■日米金利決定待ちで、為替市場は一進一退
来週(2016年9月21日)の日米金利決定待ちで、為替市場は一進一退を繰り返し、やや神経質な値動きを見せている。
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FRB(米連邦準備制度理事会)にしろ、日銀にしろ、「関係者」の発言に振り回されてきた市場参加者たちは、さすがにここにきて疲れたようで、あまり反応しなくなったというか、鈍くなってきた感じだ。
経済指標への反応も然り。昨日(9月15日)、米8月小売売上高が発表されたあとの変動もゴールド(金)の方が目立つほど、為替市場の反応は限定的だった。
■米ドルは「年内2回利上げは難しい」を織り込んだ展開に
とはいえ、米ドル全体は頭が重い展開になっているのが確認できる。
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米9月利上げの可能性が低下しているから、積極的な上値追いは見られない。もっとも、ウォール街の一部ではなお「9月利上げあり、サプライズ的な米ドル高があり得る」と主張している。しかし、市場センチメントでみると、やはり、それは主流ではないようだ。
ドルインデックスで見ると、1月高値の99.60に比べ、現在は約4.3%安の水準に留まっている。
(出所:CQG)
これは明らかに、2016年年内2回利上げが難しいといった市場センチメントを織り込んだ結果だ。一部アナリストは「FRBが9月に利上げしなくても、2016年年内利上げありと暗示すれば、米ドルは買われるだろう」といった指摘をしているが、それさえ難しいかと思われる。
何しろ、FRBは「最低2回」と言わんばかりのスタンスを示唆していたから、仮に9月利上げができずに「年内利上げあり」と言ったところで、やはり米ドルロング派を失望させることはあっても、興奮させることはないだろう。
場合によっては、「結局2016年年内は利上げをできないのでは」といった疑心暗鬼を招きかねない。
何しろ、11月の米大統領選の結果次第では、マーケットがまた荒れる可能性が大きいから、FRBは結局、市場の顔色をうかがい、行動できない恐れがある。
■「トランプショック」で利上げが遠のく?
米大統領選は、ここにきて急に民主党クリントンさんの健康不安懸念が浮上してきた。大統領になろうとする者が健康上に問題があれば、やはり一大事だから、共和党のあの「問題児」、トランプ氏に有利な展開になりかねない。
仮にトランプ氏が当選した場合、米国内の分裂のみでなく、国際社会にも大きなインパクトをもたらすだろう。「トランプショック」といった言い方が誕生してもまったく不思議ではなかろう。
「大金持ち暴言王」のイメージが強いトランプ氏は、移民制限など米国内問題から、軍事力縮小など国際問題まで、あらゆる政策において今までの米政治の常識範囲から「はみ出す」政策を主張しており、当選した場合、内政・外交に高い不確実性をもたらすに違いない。
金融市場がもっとも「嫌う」不確実性の高まりで、高い変動率を余儀なくされる公算が大きいから、FRBが本当に利上げに踏み切れるかどうかは、不透明だ。
さらに、「暴言王」ことトランプ氏は、自分が当選した場合、イエレンFRB議長をクビにすると公言していた。
■トランプ氏が当選すれば、米ドル安になる可能性大
ウォール・ストリート・ジャーナル編集局長はトランプ氏に十分勝機ありとの見方を最近披露したばかりであり、ウォール街も本気でトランプ氏の当選を見込んだ上でのシナリオを練り始めた。
本来、不確実性が高まれば、米ドルが買われることが多いが、トランプ氏が当選した場合は市場の反応が違ってくる可能性がある。何しろ、氏は保護主義の色合いが強く、米ドル高を非難し、また、抑制する姿勢を鮮明化させる可能性が極めて大きいからだ。
基軸通貨の米ドルがその地位を保ってきたのは、政治、軍事両面における米国のリーダーシップに依存する側面が大きいが、国際社会におけるプレゼンスを縮小させると公言してきた氏の当選があれば、少なくとも最初の段階において、米ドル高ではなく、米ドル安になりやすいだろう。
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この意味では、9月米利上げができなければ、2016年年内利上げ自体も流動的で、決して「規定路線」ではないと言える。また、米大統領選をにらんで、いろいろな思惑が出やすい中、足元の米ドルの軟調は、むしろ「正常」な基調なのではないだろうか。
■トランプ氏の支持率に市況が左右される「多事の秋」に
さらに、マーケットというものは事実ではなく、「ウワサ」によって形成されるから、来週(9月21日)の日米金利決定を過ぎると、早くも米大統領選を織り込んでいくことになろう。
こうなれば、英EU離脱前のように、トランプ氏の支持率に左右される市況になりかねないから、ボラティリティの上昇は避けられないとみる。「緊張の夏」にならなかった分、一段と「多事の秋(※)」になる公算が高いと思う。
(※編集部注:「多事の秋」とは中国の故事成語で「多事多難の時期、波乱のとき」を表す語)
【参考記事】
●なぜ、ドル高になりきれない? 世にも怖い「キンチョウ」の夏の「冷やし中華」とは?(2016年6月3日、陳満咲杜)
■日銀会合の結果も、円高につながる可能性の方が大きい
「多事の秋」であれば、円安ではなく、円高になりやすいだろう。市場関係者らは固唾をのんで来週(9月21日)の日銀会合を待っているが、同会合の結果がサプライズを引き起こし、足元の基調を大きく修正する可能性は小さいかと思う。
というのは、政策総点検と言いながら、黒田日銀総裁は今までの持論を繰り返すばかりで、市場との対話に成功しているとは思わないからだ。
今後の政策に関する憶測が多い中、唯一言えるのは、日銀が従来政策の延長線(量的緩和とマイナス金利の拡大)で「総括」していくなら、市場にサプライズを引き起こせない可能性が大きい、ということだ。
今回の会合で日銀の政策中止、あるいは大転換も想定されにくいが、従来の政策の延長なら、市場はとっくに織り込んでいるように見えるから、円安方向に反応しても長くは続かないだろう。
「戦力の逐次投入はしない」と公言してきた黒田さんが、ここに来て「総括」と言いながら、「総力戦」や「長期戦」を呼びかける可能性が大きいのではないだろうか。
しかし、仮にそうなった場合、「量的緩和戦争」に疲れ切った市場が「嫌戦」ムードを高め、かえって円高のほうに反応してきても不思議ではない。
■重要なのは日米金利決定後、「円高終焉」はいったん撤回
確かに来週(9月21日)の日米金利決定は重要だ。しかし、両会合の結果の大半が市場に織り込まれているように見える以上、やはり、その後の展開を見込んだ上でシナリオを練らないといけない。
ゆえに、ここで筆者は以前主張していた「円高終焉」の考え方をいったん撤回しておきたい。状況次第では、円高トレンドがさらに推進されてもおかしくないから、目先安易な判断は避けたい。
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市況はいかに。
※来週(2016年9月23日)は海外主張のため、本コラムはお休みとさせていただきます。
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