■目先の焦点は米ドル全体の調整幅に
米ドル全体の調整が進んできた。前回のコラムで指摘したとおり、先週週末(3月20日)に米ドルロング筋の手仕舞いがみられ、ドルインデックスの一段下げにつながった。
【参考記事】
●ドルインデックス高値更新には懐疑的だがドル/円調整は近々終わるとみる理由とは?(2015年3月20日、陳満咲杜)
目先の焦点は、なお米ドル全体の調整幅にあるだろう。
というのは、スピード調整があっても、米ドル自体のブル(上昇)トレンドは変わらず、これからも継続されるといったコンセンサスが市場関係者には共有されており、見方に分岐点があるとすれば、それはスピード調整の度合いや調整期間の違いにあるのが実情であるからだ。
米ドル全面高は行きすぎだったとはいえ、これで米ドル高自体が終焉したとの判断にはつながらない。
■米ドル全体の調整はすでに一服したのか?
ところで、米ドル全体の調整はすでに一服したのではないか、といった見方も急浮上してきた。
何しろ、昨日(3月26日)、ドルインデックスは96.17と3月5日(木)以来の安値をつけたものの、その当日、一転して高く引け、3月23日(月)以来、最も高い終値をもって、反転のサインを灯したのだ。
(出所:米国FXCM)
リンクしたように、ユーロ/米ドルも昨日(3月26日)、いったんFOMC(米連邦公開市場委員会)当日の3月18日(水)の高値をブレイクしたものの、大きく反落して大引けし、3月24日(火)、25日(水)の値幅を包む形の陰線を形成した。
一般的には、こういったサインは直前の値動きを否定する存在であり、米ドル安の一服、そして、米ドル高トレンドへ復帰する公算が大きいものとして解釈される。
(出所:米国FXCM)
ただし、昨日(3月26日)の材料と総合的に判断しないといけないので、昨日、米ドル反転をもたらした要因を見てみたい。
■イエメン空爆のニュースが最大の材料
実際、一番効いていた材料はイエメン空爆のニュースだ。
サウジアラビアを中心とする湾岸国家連合がイエメン内戦に介入することで、イラン(反乱軍支持とされる)と直接衝突しかねない事態に市場が敏感に反応し、リスクオフのムードに入った。
典型的なリスクオフムードと言えば、米ドル買い・円買いのセットで、これが昨日(3月26日)のユーロ/米ドルの高値突破失敗や米ドル/円の安値トライをもたらしたとみる。
中東情勢は極めて複雑なので、専門家でない筆者の出番ではないが、アラビアの世界では宗教流派の違いから、サウジアラビアとイランが不倶戴天の敵であることは常識である。アラビアの二強が直接衝突を起こすのは、かなりまずいことなので、同材料にはインパクトがある。ましてやサウジアラビアの駐米大使が核兵器の開発を公言してしまったなら、なおさらだ。
したがって、昨日(3月26日)のマーケットの反応は極めて正常で、事の性質を考えれば、むしろ、米ドルの反騰具合が小さい方だと感じる。ちなみに、米株安がもたらしたリスクオフが、なかなか米ドルの反転につながらなかったのは米ドルが買われすぎているがゆえだが、中東情勢の緊張になれば、リスクオフの本気度が違ってくる。
また、歴史が繰り返し証明しているように、米ドルは安全資産として中東のお金持ちに一番選好されやすいから、中東混乱の兆しが拡大していくなら、米ドルはさらに買われるだろう。
■本日の値動きによって市場の温度が測れる
一方、イエメン内戦はかつて冷戦時代に多く発生した「代理戦争」のように、必ずしもイランとサウジアラビアの直接対決をもたらすとは限らない。少なくとも、今のところ警戒はすべきだが、たちまち直接衝突になるとも想定しにくいから、市場関係者はまずポジションを調整し、冷静になってから再度状況を判断してくるだろう。
したがって、本日(3月27日)も先週の週末(3月20日)と同様、市場関係者がどのようにポジションを処理するかによって、マーケットの温度が測れる。
中東情勢のさらなる悪化がない限り、筆者としては、昨日(3月26日)のマーケットの反応は一時的で、最近のトレンドに戻るのではないかと思う。換言すれば、米ドル全体の調整がまだ続く可能性を完全に排除できないとみる。
■米ドルを買い増しするか? 米ドル買いを手仕舞うか?
前述のように、米ドル高トレンド自体は継続されるが、スピード調整がいつ終わるかが目下の問題で、昨日(3月26日)の日足に反転のサインがあったなら、本日(3月27日)も反転が続かなければならない。
(出所:米国FXCM)
なぜなら、せっかく反転のサインを灯した上に、材料の性質もそれなりにリスクオフに傾いているから、本日反騰が続かないほうが「おかしい」からだ。ましてや週末になると、市場関係者の判断が一層重みを増してくる。
結局、2014年5月から始まった米ドル全面高のトレンドがかなり続いてきたぶん、米ドルのロング筋が圧倒的に多く、まだポジションを手仕舞いしていない勢力が多いはずだ。
その上、昨日(3月26日)のテクニカル上のサインを見て、新規の米ドルロング筋も参入しやすい雰囲気になっているから、本日(3月27日)、米ドル全体が続伸しなければ、逆の状況が暗示される。
それは他ならぬ、「米ドルのロングが過大になっており、何らかの材料でもって米ドルがちょっと反騰してくれば、市場関係者は米ドルの買い増しではなく、ロングポジションの処理に動く」ということだ。言い換えれば、現在は正念場であり、今の相場が試金石の役割を果たしている。
■米ドル/円の反落はもう終わった可能性も
筆者があえて、米ドル全体のスピード調整がまだ終わっていないと思うと言うのは、昨日(3月26日)の材料の特殊性のほか、最近、ドルインデックスが示したテクニカルサインによる示唆が大きいからだ。
FOMCの3月18日(水)、ドルインデックスは波乱を起こして大きな値幅を記録し、19日(木)の値幅を「はらみ」、また19日(木)の値幅が20日 (金)の値幅を「はらむ」形で、重なったはらみ線を形成していた。
18日(水)の安値を割り込んだところで下放れが確認され、昨日(3月26日)の安値でも下放れのターゲットは打診できずにいたが、昨日の材料がなかったら、もう打診できていたのでは…と思える節がある。
したがって、本日(3月27日)、大きく続伸できない限り、昨日(3月26日)の反転サインを過大評価すべきではなく、米ドル全体のスピード調整が早期完了したといった判断も性急かもしれない。
(出所:米国FXCM)
仮にこの見方が正しければ、ユーロ/米ドルももう少しリバウンドの余地が拡大し、それがユーロ/円の反騰につながって、さらに米ドル/円へ寄与してこよう。
米ドル/円は想定よりやや早めの押しとなっていたが、一時のリスクオフに反応した値動きに照らして考えると、なお許容範囲にあるのではないだろうか。
この視点では、米ドル/円の反落は近々完了する公算が高く、もしかしたら、昨日(3月26日)の安値をもって、すでに完了した可能性も念頭においておきたい。
■日銀の次の一手への連想も無視できない
ところで、本日(3月27日)の日本サイドの材料、すなわちCPI(消費者物価指数)の数字が出たので、この材料をもって米ドル/円の見通しを修正する可能性も出ている。
2月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除いたコアCPI)は7カ月連続で伸びが鈍化し、消費増税の影響を除くベースで初めて前年比ゼロ%に落ち込んだことが発表され、日銀の次の一手へ連想が及んでいるから、無視できない。
このあたりの話は、また次回。市況はいかに。
(PM3:00執筆)
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