに大きく下放れしただけに、ここからなお下値余地を拡大するはずだ。
米ドル/円は元メインサポートラインに戻ったばかり。ユーロ/円、英ポンド/円は200日線前後に位置
肝心の米ドル/円は、149円台の打診があったとはいえ、2023年年初安値から引かれた元メインサポートラインに戻ったばかりで、ほぼ教科書どおりの展開(元サポートラインがこれからレジスタンスラインと化していく場合は、いったん戻る)なので、円安に戻ったとか、円キャリートレードの再開とかを言うのが、いかに性急かはおわかりいただけるだろう。
(出所:TradingView)
まして、200日線は現在151円台半ばに位置し、回復し切れない場合は戻り売りの急所となる可能性もあるから、円売り再開という判断は適切ではなかろう。
もちろん短期スパンに限って言えば、そもそも前述のように米ドル/円をはじめ、主要クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)のほとんどの先週月曜(8月5日)安値までの急落が行きすぎだったから、戻りに乗ったトレードは有効であった。
しかし、どうちかと言うと、先週(8月5日~)にて仕掛けて今は利益確定すべき時なので、今さらに円売りを仕掛けていくのは「鈍い」トレーダーさんの仕業だと思う。株式市場における短期トレードも同じだと思う。
主要クロス円では、執筆中の現時点で、ユーロ/円も英ポンド/円も200日線前後に位置し、豪ドル/円は大暴落してきた分、同線までまだ戻って来ていない。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
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ここから一段と切り返しを継続してもおかしくないが、米ドル/円の強気基調への回復なしでは、主要クロス円も元通りにはならない、という確率のほうが高いのではないだろうか。
米ドル/円のこれからの値動きの鍵を握るのは、当然、円キャリートレード再開の有無だが、筆者は大規模な再開はない、あるいは再開があっても続かないのではないかと思う。
個別のトレードはともかく、大規模な円キャリートレードの発生は、やはり維持される日米金利差の存在が前提条件とされる。
実際には、日米金利差自体の数値よりも、日米金利差の変動傾向がより重要だ。米利下げ周期入り自体は確実なので、これから日米金利差が縮小する傾向自体もはっきりしているから、大規模な円キャリートレードは再構築されにくいと思われる。
次に、CFTC(米商品先物取引委員会)の統計を見る限り、一時史上最大規模に迫るまでに積み上げられた円売りポジションは、ほぼすべてが解消されたようで、日米金利差が拡大ではなく、縮小傾向の市況において、再度、大規模に積み上げられるとは考えにくい。
国際的な投機筋の仕掛けなしでは、円売りトレードが日米金利差から大幅に乖離するような市況も再演されにくいから、円安トレンドへ復帰する予想自体、現実的ではないと思う。
米ドル/円、主要クロス円は限定的だが、いったん反発の余地あり。ミセス・ワタナベの動向で頭打ちがわかる?
半面、米ドル/円も含め、主要クロス円がたちまち円高の方向へ復帰してくるとも思っていない。保ち合いの先行、場合によっては上値余地は限定的であるものの、さらに戻りの余地を拡大してもおかしくない。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 日足)
そのわけは、日本の個人投資家の行動パターンに垣間見ることができる。
ブルームバーグの記事によると、ミセス・ワタナベさん(日本の個人投資家)の総計として、記録的な円買いのポジションを積み上げてきているようだ。一般的に逆張りとされるミセス・ワタナベさんの行動パターンが、ここへ来て変わった気配があり、また日足の基調と言えば、米ドル/円も主要クロス円も、円買いならむしろ順張りと言えるが、目先の市況に限って言えば、また逆張りしているように見えるから、円高局面も後ずれになる可能性が大きい。
逆に言えば、ミセス・ワタナベさんが再度、円売りを仕掛けてくれば、今度は一転して米ドル/円とクロス円の頭打ちが認定できるかもしれない。
このような書き方は嫌われるのを承知しているが、今まで機能してきた現象なので、どうしても気になるというか、複雑な市況を判断する上で、有効な物差しとして捨てきれない。
理屈として、やはり相場における大衆の心理が参考になるからだ。大衆は常に間違ってしまうとは限らないが、往々にして感情的な判断になりやすいから、市況を測る上で、参考になるケースが多い。先週月曜(8月5日)までの株の急落や円の急騰があまりにも激しかったから、その「後遺症」がしばらく残るものだと考えられる。
ちなみに、一般論として、個人投資家の多くはスワップ金利を支払うまで円買いのポジションを持ち続けないから、昨晩(8月15日)米ドル/円やクロス円の一段反発自体が円買いポジションの損切りの結果でもあって、足元まですでに大きく削られた可能性もある。
そうなると、米ドル/円や主要クロス円における反発余地は、想定よりさらに限定されるかもしれない。市況はいかに。
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