10月からの相場で、トランプ氏の当選や政策実行の予想はかなり織
り込み済み。トランプ氏の政策が、米ドル高につながるとは限らない
米大統領選におけるトランプ氏の当選、FOMC(米連邦公開市場委員会)による2会合連続の利下げと、大きなイベントを通過したところで、為替市場はやっと落ちついてきたようにみえる。
それにしても、米ドルは高い、米長期金利(米10年債利回り)は高い、また、このまま米ドルが上昇していくのでは、といった懸念が多いようだ。何しろ、トランプ氏が来年(2025年)、正式に米大統領に就任するから、トランプ氏の政策が実施されれば、米長期金利が一段と上昇していくのでは、といった認識が市場のコンセンサスになった模様だ。
実際、このような予測がトレードに反映されたのが「トランプトレード」であり、10月に入ってからの相場のトレンドを支配し、目下に至っている。換言すれば、トランプ氏の当選や政策実行の予想は、目先のレートにだいぶ織り込まれている。来年の情勢次第で市況は流動的になるかもしれないが、トランプ氏の政策が必ずしも米ドル高につながるとは限らないことを、まずは記しておきたい。
(出所:TradingView)
トランプ氏は今回の米大統領選で圧勝、上院と下院の両方で共和党が過半数の議席を獲得する可能性も高まっていることから、来年の政策実行自体に大きな懸念はないと思われる。だからこそ、トランプ氏の主張する政策が可決されやすく、かえって米ドルの信頼性を損なう恐れが大きいとも思う。
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トランプ氏の政策は米国のインフレ高騰と景気悪化の原因に!?
悪い金利の上昇で、米ドルは売られる羽目になりやすい!
なにしろ、対中関税の全面的な引き上げに加え、メキシコや日本などの同盟国への課税強化などをメインとするトランプ氏の政策が、米国のインフレ高騰をもたらす一方、米国の景気を悪化させるに違いない。米経済成長のほとんどが内需頼りで、そして、その肝心の内需は中国やメキシコ頼りというのが事実なので、トランプ氏が政策を強行するなら、米長期金利の上昇に絶えられず、米景気後退や米国株の急落といったダブルパンチに見舞われる可能性は極めて高い。
いわゆる「悪い金利上昇」で、米ドルは買われるのではなく、むしろ売られる羽目になりやすいから、米ドル高一辺倒の発想自体が危ないと言える。
もっとも、トランプ氏とはいえ政治家である以上、公約どおりの政策を推進していくとは限らない。選挙時の公約は口約束に過ぎないが、大統領就任後の政策実行はいろいろな制約を受け、また、いろいろな要素が絡んでくるから、口で言うほど容易く実行されるものではない。この点でも、現時点の市場関係者の懸念は行きすぎであった可能性が高く、「トランプトレード」も行きすぎている、というリスクがある。
米ドルは安心して買えない状況に。トランプ氏は米ドル高に
嫌悪感、米ドル安の政策を推進していく可能性も
さらに、トランプ氏はFRB(米連邦準備制度理事会)の独立性にも文句を言い出しており、中央銀行の政策に介入できるよう、法改正を行う可能性までほのめかしている。このようなことがあれば、FRBの信頼が大きく棄損され、米ドルそのものの信頼も損なわれるから、猛烈な米ドル売りを呼ぶことは想像に難くない。
もちろん、トランプ氏が言うだけで、実際にはこのような「禁じ手」は使わないと思われるが、トランプ氏の人柄が異色なので、まったくあり得ないとも言い切れない。マーケット関係者らは常に警戒心を持つことを強いられ、米ドルを安心して買えない恐れが大きいと言える。
トランプ氏の異色な人柄を考えれば、中央銀行の政策に介入できるように法改正を行う「禁じ手」を使う可能性も、まったくないとは言い切れず、安心して米ドルを買えない恐れが大きい (C)Mark Wilson/Getty Images
そのうえ、減税を中心としたトランプ氏の財政政策も、ほぼ確実に米国の財政赤字を膨らませる。米ドル高を嫌う趣旨の発言をしばしば口にしてきたトランプ氏にとっては、米ドルの信頼が損なわれても構わないかもしれず、米ドル安を米国優先の政策の一環として、自ら推進していく可能性さえ高い。
ゆえに、目先の「トランプトレード」の盛況で米ドルが「天井知らず」と思い込み、米ドルの高値をガンガンと追っていけば、どこかで大きな代償を支払うことになるだろう。
(出所:TradingView)
皮肉にも、トランプ氏の当選が確定したからこそ、「トランプトレード」がもたらした米ドル高の終焉が暗示され、むしろ米ドル高の限界を認識せざるを得ない段階に来ていると思う。
米長期金利の4.258%に注目! 米ドル/円は151.27円、ユーロ/米
ドルは1.0937ドルをブレイクしない限り、安易なトレードは禁物
その一方、目先の米ドルはなお強く、今すぐの逆張り、すなわち米ドル売りを仕掛けられないのも事実である。米長期金利が4%の大台を維持しているうちは、米ドル売りがうまくいかないことを悟るべきであろう。
4%は大まかな水準で、より詳細には米大統領選の投開票日だった11月6日の安値となる、4.258%が重要な基準となるだろう。この水準を下回るまでは、いくら米ドル安を見込んでも、米ドル売り自体が性急であることを自覚しておきたい。
(出所:TradingView)
この意味においては、主要通貨ペアにおける11月6日の高値・安値が重要であろう。米大統領選の開票日だっただけに、その高値・安値の打診やブレイクが、重要なサインとなってくるはずだ。
その基準で言うなら、米ドル/円は151.27円を下回らないうちは、ショート(売り)ポジションを建てるべきではない。
(出所:TradingView)
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そして同様に、ユーロ/米ドルが1.0937ドルを回復しないうちは、ユーロが底を打ったとは認定できないだろう。米ドル全体が目先は非常に強いため、相場より先走りした判断や、思い込みのトレードは避けるべきだと思う。
(出所:TradingView)
豪ドル/米ドルに興味深いサインが点灯。前日の下落を打ち消す
11月7日の大陽線は、これからの市況の参考になるか
反対に上述のとおり、米ドルの高値をガンガンと追っていく段階でもないから、明確なサインの点灯や、米ドルの頭打ちを示唆する兆しを見逃さないことも大事だ。主要通貨ペアの中では、豪ドル/米ドルが興味深いサインを点灯してくれているから、要注意だと思う。
それはほかならぬ、昨日(11月7日)の豪ドル/米ドルが大きく切り返し、一昨日(11月6日)の高値を更新したうえで大引けしたことである。米大統領選の開票日だった一昨日、豪ドル/米ドルは大陰線を形成、いったんは先週(10月28日~)の安値を割りこんでいたことに鑑み、昨日の切り返しと大陽線での大引けが、より重要なサインを示唆していると思う。
(出所:TradingView)
いわゆるプライスアクションの視点でこれからの市況を追っていく上では、昨日、豪ドル/米ドルに点灯したサインの参考価値は大きいと言える。検証はまた次回、市況はいかに。
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