■カオスな状況にFX会社は取引を停止させた
そのためだろう、FX会社の中には、8時9分あたりからプライスが消えていた会社も多かったようだ。1分足チャートを見ると、8時9分から数本、足が表示されていない会社が目立つのだ。
冒頭に示した謎のひとつ、「なぜ、FX会社によって安値をつけた時間帯にズレがあるのか」は、これで解決できる。英ポンド/米ドルがインターバンク市場で最安値をつけたと思われる8時9分前後にプライスを出していなかったFX会社があったためだ。
「プライスを出さないなんて卑怯な!」と思うかもしれない。FX会社の肩を持つわけではないが、そこは考え方次第で、「ワイドなスプレッドでレートを提示するくらいなら取引をいったん止める」という理屈も成り立たないわけではない。あるいは、そもそもカバー先が英ポンドのプライスを出してくれなかったら、FX会社だってレートを提示できないわけだし。
このとき、FX会社には「ワイドなスプレッドでも絶えずプライスを提示する」か、「あまりにスプレッドが広がるようならいったん取引を止める」という2つの考え方があったようだ。
■安値のビッドとアスクから「擬似スプレッド」を計算
各社がどのような対応で、どんなレートを提示していたのか、1分足チャートに残されていた8時9分足の安値をビッドとアスクそれぞれにまとめたのが以下の表だ。
もしもビッドとアスクが完全に同時に安値をつけていれば、その差がスプレッドとなる。ただ、デューカスコピー・ジャパンのティックから明らかなように、そのタイミングが異なる会社も多かっただろうから、下表に示したビッドとアスクの差は正式なスプレッドではなく、あくまで「擬似スプレッド」。参考程度に考えてほしい。
また、この表では8時9分の足がなかった場合、復活した足を対象に記載しているため、どの会社が何分間、取引を停止させたかの目安にもなるだろう。

※10月7日(金)午前8時9分の1分足のビッドとアスクの安値を記載
※8時9分の1分足が消えていた会社は8時10分以降でプライスが復活した足を基準とする
※上表のビッドとアスクの差がスプレッドとは限らない
■ポンドをめぐる「ほこ×たて」対決第2弾!
擬似スプレッドを見ると、目立っているのがSBI FXトレード。大激変があったと考えられる午前8時9分にも英ポンド/米ドルのレート配信を続けており、しかも通常どおりに1.49pipsを維持している。
SBI FXトレードは2016年6月24日の英国民投票時にも英ポンド/円で通常どおりに1.19銭のスプレッドを提示していた。いわば「絶対にスプを広げないFX会社」としての実績を持つ。それに対して、ポンドは「絶対にスプレッドを広げさせる殺人通貨」だ。
【参考記事】
●【徹底調査】EU離脱の大混乱でスプ20銭が普通の中、1.19銭をキープしたFX会社とは?

この、ほこ×たて対決、今回はどうなったのだろうかと、8時6分から15分までの1分足四本値(始値・高値・安値・終値)すべてについて、同じようにSBI FXトレードのビッドとアスクの差を調べてみた。
すると、すべての足、すべての価格について擬似スプレッド、スプレッド(※)は1.49pips。なんなんだ、この会社……。ちょっと驚異的だ。
(※編集部注:ビッドとアスクは高値と安値については、完全に同じ時刻につけるとは限らないため、ビッドとアスクの差は「擬似スプレッド」となるが、始値と終値については完全に同時刻と考えられるため、ビッドとアスクの差は正式な「スプレッド」を示していると考えられる)

※SBI FXトレードの10月7日(金)午前8時6分から15分までの1分足四本値のビッドとアスクから算出
■インターバンク市場との乖離をどう考えるか?
ただ、ケチをつけるわけではないが、SBI FXトレードにまったく問題がないわけではない。竹内さんが教えてくれたように、あるいはブルームバーグが報道しているように10月7日(金)の英ポンド/米ドル最安値は1.1838ドル前後と考えられる。それに対して、SBI FXトレードの最安値は1.205897ドルと、200pips以上の乖離がある。
うがった見方かもしれないが、「いくらスプレッドが狭くても、市場の実勢レートと乖離しているのはどうか」とする向きもあるだろう(とはいえ、「市場の実勢レート」という概念が通常時に比べると、あいまいであるのは確かだが…)。
英ポンド/米ドルを売っていて、1.20ドル割れに利益確定の指値を入れていた人だって、ガッカリしたかもしれない。
また、これはSBI FXトレードに限った話ではないが、提示したレートできちんと約定したかどうかは、また別の問題となる。
反対に基準となりそうな1.1838ドルの安値から大きく下に乖離したレートを提示したのはセントラル短資FX、ヒロセ通商、JFXの3社などが挙げられる。ただ、ロイターによれば安値は1.1491ドルだったから、おそらくこの3社のカバー先は1.18ドルを大きく下回るプライスを出していたのだろう。
殺人通貨が本領を発揮した8月7日(金)の英ポンド殺人事件。FX会社の特徴や実力、考え方を測る良い機会でもあったのかもしれない。
(取材・文/ミドルマン・高城泰)
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