■2017年年初にかけての上昇劇は中国人が演出
「ビットコイン経済圏」の拡大が続いている。
ビットコインをはじめとする暗号通貨(仮想通貨)全体の時価総額は10兆円を超え、ビックカメラが一部店舗で決済手段としてビットコインを試験導入するなど、ビットコインをショッピングなどに使えるケースも増えている。4月には仮想通貨法が施行されたし、当サイトでもたびたびお伝えしている暗号通貨の名を借りたトラブルの増加も注目の裏返しと言えるだろう。
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ニュースなどで取り上げられる機会も増えた今、なぜ、ビットコインが上昇しているのか。これからのポイントはどこにあるのか、ざっと見ていこう。
まず、ビットコイン/円の週足チャートを見ると、価格が10万円を突破し、史上最高値を更新したのは昨年(2016年)末から今年(2017年)1月にかけての上昇だった。このときの上昇劇を演出したのは中国人だ。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ビットコイン/円 週足)
下図を見れば一目瞭然だが、今年初めまでビットコインの出来高の9割以上を占めていたのは中国人民元建ての取引だった。資本規制の厳しい中国で、国境を超えた送金が容易なビットコインが着目され、国民性とも言われる投機熱の高さもあって、中国でのビットコイン取引は急増した。
この図の統計に含まれる日本の取引所は2社だけなので、実際には円建ての取引比率はさらに高いと思われる
※Bitcoinity.orgのデータより筆者作成
■4月以降は日本人が買い意欲旺盛。ジャパンプレミアムも…
しかし、過熱するビットコイン熱に対して、中国の中央銀行である中国人民銀行が動いた。取引所からの引き出しを禁止するなど規制を著しく強化し、中国人民元建ての取引は1月に急減。20%程度へと落ち込んでいる。
中国人民元建てに代わるようにして存在感を高めているのが、日本人による円建て取引だ。年初には全通貨中、円建て取引の比率は1%にも満たなかったが、5月になると10%近くまで増加。
米ドル建てなどのビットコイン価格を円建ての価格が上回る「ジャパンプレミアム」も発生している。日本人の買い意欲が旺盛なためだ。
最初に触れたとおり、日本では4月に仮想通貨法が施行されたが、それと歩調を合わせるかのようにビットコイン/円は15万円を突破して上昇。5月には30万円の大台を突破するところまで急上昇した。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ビットコイン/円 週足)
■暗号通貨上昇の主役はビットコインではなく「アルトコイン」
春先以降のビットコイン急騰劇を演出したのが日本人だとすれば、その主役を演じたのは「アルトコイン」(※)だ。
(※編集部注:「アルトコイン」とはビットコイン以外の暗号通貨のこと。オルトコインと表記されることもある)
ビットコインは暗号通貨の第一号であると同時に代表格でもあるが、その機能に対して不満の声もある。代表的なものが「取引の承認に10分以上もかかるなんて……!」という声だし、最近では「取引の承認だけでなく、もっといろいろなことを非中央集権型で実現できたらいいのに!」という声もある。
そこで生まれているのが、ビットコインのプロトコルを改変した新たなコインだ。
ライトコインはビットコインの次に生まれたアルトコインの元祖だし、イーサリアムはビットコインに次ぐ時価総額2位。マウント・ゴックスの創業者でもあるジェド・マケーレブが開発メンバーとなって生まれたリップルは、そのネットワークを利用した国際送金を三菱東京UFJ銀行がめざすことを発表したことで注目されている。
■「アルトコイン」の急騰で暗号通貨の時価総額は10兆円に
以下の図は、アルトコインを含む暗号通貨全体の時価総額の推移だ。昨年(2016年)末まで2兆円程度だったが、足もとでは10兆円程度まで拡大している。
日本の株式市場で言えば、時価総額トップのトヨタ自動車が約18兆円、NTTやNTTドコモ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、ソフトバンクが2位グループで10兆円強と、ほぼ同規模になる。
※CoinMarketCapのデータより筆者作成
では、暗号通貨の時価総額拡大のドライバーとなったのはなにか――。同じ図をコイン別に示すと、それが明確になる。
ご覧のとおり、ビットコインの時価総額も増えてはいるものの、それよりもはるかに大きくアルトコインの時価総額が高まっているのだ。
※CoinMarketCapのデータより筆者作成
円建てのイーサリアムは3月の1500円から6月には5万円手前に、円建てのリップルは3月に1円だったのが5月には50円へと暴騰している。
こうしたアルトコインを購入するには、円や米ドルなどの法定通貨をビットコインに替えて、ビットコインをさらにイーサリアムやリップルなどのアルトコインへ交換するという流れが一般的だ。
そのため、アルトコインへの需要が高まれば必然的にビットコインも上昇するし、暗号通貨全体の時価総額も高まっていく。今春のビットコインを始めとする暗号通貨の相次ぐ上昇が「アルトコイン主導」とされる所以だ。
(出所:Kraken)
■5月に相次いだ異常値と「100万円事件」とは?
ビットコインやアルトコインの急騰でにわかに高まった暗号通貨への投資熱は、思わぬトラブルも引き起こしている。暗号通貨を商材とした詐欺の横行もそのひとつだし、5月には取引所でも異常価格の配信が相次いだ。
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5月1日(月)、大手取引所のひとつであるZaif(ザイフ ※)では1ビットコインが50万円ほどの値をつけた。当時の実勢価格は16万円前後だ。4日(木)には取引所最大手のbitFlyer(ビットフライヤー)で100万円での約定が発生したようだし、大手ポータルサイトでも話題となったのはCoincheck(コインチェック)で9日(金)に100万円を超える価格が提示された事件。当時の実勢価格は22万円程度だった。
(※仮想通貨取引所「Zaif」と当サイト「ザイFX!」は、まったく関係がない)
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ビットコイン/円 日足)
流動性が薄い時間帯に大量の買い注文が発注され、売り板をすべて消化して価格が急騰。信用取引の売りポジションのロスカットが発生し、さらに価格が急騰するといった連鎖が原因と推測される。
明らかな異常値が発生した場合、売買を一時停止するしくみがあれば起こらなかった事件だろうし、これを受けて、ビットフライヤーでは「サーキットブレイカー」のしくみを導入している。
■FXでも行なわれていた「ロールバック」
また、このときに注目されたのが「ロールバック」。つまり、異常値での取引を「なかったこと」にする対応だ。ビットフライヤーやコインチェックはロールバックで対応、ザイフではロールバックを行わず、取引を続行している。
ちなみに過去には、取引所FXの「くりっく365」でも同じような事象による暴落事件が発生しているし、楽天証券では米ドル/円が一瞬、売値103円、買値118円と15円ものスプレッドのレートを提示する事件があったが、いずれも異常値での約定を無効とし、ロールバックが行なわれている。
【参考記事】
●くりっく365が投資家への救済措置を発表。南アフリカランド/円暴落事件の真相とは?
4月からは仮想通貨法が施行され、暗号通貨の取引所は登録制となった。9月30日(土)までは「みなし仮想通貨交換業者」として運営されるが、10月からは金融庁への登録を行なった取引所だけが運営できることとなる。
FXでも最近は異常レートの発生が減少しているように、経験の蓄積や金融庁の監督により、暗号通貨の取引所の体制も整備されてくるだろう。
■「8月1日」が注目される理由とは?
では、これからの暗号通貨はどこに向かうのだろうか。
今、注目されているのは8月1日(火)に控える「UASF(User Activated Soft Fork)」だ。少しややこしい話になるが、ビットコインでは以前から「スケーラビリティ問題」=ブロックサイズ変更についての議論が行なわれてきた。
現在のブロックサイズは1メガ。当初は1ブロックのサイズはその半分にも満たなかったが取引の増加により現在は1メガに近づいており、これでは今後のビットコイン取引の増加に対応できない。これにどう対応するかという議論が行われてきたのだ。
ブロックサイズを拡大させる案もあったが、現在、解決手段として有望視されているのが「SegWit」(セグウィット)。ブロックに記述する「署名」(Witness)を、「隔離」(Segragated)することで1ブロックの容量を実質的に拡大させる方法だ。
今までのところ、マイナー(ビットコインを採掘する人)の反対でSegWitは導入に至っていない。しかし、「ユーザー主導で8月1日(火)からSegWitを導入しよう」という動きが出ている。それが「UASF」だ。
UASFへの対抗案を発表するマイナーも出ており、かつてイーサリアムがETHとETCの2つに分裂したようなハードフォークへの懸念も高まっている。
【参考記事】
●30億円分ビットコインを持ってた!? Krakenのジェシー・パウエルCEOに緊急インタビュー
これは基本的にはコア開発者(デベロッパー)とマイナーの政治的な対立であり、それを嫌気するユーザーも多い。8月1日(火)を前にして手仕舞いし、円や米ドルに戻したり、あるいはイーサリアムやRipple(リップル)など別の暗号通貨に退避させておく動きが出やすそうだ。.
本記事公開後のビットコイン相場とビットコインの分裂問題については、以下の記事もご覧ください。
【参考記事】
●ビットコインはなぜ、急落してから急反発?8月1日だけでなく7月21日も注目の理由は?(2017年7月18日)
●BIP91っていったい何? 7月23日(日)が注目なワケは? どうなるビットコイン!?(2017年7月21日)
■FXトレーダーも注目する暗号通貨
外為どっとコム傘下の外国為替専門のシンクタンク・外為どっとコム総研が行なった調査によると、FXトレーダーのうち、すでに暗号通貨を取引している人はわずか3%程度だ。
(出所:外為どっとコム総研「第96回外為短観 外為短観」)
しかし、「取引してみたい」とする人が約20%もいることを考えると、日本での暗号通貨投資はまだまだ発展途上。暗号通貨全体の時価総額が10兆円程度だから、FX口座や証券口座に入っている資金の数%が暗号通貨へと移動しただけでもインパクトは非常に大きい。
8月1日(火)のUASFがどうなるかは予断を許さないが、為替レートを見ながら横目でビットコインの値動きを気にしておくといいかも。
(ミドルマン・高城泰)
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