■トランプ氏の政策に驚くのはおかしな話
米ドル安が続いている。株の反落と相まって、「市場がトランプ氏の政策に驚かされた」といった解釈が巷に蔓延し、また、そういう解釈の出所に限って、それ以前はトランプ氏を礼賛していた人々だったりするなど、やや滑稽な雰囲気が漂う。

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(出所:Bloomberg)
今さらトランプ政権の政策に驚くのは、自らの愚かさを証明するようなものだと思う。
なにしろ、トランプ氏は最初から諸政策を主張し、今「有言実行」しているだけだ。筆者自身はトランプ氏に好感を持たず、また、トランプ政権の保守主義に失望するが、トランプ氏の「有言実行」の姿勢、政治家として近年稀な存在だから、憎めないと思う。
選挙前の公約を守るどころか、当選後に公約を完全に裏切る前例が、内外を問わずあまりにも多かっただけに、トランプ氏の公約を守る姿勢、また、強い反対があっても推進していく姿勢には、ある意味、「敬意」を払わざるを得ない。
したがって、7ヵ国の難民入国禁止にしても、日欧の為替政策への露骨な批判にしても、トランプ氏が選挙前から主張してきた話からすれば、まったく違和感がなく、当然の成り行きとさえ思える。
■トランプラリーの反動、この程度なら容認範囲
今さら驚かされるような解釈をしている方々は、トランプ氏の主張をきちんと理解していたかどうかを疑われる上に、政治家とは「有言不実行」の方が常識だ、と言いたがっているのでは…と思われる。
だから、トランプ氏を最初から批判しているならば問題ないが、トランプ氏の当選をまったく予想できなかった上、ただ、「トランプ・ラリー」に便乗し、それをもって一転してトランプ氏礼賛に回った人々の愚痴は、今さら聞く必要はまったくないといえる。

「有言不実行」の政治家が多いなか、トランプ氏は「有言実行」の普通のことをしているだけか
(C) Chip Somodevilla
つまるところ、「トランプ・ラリー」をトランプ氏の功績と礼賛し、足元の「トランプ・プルバック(PULLBACK)」をトランプ氏のせいにするのは、一部市場関係者のエゴにすぎない。
トランプ氏はまったく変わっておらず、変わったのは一部市場関係者の勝手な評価である。彼らが自らの変節をもってマーケットを勝手に解釈しているから、余計な混乱がもたらされているとも言える。
確かにトランプ氏の露骨な発言で米ドルがまた反落余地を拡大し、米ドル安も延長されてきたが、行きすぎた「トランプ・ラリー」に対する反動、また、スピード調整という意味合いでは、足元までのこの程度の米ドル安は容認範囲である。
また、米大統領とはいえ、為替市場に対する口先介入があっても、実はそのインパクトは限定的だと思う。
■2月2日安値が下落ウェッジの下限に合致
このような見方を証左してくれるのはほかならぬ、マーケット自体の内部構造である。
マーケットは万衆の判断や思惑の大集合によって成り立っているから、その内部構造はファンダメンタルズの「諸行無常」を、先見の明をもって織り込んでいるはずだ。
ましてやトランプ氏が打ち出している諸政策は、最初から主張されてきたものだけに、別に先見の明がなくても、予想できた材料のはずだ。マーケットが今さら驚き、また、突然軌道修正してきたわけではないから、ジタバタする必要はない。
前回のコラムでもドルインデックスを分析していたが、その延長でいうと、1月30日(月)の高値打診は4回目の「ダマシ」であった。
【参考記事】
●米ドル反落はコップの中の嵐。ドル/円は115.62円突破なら戦略的高値追いも!(2017年1月27日、陳満咲杜)

(出所:Bloomberg)
「ダマシ」があるたびに、「下落ウェッジ」というフォーメーションが新たに引かれるものの、同フォーメーションの健在は証左されている。昨日(2月2日)の安値が、同フォーメーションの下限に合致しているところは見逃せない。
■米ドルの下値ターゲットをどのように推測したか
実際、昨日(2月2日)のザラ場でも、米ドルの下値が限定的なものになることは推測できたはずだ。筆者の昨日(2月2日)のレポートでは、下値ターゲットの推測を内部構造に沿ったロジックをもって書いたから、開示しておきたい。

(出所:Bloomberg)
ドルインデックス・限界を探る
ドル安は続いている。しかし、ドルの反落、すでに最終段階に位置、また反落の限界に差し掛かっている、という見方は不変。新年に入ってからの内部構造を再点検し、同見方を検証しておきたい。
新たなカウントでは、昨年12月15日高値ではなく、先月3日高値の103.82をこの前の上昇波のトップと数え、同高値から反落波が展開してきたとみる。この場合、大型ウェッジといったフォーメーションの構築自体は変わらないが、内部構造のほう、ダブルジグザグ変動
として見直される。
同カウントでは、W-X-Yといった変動子波にうち、WとYは推進子波と数え、子波自体のジグザグ構造に鑑み、a≒c、即ち値幅が概ね同等という変動リズムが確認される。同じ計算では、99.00~99.30前後は今回の下落ターゲットとして得られるから、下落余地が限られると見る。(※1≒2、3≒4)
もっとも、同計算値が示す下値ターゲット、大型下落ウェッジの下限ラインと合致しているから、蓋然性が高いと思われる。近々底打ちのサインがあれば、ドルの反騰を見込める。
■クロス円の動向が今後の米ドルの大きなヒントに
このようなロジックが正しければ、完全に一致ではないが、基本的に米ドル/円は112円の節目前後にて調整波(反落)を完成した公算が高く、また、ユーロ/米ドルは1.08ドル前半にてすでにリバウンドの限界を探った可能性が大きいとみる。

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(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 日足)
その上、これからはクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)の動向が大きなヒントを示唆してくれると思う。何しろ、巷でトランプ政権の船出が大きなリスク要素と解釈され始めた今、本当にリスクオフになれば、クロス円は総崩れになっていくはずだ。
逆に言えば、クロス円が堅調に推移していくなら、トランプ政権の新政がたちまちリスク要素にはならないと思う。筆者の主張が後者の方であることは言うまでもないが…。
■本日の米雇用統計は米ドル全体反発の好機か
本日(2月3日)は米雇用統計があって、実は米ドル全体反発の好機だとも思う。もちろん、事前に米雇用統計の中身を予想できる人はいないから、筆者の感触は、あくまで経験則である。
マーケットは上にいくにしても、下にいくにしても、なんらかのイベントをもって大きく転換する習性をもっているが、あとからみればわかるように、イベント自体は二の次だ、というケースが多い。
昨年(2016年)1月末、日銀のマイナス金利導入決定後の相場は記憶に新しいから、本日(2月3日)夜は、一層相場のシグナルを見逃せない。市況はいかに。
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