「トランプトレード」の一環として、米ドル急騰はサプライズではないが、その値幅には違和感がある
米ドルは連騰し、天井知らずの様相を呈している。執筆中の現時点でドルインデックスはいったん107の節目を達成していたので、2024年年初来高値を更新し、2023年高値も射程圏内に収めたようにみえる。
(出所:TradingView)
いわゆる「トランプトレード」の一環として、為替市場において米ドルの急騰自体は大きなサプライズとは言えないかもしれないが、その値幅の大きさには違和感を覚える。
10月に入ってからトランプ氏の当選に賭けるトレードが急速に浮上し、マーケットを支配してきたため、米国債の暴落、すなわち米金利の急騰をもたらし、米ドル全体の急反発につながった。
しかし、ドルインデックスが9月末の100台半ばからほぼ一直線に2024年年初来高値を更新したことは、やはり「スピード違反」という感覚が大きい。
米長期金利(米10年物国債利回り)が急騰したのだから米ドル買いは当然の結果とはいえ、度合が違う。
執筆中の現時点では、米10年物国債利回りが一時4.488%まで上昇したが、2024年年初来高値を更新していない上、4月高値の4.739%までなお0.25%程度の距離がある。
(出所:TradingView)
となると、「トランプトレード」自体が行きすぎであるかどうは別として、米長期金利急騰をもって米ドル高を説明するには、その度合いを解釈しきれないかと思う。そして実際のところ、「トランプトレード」が行きすぎである可能性が大きいと疑われる。
根拠は国債先物市場における状況が挙げられる。米10年物国債のショートポジションは近年最大規模に膨らみ、すでに限界に差し掛かり、これ以上の積み上げはかなり困難、また危険であることがささやかれている。
ちなみに、世界金融市場の中心は米国債市場と言われており、「トランプトレード」の核心も米国債市場にあるに違いない。ゆえに、ドルインデックスの急騰が米長期金利よりも過激であることは逆に反転のリスクをはらんでいるようにみえる。
ドルインデックスの2024年年初来高値の更新を米ドル買い一辺倒の結果として受け入れても、長く続かないだろう。後を追う形で米長期金利が年初来高値を更新できれば、また話は違ってくるかもしれないが、現時点では米ドルの買われすぎが歴然とした事実であり、これ以上の高値追いを避けたいところだ。
米ドル/円の大幅続伸も異常とは言わないが、やはり行きすぎであることは間違いない
米ドル/円の大幅続伸や目先の156円の節目のいったんブレイク自体も、異常とは言わないものの、ドルインデックスと同様、やはり行きすぎであることは間違いない。
(出所:TradingView)
すでにその限界に差しかかっており、早ければ本日(11月15日)、遅ければ来週中(11月28日~)に何らかのサインを点灯するとみる。
米通貨先物市場におけるポジションの状況も見てみよう。7月高値まで「円売りバブル」があったが、それに比例した形で円売りポジションの積み上げも記録的な規模だった。
7月高値から一時22円超の下落となり、その反動自体も行きすぎだった上、140円割れ前後において、一転して円のロングポジションが積み上げられ、2016年以来の規模を記録した。その影響で、その後の米ドルの急反発がもたらされた側面も大きかったはずだ。
言い換えれば、国際投機筋がダブルパンチを食らった格好で、米ドル/円の急落や急騰が加速した可能性が大きい。
(出所:TradingView)
これは外ならぬ、7月までの「円売りバブル」やその崩壊がもたらした「後遺症」であり、またその「後遺症」が深刻であることを示唆している。
トランプ氏の圧勝で米ドル金利と米ドルが急騰し、2016年相場の再来と懸念されるが、当時の米ドルの上昇幅は、10月安値から計算すればわかるように、最大約17円程度であった。
(出所:TradingView)
その後、2017年に入り、トランプ政権が発足すると、むしろ米ドル安に転じていたので、懸念されるほどいわゆる「トランプラリー」は続かなかった。
突っ込んで検証すればわかるように、2016年と今年(2024年)の情勢は大きく違っていた。2016年はトランプ氏の当選が大きなサプライズであったのに対して、今年(2024年)は少なくとも10月から「トランプトレード」が流行り、むしろトランプ氏の当選が確実視されてきた。
ゆえに、今回はサプライズなしというか、想定のとおりの展開なので、2016年年末の値幅は再現しにくいと思う。
それにしても10月の値幅が大きく、9月安値から計算すると目先までですでに約16円の上昇幅を達成しており、今回の方がより「行きすぎ」である。
(出所:TradingView)
ここからの上値余地は、あっても1円、2円程度とみなし、米ドルの頭打ちが間近と見る。頭打ちのサインを確認されると、米ドル安に転じる可能性がサイクル論ではむしろ自然で、また蓋然性が大きい。
8年~9年サイクルにおけるトップアウトを7月高値をもってすでに果たしたなら、ここからの高値更新はないと思う。
米ドル/円は2024年いっぱいまでは強含みの可能性大、まず頭打ちのサインを確認しておきたいところ
とはいえ、2016年の前例から考えて、米ドルの頭打ちがあっても今年(2024年)いっぱいまでは強含みの可能性が大きい。
26週移動平均線(ヘッジファンドなど投機筋が同線以上でロングポジションをもつ傾向にあると言われる移動平均線で、現在151.40前後に位置)より上に位置し、また投機筋が再び米ドル売りポジションを積み上げてきたから、頭打ちがあってもすぐに反落してくるとは限らないため、まず頭打ちのサインを確認しておきたいところだ。市況はいかに。
(出所:TradingView)
2024年11月15日(金) 0:35執筆
(来週、11月22日の当コラムは海外出張のため、1回休載させていただきます。何卒宜しくお願い致します。)
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)