■SDR入りは中国人民元自体にとって短期的には弱気材料
もっとも、中国人民元のSDR入り自体は、長期に渡って中国人民元の地位向上をもたらす公算が大きいが、短期的にはむしろ弱気材料だ。
何しろ、本コラムが以前にも取り上げたように、中国人民元は基本的に実体より割高で、その状況を維持していくのはムリがあるからだ。
【参考記事】
●異変、急変を警戒! 円安トレンド転換も。チャイナショックの影響はまだこれから!?(2015年8月14日、陳満咲杜)
中国政府が無理矢理、中国人民元レートを高めの水準に維持しているのは、ほかならぬ中国人民元のSDR入りの地合い整備だと言われる。したがって、SDR入りを果たした場合、逆にそのレートを維持する必要がなくなり、完全にマーケット主導にはならないものの、いくぶん切り下げの余地を拡げていくことも十分想定される。
こういった思惑が膨らむ中、オフショア市場における中国人民元安が続いている。中国筋主導の「ゲリラ」的人民元買いが仕掛けられ、何回も踏み上げされたにもかかわらず、である。
人民元先安の思惑が強い分、中国政府は莫大な外貨準備高を投入し、中国人民元レートを維持しているが、そろそろ限界かともささやかれるほど、実に大変だ。
したがって、中国人民元のSDR入りを、ひとつの区切りとして意識した方が良さそうで、近々人民元の再切り下げを覚悟しておきたい。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:中国人民元/円 日足)
さらに、SDR入りを果たした後、切り下げがあれば非難されることも容易に推測される。
一方、切り下げなければ維持していくコストに耐えきれず、いずれ切り下げなければならないから、チビチビ下げるよりも、1回思い切って大胆に切り下げに踏み切った方が得策だ。
どうせ非難されるのだから、何回も何回も非難されるよりましだし、1回の大きな下げをもって、人民元先安思惑の余地を縮めることも狙える。
人民元先安観測は、やはり人民元安の余地に焦点が絞られるから、大幅な切り下げの方が一石二鳥と言える。人民元先安観測が資金流失を招いており、中国政府にとって一大事だからこそ、こういった「ショック療法」が選ばれる公算が高いだろう。
■8月の世界金融相場混乱の再来も覚悟
となると、2015年8月の中国人民元切り下げがもたらした世界金融相場混乱の再来も覚悟しておきたい。
いつものように、日本株にしても、円にしても外部からの衝撃に弱いから、一時的にせよ、株安・円高へ振れ幅が拡大し、また、8月24日(火)のように、米ドル/円をはじめ、円絡み通貨の「とんでもない」変動率の高まりを警戒しておきたい。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
米利上げに期待し、米ドルロングのポジションが積みあげられている中、ユーロ/米ドルよりも、米ドル/円のほうが米ドル安へ反転しやすいだろう。
なぜなら、来週、12月3日(木)のECB金利決定を控え、前述のようにマーケットは「ドラギ・マジック」におびえているからだ。
ユーロ安の衝撃に中国人民元がもたらす混乱が加われば、円高がみえてくるだろう。年末とはいえ、気を緩められない。
そういえば、例年ならサンクスギビングデーまでにポジションを解消し、年末休暇に入るのがウォール街の流儀だが、今年(2015年)はそうはいかないだろう。FRBとECBの重要決定を控え、年末休みどころではない。市況は如何に。
(14:00執筆)
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)