当時、「PIIGS」という造語はあったものの、本当に危機に陥っていたのはギリシャのみであった。だが、足元の状況と対照的に「ユーロ崩壊論」が広がり、ユーロ/米ドルは1.2000ドル割れまで売り込まれていた。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 週足)
その頃、筆者が受け取った質問のほとんどが「ユーロはパリティ(1ユーロ=1ドル)割れになるのでは?」というもので、今でも印象深く残っている(「ジム・ロージャズはユーロ買いに転じた!金融機関の過激な予測を信じるな!」などを参照)。
そして、「PIIGS」の文字どおりに(厳密に言えば、順番が異なっているため「文字どおり」ではないが…)ソブリン危機はアイルランド、ポルトガルまで、その後拡大した。
ところが、ユーロ/米ドルは足元で一時1.4500ドルを突破し、筆者は多くの方から「ユーロは2009年高値の1.5144ドルを更新していくのでは?」という質問を受けている。
言うまでもないが、昨年5~6月時点と同様に、多くの方の懸念がトレンドに沿ったものだけではなく、市場センチメントそのものを反映していると思っている。
より重要なのは、こういった市場センチメントを形成させた要因が、前述した市場関係者の「言い訳」の効果であるということだ。
そして何よりも、彼らの多くが昨年に「ユーロ崩壊」を吹聴していたということだ。それだけに、今回も「リバーサル・ポイント」の1つを提供してくれていると思っている。
総合的にみると、米ドルの悲観論が強まっている現状だからこそ、ユーロがトップアウトする蓋然性は大きく、米ドル全体が下げ止まる可能性は強まると思う。
為替マーケットの醍醐味と奥深さは、このあたりにある。
■バーナンキ議長の態度表明はユーロなどに打撃を与える
米ドル安を説明する直接の根拠として、ユーロの追加利上げや英国の利上げ観測がある。だが、足元の相場に織り込まれた可能性はかなり高く、注意が必要だ。
その上、前回のコラムでも強調したが、利上げがユーロにもたらす「マイナス効果」は、これからジワジワ効いてくるはずだ。そのリスクは最近の相場にあまり反映されていないだけに、反動は大きいと思われる(「ドル安は来るべきところまで来た。ドル/円は底打ちして歴史的転換を図る!」を参照)。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/米ドル 日足)
また、事情はやや異なるものの、英国も同様である。高いインフレと高い失業率、低い経済成長という構造で、利上げがあれば、ユーロ同様に景気に打撃を与えるだろう。
その上、米国の事情がマーケットを主導するということは見逃せない。要するに、FRBの政策に関する見通しが不透明になっている分、米ドル売りが続いているということだ。
時間の経過につれて、バーナンキ議長もいずれは立場を表明しなければならなくなるだろう。たとえ、それがあいまいなメッセージであっても、過大評価されているユーロなど、米ドル以外の通貨に大きな打撃を与えるはずだ。
■米国のソブリンリスクは、現時点では問題にならない
ところで、政府の予算案だけでなく、債務上限の引き上げなど、米国にマイナス要素が浮上してきている。
筆者はかねてから、このコラムでも米国のソブリンリスクを指摘してきた。政府債務額上限の引き上げは、米ドル暴落の引き金となってもおかしくはない(「米国の財政懸念はいずれ問題となる。二兎を追うオバマ政権は一兎も得られない」などを参照)。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
結論から申し上げると、米国のソブリンリスクはいずれ大きな問題になると見ているが、現時点で、それはないと思う。
そのあたりの事情と根拠は、また次回に。
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