■株安、米ドル高、円高のリスクオフ相場に
為替マーケットは再び米ドル高の基調を強めている。
4月3日(火)に発表されたFOMC(米連邦公開市場委員会)議事録は市場が想定するほどハト派ではなかったため、米ドルショート筋に打撃を与えた。
少なくともFRB(米連邦準備制度理事会)による早期QE3の実行といった観測は後退し、米ドルのリバウンドをもたらした。
足元では、早くもQE3なしといった観測が盛んになっているが、4月6日(金)の夜に発表される米雇用統計は重要なヒントを示唆してくれるだろう。何しろ、FRBの本音は「状況次第」ではないかと思われるからだ。雇用統計のデータは判断材料として重視されるだろう。
当然のように、量的緩和策の継続を期待していた米国株は反落し、今週(4月2日~)は年初来最大の週間下落幅を記録した。
株安の進行は一般的にリスクオフと解釈され、米ドルと円が買われやすいだけに、今週(4月2日~)の米ドル/円やクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)相場の軟調も納得できる。
というのは、これ以前のリスクオン相場でもっとも売られていたのが円であったので、その反動として円が少々買われるのは自然な成り行きなのである。
■FOMC議事録は値動きの変動率を拡大させただけ
ところで、米ドルの切り返しが急であっただけに、当方の米ドル安シナリオがまた転換されるのではないかと推測している読者も少なくないと思うが、今のところ、答えはノーである。
その根拠については、おもに以下の2点に集約できると思う。
まず第一に、米ドルの切り返しは表ではFOMC議事録の示唆がもたらした現象だが、本当のところは、相場の内部構造に沿った値動きで、FOMC議事録が値動きの変動率を拡大させたに過ぎない。
言い換えれば、足元の状況は米ドル安トレンドにおけるスピード調整と見なすべきだ。
最近、当コラムではユーロ/米ドルより英ポンド/米ドルを多く取り上げており、時系列的に見やすいので、今回も英ポンド/米ドルの例で見てみよう。
下のチャートは4月2日(月)に作成したもので、テクニカル分析の始点ではすでに英ポンド/米ドルの反落、すなわちドルインデックスの切り返しの理由を明確に示していた。
当然のようにFOMC議事録がリリースされる前のチャートなので、FOMCの内容を筆者は知る術もなかった。
(出所:米国FXCM)
図示したように、フォーメーションとしての「上昇ウェッジ」とオシレーター系指標が示す弱気ダイバージェンスの組み合わせが英ポンドの反落を示唆し、英ポンドが頭打ちしやすく、早晩、一旦反落してくる時期に差し掛かっていた(※)。
言い換えれば、英ポンドの反落はFOMC議事録という材料ではなく、短期スパンの相場の内部構造によって決定されている。
(執筆者注:「上昇ウェッジ」というフォーメーションは名前と逆に、反落の確率が大きいと示唆するもの)
■相場の内部構造が持つ支配力は絶大
実際、FOMC議事録の発表前には英ポンドの値動きが大きかったので、もし同議事録が量的緩和を示唆した場合も考え、英ポンドの上値余地も筆者は計算していた。
その具体的な内容は以下のとおりである。
(出所:米国FXCM)
上のチャートが示しているように、13日安値からの変動を大型三段上げパターン(大文字)とみなす場合、A=Cなら、1.6090ドルといったターゲットを示し、C波序列下のa-b-cパターンも、a=cなら1.6073ドルというターゲットを示す。
両ターゲット共に上昇ウェッジの上限ラインと合致していたので、当面の天井と考えられやすく、また上値余地はこのあたりまでと覚悟していた。
ただし、それでも反落の蓋然性が高いので、それ以上の高値追いは躊躇すべきだと分析していた。実際、その後の高値更新はできず、ほぼ一直線に反落してきたが、基本的には想定された値動きであった。
このように、ファンダメンタルズ上の材料は値動きの進行方向を多少チェンジできるものの、根本的なパターンは修正できない。そればかりか、材料に関する解釈(市場センチメント)も、あとを追う形で値動きのパターンを証明してくるから、相場の内部構造が持つ支配力が絶大なことがわかる。
ゆえに、「相場は相場に聞け」といったことわざのとおり、相場自身の声にもっと真摯に耳を傾けなければならない。
■キーワードは「推進」と「調整」
以上、米ポンド/米ドル反落の蓋然性を説明したが、肝心なところ、つまり、米ドル安トレンドの進行がこれから続くかどうかを解釈しなければならない。
同じ英ポンド/米ドルを例に挙げると、これから英ポンド/米ドルが安値を更新していくか、それとも底打ちしてまた上昇するのか、まったく反対のシナリオとなるだけに、カギとなるキーワードとして「推進」と「調整」という言葉を理解することが必要だ。
この2つのキーワードを理解できれば、筆者が3月23日に、わずかなユーロ/米ドルの上昇幅でスタンスを180度修正したのに、足元ユーロで300pips超、英ポンドで150pips超(※)の動きを無視し、スタンスを変えずにいられる理由を理解できるだろう。
(※執筆者注:ともに今週(4月2日~)高値から執筆時点の最安値までで計算)
■米ドル全体の上昇は長く続かない
このようなロジックを説明するため、まず下記チャート(4月5日(木)16時22分に作成)について、説明してみたい。
(出所:米国FXCM)
このあたりの説明はどうしてもエリオット波動論を用いて行わないと難しいが、専門的な用語を避け、わかりやすく言えば、上のチャートに示しているように、緑大文字が示す変動は推進波であり、ブル文字で表している変動は調整波となる。
ちなみに、ブルの表示は序列的に緑表示の下とわかれば、ブル文字のA-B-C変動をもって緑文字のCの全値幅を完成できるといったイメージを理解できるだろう。
言い換えれば、筆者の見方が正しければ、英ポンド/米ドルはなお3月安値を起点とした大型推進波に位置しているものの、現在はその途上で調整しているに過ぎない。
推進波はメイントレンドを決定し、調整波はあくまでトレンド進行のスピードを調整するだけで、トレンド自体を決定できない。ゆえに、英ポンド/米ドルは上昇トレンドへ復帰する公算が高いし、米ドル全体の上昇は長く続かないと思われる。
以上のように、スタンスを修正するかどうかは、目先の変動率ではなく、値動き自体の構造と変動波自体の属性で決定される。
正直に申し上げると、4月6日(金)の米雇用統計が「良い」と予想されるだけに、ここまで書いていいかどうかに一抹の不安があるが、筆者の見方が正しければ、基本的には今回の米雇用統計のデータがどうであれ、その影響は限定されると思う。市況は如何に。
(4月6日(金) 14:30執筆)
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