■買い越しに転じてから1カ月、急過ぎるユーロ買い
先週(5月22日~)の主役はユーロ。
とくに目を引いたのはドイツのメルケル首相による、「ECBの金融緩和政策の影響で、ユーロは弱すぎる状態だ」との発言です。
学生向けの講演での発言であり気にする必要はないとの意見もありますが、ユーロを底堅くする材料とはなるでしょう。
【参考記事】
●メルケル発言よりも本邦勢の欧州投資がユーロに追い風! 130円突破なら135円へ(5月25日、西原宏一)
気になるのはIMM(国際通貨先物市場)のポジション状況。
投機筋のユーロ買いは6万4845枚と2013年以来の高水準まで積み上がりました。買い越しに転じたのが5月2日(火)なので、ユーロ買いのペースがものすごく速い。
これだけ買いが積み上がると、いったんは上がりにくくなるかもしれないですね。
(詳しくはこちら → 経済指標/金利:シカゴIMM通貨先物ポジションの推移)
チャート的にもユーロ/円は125.80円で2回止められて、ダブルトップを形成中。今週(5月29日~)は調整が入るかもしれません。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/円 日足)
■米国債の買いポジションは2007年以来の高水準に
6月13日(火)~14日(水)のFOMC(米連邦公開市場委員会)に向けて、今週(5月29日~)は、30日(火)深夜に、FRB(米連邦準備制度理事会)のブレイナード理事の講演が、6月2日(金)には米雇用統計もあります。
今週(5月29日~)の主軸はユーロから米ドルに移るかもしれないですね。
米雇用統計は6月2日(金)21時30分の発表
(詳しくはこちら → 経済指標/金利: 米国主要経済指標の推移)
6月FOMCでの利上げはほぼ確実な情勢となっています。
過去の利上げを振り返ってみると、一昨年(2015年)12月の利上げでは米ドル高、昨年(2016年)12月も米ドル高でしたが、原因がトランプラリーなのか利上げなのかは判然としません。
今年(2017年)3月の利上げでも直前に米ドル高が進みましたが小幅。こうして見ると「利上げで米ドル高」の構図は確実に薄れてきていますね。
利上げするごとに高値を切り下げてきていますし、利上げという材料だけで米ドル高に持っていくことは難しいでしょう。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 日足)
気になる材料が米国債先物市場。
1カ月前にも米10年債の投機筋ポジションが積み上がっていると話しましたが、先週(5月22日~)はさらに増加して2007年以来の高水準です。
この買いポジションが解消されれば米金利の上昇圧力となり、米ドル/円には好材料となります。
【参考記事】
●セル・イン・メイで暴落イメージの5月だが、なぜ、今年は上昇を警戒すべきなのか?(5月1日、西原宏一&大橋ひろこ)
(出所:Bloomberg)
一方で今週(5月29日~)はコミー前FBI(米連邦捜査局)長官の議会証言も開催されるかもしれず、こちらは何が出てくるかはわかりませんが、悪材料となる可能性がありそう。
■日経リンク債が阻む日経平均2万円の壁
米ドル/円では110円台に入ると機関投資家のヘッジ外しやM&Aに備えた米ドル買いが出てくることもあって、急落するような感じはありません。
米10年債のポジションから見ても、110円から115円程度でのレンジを中心にしながらジリ高で推移するのかなと思います。
(出所:Bloomberg)
日本株では日経平均2万円が近くて遠いですね。あと100円が届かない。報道によると、2万円にタッチすると償還となる日経リンク債の残高が1兆円規模で設定されているようです。
2万円に行かせたくない力が強いのかもしれないですね。
(出所:Bloomberg)
先週(5月22日~)、OPEC(石油輸出国機構)総会があった原油はどうですか?
9カ月の減産延長となり、このコラムで話したとおり、材料出尽くしによるセル・ザ・ファクトの展開となりました。
【参考記事】
●FRB高官の発言で米6月利上げが濃厚に! ユーロ/ドルは節目の1.13ドルを超えるか!?(5月22日、西原宏一&大橋ひろこ)
(出所:Bloomberg)
以前は原油が急落するとアメリカのエネルギー関連株、ひいてはS&P500が下げることもありましたが、最近ではシェール企業が向こう2年分くらいのヘッジを完了しているようです。
そうであれば、原油急落による米国株下落への不安は薄れますよね。
■ユーロが調整する場面は押し目買いの好機
先週(5月22日~)、ユーロとともに目を引いたのが英ポンド。第1四半期GDP・改定値が1年ぶりの低さとなり売られました。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/円 4時間足)
英ポンドは長期的な底をつけたと見ていますが、短期的には下値余地があり要注意。
ただ、昨年(2016年)には英ポンド/円が米ドル/円を牽引する場面が目立ちましたが、今はユーロ/円の影響のほうが大きいでしょう。
【参考記事】
●メルケル発言よりも本邦勢の欧州投資がユーロに追い風! 130円突破なら135円へ(5月25日、西原宏一)
イギリスでは来週(6月5日~)、8日(木)に総選挙を控えています。保守党の圧勝ムードでしたが、労働党の支持率が急伸したことも英ポンド売りを誘ったようですね。
総選挙をにらんで英ポンドは神経質な展開が続きそうです。
原油や英ポンドの下落を見るとリスクオフのようにも見えますが、株式市場は堅調。かといって株式市場が強いときに買われやすい豪ドル/円は軟調。
結局、リスクオフやリスクオンという文脈ではなく、次のテーマが出るまでのゴルディロックス=生ぬるい相場なのでしょう。
そんな中、テーパリング(※)という中長期的なテーマがあるユーロは買い目線継続ですし、ユーロ買いの相手通貨は米ドル/円がジリ高ならば円。
ユーロ/円がダブルトップをつけたこと、IMMではユーロが短期的に買われ過ぎであることから、ユーロ/円は調整する週かもしれませんが、押したところは中長期的な買いの好機だと見ています。
(※編集部注:「テーパリング」とは、米量的緩和政策により、進められてきた資産買い取りを徐々に減少し、最終的に購入額をゼロにしていこうとすること)
(構成/ミドルマン・高城泰)
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