■これほど「リスクオフ」が話題になった年はない
みなさん、こんにちは。
激動の2016年も残り少なくなってきました。
振り返ってみれば2016年ほど、「リスクオフ」が話題になった年はないのではないでしょうか?
英国がEU(欧州連合)から離脱する、ドイツ銀行が破綻する、中国経済がハードランディングする、トランプ米大統領が誕生するなど……。
これらの中には、ウワサだけで終わったものもあるのですが、Brexit(英国のEU離脱)とトランプ米大統領の誕生は、現実となっています。
【参考記事】
●EU離脱ショックで英ポンド暴落! 米7月利下げ観測も浮上! ドル/円、次は95円へ(6月24日、西原宏一)
●レーガノミクス再来か。トランプ次期大統領のトランポノミクスのもと、ドル/円は109円へ(11月10日、西原宏一)
■Brexitにトランプ氏当選でも円高は一時的だった
では、マーケットが懸念したように、大規模なリスクオフが起きたのか?
つまり、グローバルな株価の急落と、円高が実現したのか?
答えは「ノー」です。
今世紀最大と言われたBrexitという負荷がマーケットにかかったとき、米ドル/円は99.02円まで円高が進みました。

(出所:Bloomberg)
予想外にトランプ米大統領が誕生した時点での米ドル/円の安値は101.20円でした。

(出所:Bloomberg)
マーケットが恐れていたことが現実化したわけですが、円高は一時的な現象で終わっています。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 週足)
■リスクオフの円高は米ドル買いの好機に
2008年までの金融市場では、円キャリートレード(※)がもてはやされており、グローバルに円ショートのポジションが増殖していました。
(※編集部注:「キャリートレード」とは一般に金利が非常に低い通貨で資金を調達し、それを相対的に金利の高い通貨に替えて運用する手法のことをいう)

(出所:Bloomberg)
しかし、リーマンショック以降、金利がゼロなのは円だけではありません。
ユーロもマイナス金利に突入するほどの低金利となっています。
そして、かつては高金利通貨といわれた豪ドルですが、現在の豪州の政策金利はわずか1.50%という低金利に…。
【参考記事】
●豪ドルを買う理由がなくなってしまう!? 米ドル/円は「買い遅れ組」の動きに注目!(12月19日、西原宏一&大橋ひろこ)

(詳しくはこちら → 経済指標/金利:各国政策金利の推移)
このような状況では、マーケットに大きな負荷がかかっても、リスクオフの円高は継続しません。巻き戻すだけの円キャリーポジションが存在しないからです。
2017年には米国は3回ほど利上げすることが予測されているため、来年(2017年)にかけて円キャリーポジションというものが再び脚光を浴びるようになるかもしれません。

(出所:Bloomberg)
ただ、それは来年(2017年)の話。
今年(2016年)の相場を振り返ると、リスクオフトレードによる円高は長続きしませんでした。
短期的な円高で終わることが多いため、「リスクオフによる円高」は、むしろ米ドル買いの好機となっているという認識は当面、持っておいたほうがいいかもしれません。
■米ドル買い遅れ組多数で米ドル/円の下値は限定的
ともあれ、トランポノミクスへ(※)の期待を背景にした米ドルの急騰は目を見張るものがあります。
(※編集部注:「トランポノミクス」とは、次期米大統領のドナルド・トランプ氏とエコノミクス(経済学)を合わせた造語で、トランプ政権が進める経済政策を指す)
筆者も長期に渡って為替市場にお世話になっていますが、1カ月強で米ドル/円が17円もの暴騰を演じた相場はまれです。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
これが意味するものは、多くのマーケット参加者は依然、米ドルを買い遅れていることを示唆しています。
【参考記事】
●豪ドルを買う理由がなくなってしまう!? 米ドル/円は「買い遅れ組」の動きに注目!(12月19日、西原宏一&大橋ひろこ)
これはある意味、当然の結果といえます。
11月の米大統領選においては、「ヒラリー氏の勝利となれば、すでに織り込まれているので円高、まさかのトランプ氏の勝利となれば、問題なく円高へ」というのが東京市場のコンセンサスでした。
トランプ米大統領の誕生は「財政拡大と米利上げ」により、米ドル高であるという米国のコンセンサスとは大きな違いがあったからです。
結果、米ドルを買い遅れている参加者が多数残されている米ドル/円相場の下落余地は限定的といえます。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
一方、視点を変えると、今年(2016年)の米ドル/円の動向も米国側の意向が色濃く落ちていることがわかります。
今年(2016年)初頭の米ドル/円は米国と中国で上海合意なるものが交され、米ドル/円は15%~20%ぐらいの調整があるのでは…とウワサされていました(前回のコラムを参照)。
結果、100円レベルまで米ドル/円は急落。
【参考記事】
●安倍首相が米国に「介入しない」と宣言!? 上海合意で、米ドル/円は100円も視野に!(4月7日、西原宏一)
●上海合意で「株高・資源高・米ドル安」が進行中だが今後の狙いはユーロ/円の上昇(4月21日、西原宏一)
●米ドル高のスピードに市場参加者も驚愕! 来年のドル/円は130円へ上昇の可能性も(12月15日、西原宏一)
その後、夏場にかけて、その上海合意は破棄されたという報道が流れます。
そのウワサとともに円高の進行は停止。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 週足)
そして、トランプ米大統領の誕生とともに、急激な米ドル高に。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 日足)
■米国が拒まなければ、米ドルは上昇する?
今年(2016年)の米ドル/円相場を振り返ると昔、銀行の先輩が教えてくれたことを思い出します。
「米ドルは何もなければ、ナチュラルに上昇する傾向がある、米国がそれを拒まない限りは…」
米国には、世界最大の金融市場があります。
多種多彩な金融商品を揃えており、流動性も確保されています。
新興国のように、突然投資家に不利な法律が生まれ、資金を引き出せなくなるリスクもありません(ゼロではありませんが…)。
トランプ次期米政権で財務長官に指名されたムニューチン氏のコメントにもありますが、仮に2017年、米国が3~4%の経済成長率を達成することができるのであれば、グローバルな資金はさらに米国に向かうはずです。
【参考記事】
●米次期財務長官は元GS・ムニューチン氏。強気材料豊富なドル/円、次は120円へ!(12月1日、西原宏一)

トランプ次期米政権で財務長官に指名することが発表された、ゴールドマンサックス出身のムニューチン氏。 (C)Bloomberg/Getty Image
金利も正常化に向かっています。
連続利上げが予想されている通貨が上昇するのは自然な現象です。通貨高を拒むのであれば、利上げをしなければいいわけですので…。
つまり、現在の米国は、米ドル高を拒んでいないということになり、米ドルはナチュラルに上昇することになります。
結果、2017年も米ドル高が進行。
米ドル/円は、前回の高値である125円レベルを超えるのは時間がかかるため、一度大きく戻されるかもしれませんが、上記の理由から米ドル高は継続し、結局、130円に向けて上昇すると想定しています。
【参考記事】
●米ドル高のスピードに市場参加者も驚愕! 来年のドル/円は130円へ上昇の可能性も(12月15日、西原宏一)
■米当局が認識を変える? 行き過ぎた米ドル高に注意
このストーリーでのリスクは、米国側のスタンス。
ある程度、米ドル高が進行し、トランプ政権で「現行の米ドル高は米国の雇用を奪う」という意見が拡大したときは要注意です。
前述した「米国がドル高を拒ばない限りは…」という条件が崩れたときは、米ドル/円が猛烈な調整をみせることになるため、米当局の通貨(米ドル)に対するコメントには注意が必要です。
ともあれ、このところFRB(米連邦公開市場委員会)議長のイエレンさんも、米ドル高への言及が見られなくなりました。
よって、2017年も基本的に米ドル高継続。
リスクは米当局が「米ドル高は米雇用を奪う」と認識を変えるまで、米ドルが急騰した局面です。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 週足)
トランポノミクスを背景に急騰する米ドル/円相場。スピード調整の可能性はあるものの、130円に向けて続伸する米ドル/円相場に2017年も注目です。
本年も「ヘッジファンドの思惑」を購読していただき、ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。
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