■VALU大炎上騒動、その火付け役のひとりは羊飼いさん
ヒカルのVALUで死んだ
— 羊飼い@FX (@hitsuzikai) 2017年8月15日
今日、優待発表するって言うから
今日のストップ高で買い入れてたら
昨日の終値で50000万VALU全部売ってきたw
まだマイナス20万円表記だけど、もう売れないっしょ・・・
これ以外にラファエルも買っちゃったよ
ヒカルは昨日の煽りTwitter消してるし pic.twitter.com/LVW1UzCx4p
2000回以上もリツイートされたこのつぶやき(※)は「羊飼いのFXブログ」の運営者であり、当サイト「ザイFX!」でもおなじみのカリスマFXトレーダー・羊飼いさんのもの。
(※編集部注:このツイートには「今日、優待発表するって言うから」と書かれているが、ヒカルさん本人は優待を発表するような雰囲気を漂わせていたものの、正確には優待を発表すると宣言したわけではなかった模様)
【ザイFX!内の参考コンテンツ】
●羊飼いの「今日の為替はこれで動く!」
株式市場のように自分自身を上場させる「VALU」(バリュー)で起きた、「ヒカル」という著名YouTuberを巡る炎上事件。日本経済新聞が報じるほどの注目を集めた事件だっただけに、これを耳にした人は多いことだろう。そして、この件を着火させた主役のひとりが羊飼いさんだった。
「このツイートが拡散されたとき、『なぜ、羊飼いはVALUなんて取引していたの?』といった質問が多く来たのですが、一言で言うと、VALUのトレードは儲かるからやっていました。
でも、多くの人に知られると儲けられなくなるので、自分のツイッターなどでも今までは言及していなかったんです。
そして、VALUトレードで儲けるノウハウや手法ができあがってきて、資金が順調に増えてきたところで、ヒカルとその一派のVALUをつかまされてしまった、というわけなんです」
羊飼いさんがこれまでヒミツにしていたというVALUトレードのノウハウや手法とはいったいどんなものなのか? とても気になる。その点も含め、「ザイFX!」では、羊飼いさん目線で、今回の「ヒカルのVALU大炎上騒動」を振り返っていきたい。
■VALUの第一印象は「怪しいサービス」
「VALUを最初に知ったのは6月ごろ。『怪しいサービスだな』というのが第一印象でした。しかし、ザイ・オンラインで連載している広瀬隆雄さんやLINEの田端信太郎さんといった有名人も参加し、思った以上に盛り上がっていた。
最近は『とりあえず行動を!』と思っているのでVALUと、さらに同じころに盛り上がっていた仮想通貨を始めることにしたんです」
FXに飽き足らず、ビットコインなどの仮想通貨やVALUにも触手を伸ばした羊飼いさん。仮想通貨への投資も気になるところだが、羊飼いさんは最近、ブログ「羊飼いが仮想通貨に2500万円投入する件」を開設しているので、仮想通貨についてはそちらをチェック!
■幻となった「羊飼いVALU」
「始めるといっても最初はトレードするつもりではなく、羊飼いとしてVA(株券のようなもの)を発行したかったんです。運営側に発行を申請したんですが、審査に落ちてしまった……(笑)」
VAを発行して自分を上場させるにはVALUの運営会社(株式会社VALU)への申請が必要だ。フェイスブックやツイッター、インスタグラムのいずれかで普通に活動している人であれば承認されるはずだが、羊飼いさんはなぜ却下されたのか?
ヘルプには審査が通らないときの一例として、「連携されたSNSアカウントの全てまたは一部が、申請者自身の個人アカウントではないと判断する場合」とある。この項目にひっかかったのかもしれない。
無事に審査に通ると、「田端信太郎さんのVA」とか「ホリエモンのVA」といったように申請した人、それぞれのVA(MY VALU)が発行される。
発行されるMY VALUの量は人それぞれ。SNSでの影響力が大きい人ほど多くのMY VALUが発行されるようになっている。話題のヒカルさんだと5万VAだし、筆者の場合は上限1万VAと表示された。
■価格を吊り上げやすいVALUのしくみとは?
発行されたVAは最初、すべて上場者が持つ。社長が株式会社の全株を持っているようなイメージだ。上場者は保有するVALUを売り出すことで初めて資金を得られる。
「最初から保有するVAを大量に売り出していたら、『需要<<<供給』となり、価格は上がりにくくなりますよね。感の鋭い上場者は売りに出すVA数を絞っています。買いたい人がたくさんいるのに売りに出ているVA数が少なければ、1VAの価格は上がるからです」
価格は青天井に上がるわけではない。VALUには1日の値幅制限があり、前日比50%の上昇でストップ高。翌日になるまでそれ以上の価格では取引できない。ストップ安も同様に50%の下落だ。
「逆に言えば、毎日数VAだけといったように1日の売出し数を絞ることで、連日のストップ高を演出し、価格を吊り上げることが簡単にできるんです。
最初は数百円だったものが簡単に数千円になり、人気の人なら数十万円にまで値上がりします。初期に手に入れられれば、テンバガー(※)なんてザラなんですよ」
(※編集部注:「テンバガー」とは通常は、株式投資で株価が10倍に値上がりする株のことを指す)
■始めたての著名VALU上場者を狙う
羊飼いさんがトレード対象としてのVALUに目をつけたのは、これに気がついてからだ。
「ある程度以上の人気、認知度があり、始めたばかりの上場者のVALUを購入すれば、よほどのことがない限り、ストップ高が続く。そこで毎朝9時前に新着などから有望そうな上場者を探し、ストップ高の水準に注文を入れるのが日課になったんです」
なぜ9時なのか? 6月のサービス開始から急速に利用者を増やしたVALUだが、システム面が追いついていないためか、7月から取引時間が9時から21時の間に限定されているからだ。
■秒単位のスピード勝負! 朝9時のVALU争奪戦
「そのため、朝9時になると注目度の高い上場者のVALUには買い注文が一斉に入ります。しかし、売り出されるVALUの数は限られているので、なかなか買えない。かなりシビアな秒単位のスピード勝負です」
逆に言えば、9時直後のスピード勝負に勝てば、値上がり必至なVALUを買えるということ。羊飼いさんが血道を上げたのもうなずける。
「自分でも注目、共感しているような人がVALUを発行したら、『9時直後に仕込む、ある程度まで上がったら売る』的なトレードを行って、結構儲かっていました。広まってきたとはいえ、VALUは2万人ほどしか参加者がいないマイナー市場。ましてVALU市場はビットコイン建てでの取引です」
VALUは法律の規制を免れるためか、円建てではなく、ビットコイン建ての取引となっている。
「VALU自体の壁、ビットコインの壁と2重の障壁があったため、VALU市場ではシンプルな手法が通用した。そこにやって来たのが今回のビッグネームなYouTuberだったんです」
■YouTuber界のスター「ヒカル」とは?
「ヒカル」という名前、今回の騒動で初めて聞いた人も多いだろうが、YouTuberの世界では2大勢力の一角を担う事務所「VAZ」の看板スター。ちなみにもう一角であり、「ヒカキン」さんなどが所属する「UUUM」は8月末にIPO(株式の新規上場)が控えている。
そんな有名YouTuberであるヒカル、ラファエル、いっくん(禁断ボーイズ)がVALUに上場するとなれば、値上がりを期待するのは当然だろう。
■ヒカルさんのVAは売り出しから4日連続のストップ高
「ヒカルが最初に売り出したのは8月10日でした。初日は上場に気づかず、買えませんでした」
ヒカルさんのVAが売り出されたのは8月10日。初値は0.01195BTC(約5829円、以下、円建てで記載した価格は8月17日時点のビットコイン価格での換算)だった。
50%上昇の8744円、さらに50%ずつ上昇し、1万3115円、1万9673円、さらに2万9509円へ4営業日連続のストップ高。初値から5倍以上に値上がりすると羊飼いさんが考えたとおりの展開となった。けれど、買いたい人はたくさんいて、思ったとおりに、ヒカルさんのVAを買えたわけではなかった。
「その間、ヒカルのVAは買えず。数日遅れて売り出したラファエルのVAを1VAだけ買えたのが8月14日でした」
8月14日の夜、ヒカルさんらはさらに期待を煽るような書き込みをツイッターやVALUで行なう(※)。
「明日からVALU(バリュー)で動き出す予定!」
「裏でちょっと面白いことを企画してます」
そんなふうに言われたら、何か好材料が出るのでは!?と期待するのもムリはないだろう。
(※編集部注:これらのツイートはその後、消去されている)
■運命の8月15日、異変を示した75VAの売り
「その翌朝、8月15日はヒカルが22VA、ラファエルが55VA買えました。そして、価格はこのまま10万円は超えるだろうと思っていたのですが……」
そもそも、前日までは朝9時に発注しても買うのが困難だったヒカルさんのVALUが急に買えたことが異変を示していた。何が起きていたのか。
「ヒカルの所属事務所の顧問であり、75VAを保有する『筆頭株主』だった人物が朝イチですべて売りに出していたんです。売却価格は前日終値でした」
8月10日の初売り出し日に75VAを保有していた顧問。初値5829円で買っていたなら、決済価格が1万9673円なので合計で約103万円の利益になった計算だ。
「ただ、前日の買い煽りもあったので、買いたい人に買わせた上で、価格を吊り上げてくるのだろうと読んだんです」
■発行数の96%の超大口売り。売り主は本人以外あり得ない
さらに異変は続く。
「お昼過ぎ、突然、4万8000VA以上の超大口の売り注文が出てきたんです。ヒカルのVALUの発行総数は5万枚。売りに出したのはヒカル以外にあり得ません。価格は同じく前日終値でした」
市場に流通する数が2000VAもない中で4万8000VAもの売り板が出てきたらどうなるだろうか。売り注文の価格以上への上昇は絶望的だ。
ここで冒頭で引用した羊飼いさんのツイートとなり、ヒカルVALUER(バリュアー=VALU保有者)が抱いた「炎と怒り」は一気に広がり、炎上騒ぎへと発展していったのだった。
■結局、ヒカルさんは最高値近辺でVAを買い戻し
これに対してVALU運営側のリアクションは比較的早かった。炎上騒動が起きた翌日深夜には、以下のような対応を発表する。
(1)「自身で買い戻したい」との意向により、ヒカルさんらのVAへの売買注文をすべてキャンセル
(2)一連の取引でVALU運営側が得た手数料(売買額の1%、自身のVAの売却時は10%)は寄付
(3)利用者保護を最優先したルールづくりの着手
また、ほぼ同時にヒカルさんは以下のような謝罪ツイートを発信すると同時に買い戻しを宣言した。
「今回の一連の取引で僕らが得た全てのビットコインを使って、自分のVAを過去最高値(付近)で買いたいと思います。この金額は5465万円相当(※平成29年8月17日時点の円換算)に該当します」
翌朝になると、ヒカルさんは公約を実行。この日のストップ高水準となる0.06BTCで買い戻しを行なった。最高値は0.06052BTCなので、それを下回る水準だが、前日終値が0.04BTCだったため、値幅制限の上限で発注したということだろう。
翌18日には0.06233BTC付近での買い戻しを約束し、実際に行ったようだ。最高値をわずかに上回る水準での買い戻しということになる。
そして、羊飼いさんも持っていたヒカルさんの全VAを0.06233BTCで無事売った。
■買い戻しに問題はないのか?
この方法だと買取金額の上限=ヒカルさんがVALUから得たビットコインに定められているため、ヒカルさんの懐が痛むわけではないし、最高値での買い戻しとなるため、すべてのVAを買い戻すには資金が足りないかもしれない。
また、すでに売却し、損失を確定してしまった人は救われないし、買い戻しを実行するかどうかはヒカルさん次第。VALU運営側が対応をヒカルさんに「丸投げ」した形とも言える。
もしもVALU運営側が後始末を行うのならば、ヒカルさんのVAにまつわる取引そのものを「なかったこと」にする「ロールバック」という手段もあったかもしれない。
■VALUが抱える大きな問題点とは?
「今回のヒカルさんの事件にはメリットもあると考えています。VALUが抱える構造的な問題を早いうちに表面化させてくれたからです。
大きな問題のひとつが、発行されたVAすべてを上場者が持つということ。同様の事件は今後いつでも起きる可能性があります」と羊飼いさんは指摘する。
現状では、ヒカルさんのような上場者自身による大量の売りを取り締まるルールはない。
VALUのガイドラインにも「上場者が追加でVAを売り出すことで需給関係が崩れる可能性があります」と記載されているし、そもそもVALU自体がまだ「ベータ版」と銘打っているように試験的な段階だ。まだまだ穴だらけに見えるルールの整備はこれから着手していくのだろう。
「それに最初は買い手が奪い合うように買っていっても、流通するVAが増加すれば需給は安定し、よほど魅力がある人でないと価格は低下する。
LINEの田端信太郎さんも最初は価格が高騰し、20万円を超えましたが、今はだいぶ下がって、6万円台になっています。最初に買った人は儲かっても、最後には誰かが損をする、ババ抜きゲーム的な面があるのかもしれません」
保有者にとっては流動性の低さも頭痛の種だ。
「ストップ高とストップ安の範囲内に注文がひとつもない、という状態は珍しくありません。僕の保有銘柄でも、売りたいときに売れないものが出てきています」
■VALUを利用するのはコスプレイヤーがピッタリ!?
「ただ、値上がり益を狙っていた僕が言うのもなんですが、本来の大前提として、VALUは値上がりを狙うものではないのです。
VALU運営側もそれは明確に主張しています。『何かやりたいこと、志はあるけれど資金がない』という人が、目先の活動資金を調達する場所というのが、本来の趣旨なんですよね。
しかし、実際には値上がり目的で買われている面が多々あり、それが今回の事件につながったのだと思います」
羊飼いさんは運営側の趣旨に合いそうな例として、「コスプレイヤーや地下アイドル」を挙げていた。たとえば、コスプレイヤーが衣装代を調達するとか、地下アイドルがライブの開催費用をまかなうためにVALUを売り出したらいいというのだ。
■VALUに優待制度はあるが、あくまで上場者の任意
VALUでは保有者に対する「優待」を設置できる。
たとえば、田端信太郎さんだったら、保有者の告知を10万人以上のフォロワーに対してツイートする「田端砲」を、ザイFX!編集長の宿敵・イケダハヤトさんだったら、いっしょにビールを飲む権利を…といったように、各々が工夫を凝らした優待を用意している。
【参考記事】
●熱狂のビットコイン相場。イケダハヤト氏は再び「靴磨きの少年」となるのか?
「8月14日の夜、ヒカルたちが買い煽ったとき、想像したのも優待の新設でした。YouTuberたちなら優待も設置しやすいし、大々的に発表することで価格を吊り上げようとしているのではないか、と」
昨年(2016年)のヒロセ通商がそうだったように、株式では魅力的な優待の新設を発表すると株価が跳ね上がることがある。VALUでも同じように優待の発表は価格上昇のドライバーとなる。ただし、優待の設置はあくまでも上場者の任意だ。
■SNSと買い煽り
今回のヒカル事件の構図は「SNSで買い煽って価格を吊り上げて売り抜ける」というもの。この構図は株式投資の世界でも見かけるもの。
株式投資なら度を超えた買い煽りは風説の流布や相場操縦として摘発されるが、VALUは金融商品取引法の規制対象外。法律で取り締まることはできないだろう。
ただ、VALUのような最新のフィンテックサービスに対して問題意識を持っている国会議員もいる。
6月の参議院財政金融委員会ではVALUが話題にのぼったばかりだ。奇しくも、まさにヒカル事件当日には麻生太郎財務・金融相が記者会見でVALUについて「消費者保護と新しいものを育てることの両方を考える必要がある」と発言してもいる。
■VALUだってFXと同じく自己責任
しかし、いくら行政が法規制の網をかけようが、SNSでの個人的な発言による買い煽りをすべて規制することは難しいだろうし、最終的には利用する側のリテラシーの問題、ということになる。
自己責任が常識のFXトレーダーなら、まさか「あの人が米ドル/円を買えって言うから買ったのに損した!」なんて文句を言うことはないだろう。自己責任の常識はVALUだろうが、ビットコインだろうが同様だ。
VALUのようなサービス、おもしろさもあるが、利用するときは自己責任が大原則だし、十分に調査した上で投資判断を!
(取材・文/ミドルマン・高城泰)
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