■「ヘリマネ」の本質や、その恐ろしさとは?
巷では「ヘリマネ」、「ヘリマネ」というものの、「ヘリマネ」の本質やその恐ろしさを知る方がそう多くない気がする。
学問的な解釈を省き、ずばり「ヘリマネ」とは何かと聞かれれば、それは「政府の債務を中央銀行が直接負担すること」に尽きる。もっとも簡潔に言うと、要するに「政府がお金をばら撒いても、そのお金を返さなくてもいい」ということである。
しかし、よく考えればわかるように、日本はいわゆる「失われた20年」のデフレに悩まされてきたのであり、「ヘリマネ」がそんなに効くなら、今日現在、試されていないこと自体がおかしい。別にあのバーナンキさんの訪日を待たなくとも、日銀や政府のブレーンがとっくに提案し、日銀もとっくに実行していてもよかったはずだ。
しかし、そうでないのは、「ヘリマネ」政策には当然、「核爆弾」のごとくとんでもない欠点があるからだ。
なにしろ、政府も企業や個人と同様、「返さなくてもよいからお金を使って」と言われたら、規律なく節操なくお金を使いまくる。よって、結果的にコントロールできないインフレ、いわゆるハイパーインフレをもたらす可能性が極めて大きい。だから、使おうとしても使えない、インパクトがあるとしても使えなかったわけだ。
ちなみに、「ヘリコプター・ベン」のあだなを持つバーナンキ元FRB議長も、口ではいろいろ言っていたものの、結局、米国で同政策は実行しなかった。
それに、日本の場合は、黒田さんの言うとおり、法律を改正しない限り実行できないから、巷の「ヘリマネ」期待は少なくとも現段階においては、やや滑稽だと言わざるを得ない。
■財政支出が最終的には効果がないのは、議論の余地なし
日本は先進国の中で、GDPに対する借金の比率が一番高い。そして、これからの財政出動にしても、量的緩和やマイナス金利の拡大にしても、結果的に借金を膨らませていくことになるので、これは次世代の重しになるはずだ。
高齢化が進み、人口構造が歪んでいく現状では、本来、何よりも財政規律の健全化が政府の目標として取り組まなければならないことだが、アベノミクスは結果的にそれと逆行しているようにみえる。
こう言うと、「成長なくして健全化なし」と反論されがちだが、前例のない量的緩和やマイナス金利が導入されても成長を遂げなかったのだから、仮に「ヘリマネ」をやっても成長できるかどうかは、当然疑問である。
成長しないうちにハイパーインフレになれば、それこそトドメを刺されることになる。いつか来た道である財政支出は、規模がどうであれ最後は効かないということは、バブル崩壊以来、すでに繰り返し証明されずみの理屈で、今さら議論の余地もない。
アベノミクス云々というと、格好良く聞こえても、財政支出の中身と本質は昔といっしょだから、今になって効果があると期待するのは幻想に近い。前回のコラムでも指摘していたように、アベノミクス自体がすでに賞味期限切れの「冷めたビザ」だから、これから再び焼いても、おいしくなるはずがない。
【参考記事】
●アベノミクスの失敗を隠蔽する経済刺激策を出しても“冷めたピザ”はまずいまま!(2016年7月15日、陳満咲杜)
■米ドル/円上昇のスピード違反は、それ自体がサイン?
とはいえ、円高を阻止し、また円安の流れを作るという意味合いでは、今回の政府の経済刺激案や日銀の思惑が、場合によっては有効だと思う。というのは何より、米ドル/円が6月23日(木)の高値を一時ブレイクしたからだ。
去年(2015年)8月24日(月)のチャイナショック時の大陰線およびその後の値動きと、今回の英国国民投票後の値動きを見比べるとわかるように、今回の上放れは「スピード違反」であった。
(出所:CQG)
この「スピード違反」を、単純に一時のオーバーではなく、1つのサインと見なした場合、もしかしたら「悪い円安」がすでに進行しており、これからなかなか99~100円といったメインサポートゾーンを割らないのではないかと警戒される。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
当然のように、そうであれば米ドル/円のみでなく、ユーロ/円、英ポンド/円の見通しも修正する必要に迫られる。
ちなみに、黒田さんのインタビューは6月に収録された模様で、極端な話、現在の総裁さんがすでに考え方を改めている、という可能性もある。このあたりの話はまた次回、市況はいかに。
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