■ドルインデックスの上昇には、円以外の「役割」も必要
足元の為替相場は一進一退を繰り返している。ドルインデックスは3月15日(木)高値から反落が続いていたが、1週間経った22日(木)になって、ようやく下げ止まったように見える。
先週のコラムでも申し上げたが、米ドル全体の上昇トレンドに疑いの余地はないものの、短期スパンでは、ユーロをはじめとする諸外貨のリバウンドの可能性を無視すべきではなかった。性急な外貨売りは避けるべきだったのである(「多少の買われ過ぎサインは強気シグナル。米ドル/円は85.52円、87.57円が射程に!」を参照)。
実際のところ、今週(3月19日~)の値動きを見ると、ユーロ/米ドルは1.3285ドル、英ポンド/米ドルは1.5923ドルの高値をトライした。ゆえに、ユーロ/円は111.43円、英ポンド/円は133.48円まで上昇し、高値を更新できたのである。
また、従来のパターンとは異なり、米ドル/円とドルインデックスの連動性が強まっていることが、足元の相場で確認されている。
そのような状況下で、米ドル/円は3月15日(木)高値から調整色を強めており、22日(木)には節目の83.00円を割り込んできた。このことを考慮すると、円だけでなく、ユーロなど主要外貨の「役割」も、今後はドルインデックスの上昇を引っ張っていくには必要だろう。
■クロス円の上昇が一服し、調整に入る可能性が高い
このような見方が正しければ、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)の上昇も一服し、徐々に反落リスクが高まってくると推測できる。
もっとも、ユーロ/円や英ポンド/円は、3月21日(水)につけた高値で、1月安値を起点とした上昇変動における「5波構造」がほぼ完成した。「エリオット変動論」の視点では、むしろ、これから調整変動に入っていくのが当然の成り行きである。
先週のコラムに英ポンド/円のチャートを提示したが、改めて、下に最新のものを示した。「5波構造」の完成の可能性とRSIが示す弱気ダイバージェンスのサインにご注意いただきたい。
(出所:米国FXCM)
先週も申し上げたが、クロス円相場から、ドルストレート通貨ペアの動向も、逆に推測できる。
英ポンド/円の反落が続くならば、米ドル/円、英ポンド/米ドルのいずれかの下落変動が強まるということになる。
そして、英ポンド/円に暴落の兆しが出てくれば、米ドル/円と英ポンド/米ドルの反落が、そろって早まるということになる。
3月21日(水)まで英ポンド/円の高値更新が続いたが、それは、英ポンド/米ドルの大幅な切り返しがもたらした結果に過ぎない。何しろ、米ドル/円が3月15日(木)の高値を更新できずにいるので、英ポンド/米ドルの大幅な切り返しがなくては、英ポンド/円の高値更新はあり得ないからだ。
■英ポンドは対円の上昇一服で、対米ドルの上昇も一巡へ
筆者が見る限り、一般の個人投資家ばかりか、金融業界の関係者の大半が、このような見方を理解できていないようだ。そのために、先週末の英ポンド/米ドルの大幅な切り返しは、マーケットで予想されていなかった。
ゆえに、先週時点で、性急な売り推奨が多数見られたのである。
2月安値を割り込んでいたから、さらなる下値余地が広がっていくといった予測は「教科書どおり」であった。
ましてや、先週も申し上げたように、「三尊型」の形成も想定されていたので、「教科書どおり」に下値トライが続くと、想定しやすかったはずである。
延々と先週の事例をご説明してきたが、その目的はただひとつ、「なぜ、英ポンドは大きくリバウンドできたか?」を解明しておくことだ。
要するに、性急に作られたショートポジション(売り持ち)が多かったために、踏み上げられたわけだ。最近のユーロ/米ドルの上昇に関しても、基本的には、同じロジックで解明できる。
このような解釈を理解し、納得できれば、今後のトレンドが一層鮮明に見えてくるだろう。
まず、英ポンド/円の上昇が一服し、そして、英ポンド/米ドルの踏み上げが一巡すると想定できる。
■米ドル/円は調整があっても、ブルトレンドを維持する!
ドルインデックスは、上昇トレンドを続ける可能性が高い。したがって、英ポンド/円、英ポンド/米ドルは売り圧力にさらされるだろう。
さらに、米ドル高を引っ張ってきた円売りがそろそろ一服し、今後は、円以外の外貨安が米ドル高をリードする公算が高い。
ゆえに、英ポンド/米ドル、ユーロ/米ドルなどの主要通貨ペアは、これから売られる可能性が高いといったシナリオが描ける。
また、このような見方が正しければ、下のチャートのように、英ポンド/米ドルは今度こそ「教科書どおり」に「三尊型」を形成し、反落してくるといった結論が得られる。
(出所:米国FXCM)
さらに、英ポンド/円などクロス円に暴落の兆しが読み取れないので、米ドル/円は調整があっても、基本的にはブル(強気)トレンドを維持できるといった予測もできる。
ドルインデックスとの連動性はやや薄れるだろうが、引き続き、米ドル/円は上昇基調を保てるだろう。大台の85円のターゲットは堅持しておく。
■「QE3」が実施されても、影響が限定的と考えるワケは?
最後に、米ドル全体のブルトレンドを加速させるには、米国の「QE3(量的緩和策第3弾)」に関する思惑が解消されることが不可欠だということを、ご説明させていただこう。
値動きが先で、材料が後からついてくるという前提だと、4月までに一段の米ドル高があれば、「QE3」は実施されない可能性が高まるだろう。
ただ、最近になって、中国に関する悲観論が急速に浮上してきた。このあたりの事情は流動的であるため、「QE3」が実施されないとは言い切れなくなった。
しかし、次の2点に注意すれば、「QE3」が実施されても、その影響は限定的であると想定できる。
まず、今年は米国の大統領選が行われる。7月までに「QE3」が実施されなければ、政治的な思惑を避けるために、FRB(米連邦準備制度理事会)は実施を断念するだろう。
早ければ、4月末のFOMC(米連邦公開市場委員会)で「QE3」の有無が明らかにされることも考えられる。それによって不確実性が減り、結果的に、米ドルへの影響は限定的になる。
2つ目は、「FRBが『QE3』を不胎化するといった報道が、FRBメンバーから語られたのではなく、WSJ(ウォールストリート・ジャーナル)の『御用記者』へのリークにより伝えられた」ということだ。
ここから、米ドルへのマイナス効果を最小限にとどめたいといった「配慮」が読み取れる。さらに、アナウンス効果を狙って、本当は「QE3」の「不胎化」ではなく、「QE3」自体を「不胎化」する可能性がある。
このあたりの話は、中国の景気減速懸念の真贋(しんがん)とともに、次回、ご説明させていただこう。
(2012年3月23日 14:00執筆)
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