米ドル/円は141.68円まで一直線に下落。円高トレンドもしばらく続くことを覚悟
先週(2024年8月2日)のコラムで、米ドル/円や主要クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)における「戻り待ちに戻りなし」のリスクを指摘したが、市況の進行は筆者の想定よりはるかに速かった。
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円は月曜(8月5日)の株式市場のブラックマンデーとともに急騰し、まったくと言っていいほど途中のスピード調整はなかった。
(出所:TradingView)
つい最近(7月上旬)まで、市場参加者の多くは円の「底なし」を心配し、あるいは煽っていたが、今回は一転して円の「天井知らず」に恐怖感を思え、パニックの状況にあったと推測される。
なにしろ、8月5日(月)日経平均はなんと4451円も暴落(12%安)し、1987年のブラックマンデーを超える値幅をもって史上最大の下落幅を記録していた。
同日米ドル/円は141.68円まで一直線に下落し、ユーロ/円は154.40円、英ポンド/円は180.09円、豪ドル/円は90.15円まで一時急落したが、事後にみれば「納得」できるほど「違和感」がなかった。
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つまるところ、市場参加者の大半が恐怖感を覚えなければパニック相場とは言えないから、円の大暴騰はリスクオフの一環としてわかりやすかったと言える。
円キャリートレードの崩壊に続き、日銀の利上げがあったから日本の株式相場が崩れた、といった事後的な解釈が多い。
そのような解釈自体の正誤はともかく、いったん壊れた相場は、元に戻るまで時間がかかり、また紆余曲折がある可能性が大きい。歴史を学べばこのように悟れるから、円高トレンドもしばらく続くことを覚悟したい。
目下の切り返しは大暴落の後によくみられる一時の「買い戻し」にすぎず、本格的な円高にはほど遠い
一方、新ブラックマンデー(8月5日)があったからこそ、パニック相場が一服、あるいはクライマックスが過ぎたと言えるのではないだろうか。
史上最大の下落を演じる相場は、そもそも度々見られるものではないから、それに伴う円の急騰も目先一服し、すぐには円の続伸がないこともわかりやすいかと思う。
さらに、翌日(6日)の日経平均は一転して史上最大の上昇幅を記録、リスクオフの緩和がみられ、執筆中の現時点まで大幅に切り返しの様相を呈している。
(出所:TradingView)
連動したように、米ドル/円、主要クロス円も切り返しの先行が見られており、すぐに下値が切り下がるような展開を回避したと言える。
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逆に言えば、目下の値動きを過大評価すべきではなかろう。切り返しの先行があっても、あくまで大暴落の後によく見られる一時の「買い戻し」で、本格的な円買いにはほど遠い、ということだけは覚えておきたい。
円は歴史的に売られすぎの段階にあり、7月上旬までの円安は円売りバブルだった
株式市場における史上最大の下落があったにもかかわらず、円は本格的に買われていない。この見方が正しければ、2つの視点がより証明される。
1つは7月上旬まで、「円は歴史的な売られすぎの段階にあった」という視点だ。未曾有とは言い切れないものの、過去の歴史から見ても、稀なオーバーショートだったから、円キャリートレードの大崩壊や円の大暴騰があっても、本格的な円高とは言い切れないわけだ。
もう1つは、いろいろ言われたが、結局、「7月上旬までの円安は円売りバブルだった」という視点だ。円売りバブルを演出したのも投機筋だったから、ファンダメンタルズをもってあれこれ解釈し、過度な円安を正当化したロジックの大半が間違いだった。単純に「投機筋が主導した円売りの行きすぎ、そしてその是正による市況の急転」という見方のほうが、よりシンプルで本質をついていると言える。
ゆえに、目下の市況も大袈裟に解釈すべきではなかろう。日経平均が戻ってきているが、8月5日(月)に急落した分をやっと取り戻したぐらいで、まだまだ安心できない状況だ。
米ドル/円やクロス円における市況も同じで、円の急騰が一服したところであり、円高が終焉したと判断するのは性急のほかあるまい。
これからの円高は必ずしも株式市場のパフォーマンスに連動しない!狼狽決済ではなく、米ドル売りが主導するトレンドの形成を有力視
そうなると、米ドル/円も主要クロス円も、8月5日(月)安値までほぼ一直線に急落した分、足元までの切り返しは途中の速度調整と見なされやすく、切り返し自体の値幅はともかく、切り返しの終焉があれば、また元のトレンド、すなわち円高トレンドに復帰し、今度こそ円高と言える変動レンジの形成に動くだろう、と推測できる。
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今までリスクオフの一環として売られすぎていた円が買い戻され、株式市場のクラッシュとともに円売り筋の大半が一掃された、といった認識が正しければ、これからの円高は必ずしも株式市場のパフォーマンスに連動しないことを悟るべきだろう。
このような変化が現実となる場合、為替市場における大きな基調の転換が確認できると思う。
換言すれば、今までは円売りバブルの崩壊があっても、米ドル全体(ドルインデックス)の弱さが起因したものではなかった。しかし、これから本格的な円高の変動レンジへシフトしていくなら、円売りポジションの狼狽決済ではなく、米ドル売りが主導するトレンドの形成が有力視される。要するに、米ドル全面安という大きな流れが控えている。
もちろん、米ドル全面安は米金利低下と連動し、また米ドル全面安があれば、円のみではなく、ユーロなど主要外貨の上昇もみられるはずだ。
この意味では、主要クロス円における暴落は、米ドル全体(ドルインデックス)がなお堅調のうち演じられた市況だったことを悟るべきだった。
なぜなら、米ドルの本格的な下落があれば、ユーロなどの外貨は各自のファンダメンタルズを問わず、受け皿として買われるから、クロス円において円と互角となり、8月5日(月)に安値を演じたような「自由落下」的な市況が再演されにくいとみる。
米ドル/円とクロス円におけるパフォーマンスは、7月中旬以来かなり連動性が高かったが、これから連動性は低下していくだろう。そのわけは前述のとおりなので、米ドル全体の下値志向をより注意しておく必要がある。市況はいかに。
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